アマゾン(Amazon)は2022年に配送事業大手4社の中で唯一、取扱数量で前年並みの維持に成功した。
Brendan McDermid/Reuters
パンデミックの発生を受けてEコマース(ネット通販)需要は驚異的なペースで拡大したものの、パンデミックが収束に向かうとともにその熱狂は冷めていった。
とは言え、Eコマースの利用とそれに伴う荷物の配送量はパンデミック以前の水準まで逆戻りしたわけではない。
郵便・物流機器大手ピツニーボウズ(Pitney Bowes)のバイスプレジデント、ビジェイ・ラマチャンドランは「2022年のアメリカの宅配荷物の個数は、パンデミック以前に予測されていた水準よりはるかに多い数でした」と説明する。
ピツニーボウズが3月28日に発表した最新の「パーセル・シッピング・インデックス(小包配送指数)」によると、2022年に宅配事業者が取り扱った荷物は212億個で、パンデミック直前の2019年時点の予測数量を11億個上回った。
宅配荷物個数の実績と予測。緑の丸囲みが2022年実績。2020〜21年の配送数量増加が際立つ。
Pitney Bowes
Eコマース需要が減退したことで、取扱数量は2021年に比べて2.2%減ったものの、2019年との比較では37%以上増えている。
パンデミック期間中の2020年と21年は、10年分の成長を1年で達成するほどの急激なペースで宅配荷物が増えた。
宅配事業者の経営者たちが祝杯を上げる一方で、配送キャパシティをはるかに超える荷物量に対応するため、現場のドライバーや物流倉庫の従業員たちは強いストレスと多くの犠牲を強いられた。したがって、2022年に入って荷物量が微減したことは、現場にとっては多少の慰めだったと言えるだろう。
UPS(ユナイテッド・パーセル・サービス)、フェデックス(FedEx)、USPS(アメリカ郵政公社)、アマゾン(Amazon)の宅配大手4社は取扱荷物の急増に対応するため、3年間かけて物流拠点や現場従業員を増やして配送キャパシティを拡大した。
そしていま、荷物量の減少を受けて、膨れ上がったキャパシティをどう調整するかが深刻な経営課題として浮上している。
パンデミックの最中は在宅勤務が当たり前となり、ネット経由で注文した商品を自宅で一刻も早く受け取りたいという即配ニーズが高まった。それがいまやオフィス出勤の機会が増え、在宅勤務と組み合わせたハイブリッドワークが普通になり、宅配ニーズにも影響を及ぼしていると、ラマチャンドランは指摘する。
「いまは(在宅と出勤の組み合わせ次第で)スケジュールがいろいろ変わります。そうなると、多くの消費者にとって重要なのは、荷物がただただ早く届くことではなく、いつ届くかを正確に把握できることなのです」
届く荷物が何か重要なものであれば、それを受け取るために外出をしないくらいの調整は多くの人がフレキシブルに対応できる。それでも、もはや毎日家にいる生活ではないので、いつ届くのか時間くらいはきちんと把握しておきたいのが現実だ。
それに、宅配ニーズの変化についてもう一つ例を挙げると、Eコマースはまだまだ使いつつも、週に一度くらいはスーパーに必需品の買い出しに出かける、といった選択をする家庭も増えてきている。
こうした生活パターンの変化と宅配荷物の減少という新しい現実の中で、宅配業界における勝ち組と負け組の明暗もはっきり分かれてきている。ピツニーボウズの発表した最新の小包配送指数から、それを読み取ることができる。
[負け組]フェデックスとアメリカ郵便公社
「取扱数量よりも採算重視に舵を切る」
小包配送指数の調査によれば、2022年に宅配荷物の取扱数量が最も減ったのはフェデックスだった。取扱数量は4.8%減少し、数量ベースの市場シェアは2021年の19%から変化がなかった。
