米金融大手ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)が保有する社用ジェット機「ガルフストリームG650ER」(画像は最大航続距離の短い「G650」)とデービッド・ソロモン最高経営責任者(CEO)。
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米金融大手ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)は、株主から経営トップの社用ジェット機使用に関する実態調査の要請を受けたことに加え、全社的に経費支出の見直しを進める必要が出てきたことから、社用ジェット機の追加購入を断念することを決めた。
この決定は、同社が2019年にビジネスジェット「ガルフストリーム(Gulfstream)G280」および同「G650ER」の2機を購入した際に付与された追加購入オプションを行使しないことを意味する。
広報担当によれば、当初の想定通りにオプション行使して3機目を購入した場合、既存2機のいずれかと置き換える計画になっていたという。
ゴールドマンのデービッド・ソロモン最高経営責任者(CEO)は2018年の就任からおよそ1年後、コスト削減効果を計算した結果との理由で、社用ジェット2機を購入している。
同社は当時、経営幹部の移動手段として20年以上利用してきたネットジェッツ(Netjets)経由のビジネスジェット機共同保有より、社用機を購入したほうが安いことが判明したと説明した。
ブルームバーグ(Bloomberg、2021年3月14日付)はそれに加えて、ソロモンCEOがアジアでのミーティングに向かう途中着陸したアラスカでネットジェッツのジェット機が故障して足止めを食った2019年のトラブルが、社用機購入の決断を促したと伝えている。
契約内容に詳しい関係者によれば、ゴールドマンはG280とG650ERの購入に際して、先述のように3機目の追加購入オプションを付与されているが、その背景には、当初ゴールドマンが購入を希望していた最新鋭のプレミアムモデル「G700」(2019年販売開始)の2020年までの納品が困難であることが分かり、ひとまず「G280」と「G650ER」を選んだ経緯がある。
同社広報担当のトニー・フラット氏によれば、3機目として「G700」を購入した場合は購入済み2機のうち一方と置き換える計画だったが、最終的にはソロモンCEOが追加購入の必要なしと判断したという。
「既存機リプレースのオプションをキャンセルしたのは昨年(2022年)のことです」(フラット氏)
本件に詳しい関係者によれば、ゴールドマンが当時デポジット(内金)として預けた数百万ドルは返還されない模様だ。同社の広報担当は、ジェット機の代金関連については一切のコメントを拒否した。
プライベートジェット予約サイト「ジェットリー(Jettly)」のジャスティン・クラッブCEOに聞くと、ガルフストリームのラインナップは非常に人気で需要が高く、デポジット返還不可の対応には納得感があるという。
また、同CEOによれば、デポジットは機体購入価格の5%程度が標準ラインと推測され、実勢価格7500万ドル(約100億円)の「G700」なら375万ドル(約5億円)程度になるとみられる。
ゴールドマンと競合する米金融大手のJPモルガン・チェース(JPMorgan Chase)やモルガン・スタンレー(Morgan Stanley)はかなり以前からプライベートジェットを自社保有し、世界中で行われる顧客や投資家、政府関係者との会合に経営幹部を派遣するためのセキュアかつフレキシブルな交通手段として利用してきた。
しかし、ゴールドマンだけは、ソロモンが経営トップに就任して方針転換を決めるまで数十年間にわたって頑(かたく)なに直接保有を回避して先述のネットジェットを利用してきた。
ガルフストリームのウェブサイトによると、ゴールドマンが保有する2機のうち、機体のより大きい「G650ER」の価格は6500万ドル(約86億円)。
ロールス・ロイス製の高性能エンジン「BR725」(運用上限速度約1142キロ、最大巡航高度5万1000フィート)を搭載、座席数は最大19席。最大航続距離は1万3890キロで、運用中のビジネスジェットとして最長を誇る。
ゴールドマンの保有する機体は2機とも機首から尾翼までブルーとグレーの細いストライプが走るシンプルな塗装が特徴だ。
社用機のフライト記録やCEOの行動予定を詳細に知る複数の人物の証言によれば、ソロモンCEOは、米フロリダ州南東沖バハマの離島にある会員制住宅コミュニティ「ベイカーズ・ベイ・ゴルフ&オーシャン・クラブ」内の自宅をはじめ、個人用途にも社用ジェット機を使いまわしている。
プライベートな使用分については会社に弁済しているため不正行為とは言えないものの、株価の伸び悩みや数千人規模の人員整理、コスト削減の必要に迫られる苦しい状況の下、経営トップは経営にもっと集中して華やかな生活ぶりを披露するのは厳に慎むべきと考えるパートナーの中には、CEOのビジネスジェット機私用を快く思わない者もいる。
また、内情に詳しい複数の関係者によれば、少なくとも株主の1人(もしくは1社)から、ソロモンCEOによる個人用途の社用機使用および(社用機保有に関する)費用対効果分析について詳細な情報を提供するよう、ゴールドマンのIR(投資家情報)部門に要請が来ている模様だ。
この株主からの要請について広報担当にコメントを求めたが拒否された。
「機内シャワー」は困難に
ゴールドマンは1月17日に2022年第4四半期(10〜12月)決算を発表。売上高に相当する純営業収益は前年同期比16%減の105億9000万ドル、純利益は同66%減の13億3000万ドルと劇的な落ち込みを記録し、従業員総数の6%に相当する3200人を削減する計画を明らかにした。
上記決算で総営業費用は前年同期比11%増の81億ドルと大幅に膨らんでおり、ソロモンCEOはコストの徹底削減を目指し、エリカ・レスリー最高総務責任者(CAO)を全社的コスト見直しの責任者に指名した。
内情に詳しい関係者によれば、レスリー氏はコスト削減の主要な対象として、消費者向け金融サービス部門やテクノロジー部門などを検討しているという。
また、英フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)の1月10日付記事によると、社用ジェット機への支出も見直しの対象とされている模様だ。
なお、3機目の追加購入オプション行使を破棄したことで、ソロモンCEOは社用ジェット機でのフライト中に入浴する選択肢を諦めざるを得なくなった。
ビジネスジェットに詳しい関係者によれば、ゴールドマンが追加購入を計画していた「G700」は、シャワー付きの広いバスルームを設置できる仕様になっている。
ゴールドマンは社用ジェット機の自社保有を検討開始してからの一時期、シャワー付きの機種を俎上に載せていた。しかし事前調査の結果、リビングエリアをシャワー付きの構成にすると航続距離が短くなる問題が起きることが判明し、断念した経緯がある。