フェデックスに次いで取扱数量が減ったのがアメリカ郵政公社(USPS)で、宅配荷物の個数は3.2%減少した。市場シェアは32%で、フェデックス同様に2021年から変化がなかった。
取扱荷物数量の2021年から22年にかけての変化。左からUSPS、UPS、アマゾン、フェデックス、その他。
Pitney Bowes
直感的には、取扱数量の減少は経営に直接的な打撃を与えそうだが、必ずしもそうとは限らない。
宅配需要が急増したパンデミックの最中、大手事業者は相次いで配送料の値上げに踏み切っており、結果として配送収入はむしろ増加傾向にある。アメリカ国内での宅配荷物の個数は2022年に前年比2.2%減だったが、配送事業者の売上高総額は同6.5%増の1980億ドルと大きな伸びを示した。
UPSはキャロル・トメが2020年に最高経営責任者(CEO)に就任して以来、数量重視から採算重視に経営方針を転換しており、フェデックスも2022年6月に最高執行責任者(COO)からCEOに昇格したラジ・スブラマニアム氏が、同様の戦略を採用し始めた。
売上高ベースで見た2022年の市場シェアは、UPSが37%、フェデックスが33%で、いずれも前年からの変化はなかった。
売上高ベースの宅配市場シェア、2021年から22年にかけての変化。アマゾンが1%増やし、USPSが1%減らした以外に変化なし。
Pitney Bowes
[勝ち組]中小事業者
「大手の値上げで漁夫の利、ただし現時点での話だが」
小包配送指数で「その他」に区分されている中小事業者の宅配取扱数量は、2022年に25%の大幅な増加を記録した。
西海岸が地盤のオントラック(Ontrac)や、テキサス州を拠点にするローンスター・オーバーナイト(Lonestar Overnight)、中西部を配送エリアとするスピーディ・デリバリー(Spee-Dee Delivery)の地域配送事業者3社は、2021年に合計取扱数量を倍増させ、2022年にもそこからさらに成長を遂げた。
これは、大手宅配事業者が値上げを実施した上、受け入れる荷物の数量を制限したことにより、地域配送事業者に多くの荷物が流れたためだ。
ただし、アメリカの宅配市場では大手4社が数量ベースで97%強のシェアを占めており、「その他」の事業者が取り扱う荷物は全体から見ればほんのわずかだ。
こうした中小事業者は2023年以降も高い成長率を維持できるのか。ピツニーボウズのラマチャンドランは疑問符を付ける。
「小売り事業者の発送数量が減ってきたため、大手事業者による配送料の値引きが(事業者を顧客として惹き付ける上で)効いてくるでしょう」
[勝ち組っぽい]アマゾン
「大手4社で唯一、取扱数量で前年水準を維持」
アマゾンは、自社物流部門のアマゾンロジスティクス(Amazon Logistics)を通じて、Eコマースサイトで販売した商品を宅配する。
パンデミック中は急ピッチで配送キャパシティを拡大したものの、収束後はレイオフ(一時解雇)を繰り返し、物流拠点への投資計画を縮小している。
そのため「勝ち組」とまでは言い切れないが、2022年の宅配取扱数量について大手4社の中で唯一前年並み(前年比0.2%減)を維持することに成功したのがアマゾンだった。
ただし、ラマチャンドランにとって特段の驚きはないという。
「アマゾンは自社サイトで商品を販売している荷主であり、マーケットプレイスに出品する第三者から配送を請け負う宅配事業者でもありますから、取扱数量が減らないのは別に驚くほどのことではないのです」
上の論理を言い換えれば、UPSやフェデックスは配送料を引き上げ、それに応じない荷主からの荷物を断ることができるが、アマゾンは自社サイトに買い物に来る顧客への配送を断ることはできないため、取扱数量が自社の配送キャパシティを超えた場合はUPSや郵政公社に依頼してでも商品を届けるしかない、というわけだ。
宅配市場におけるアマゾンの取扱数量シェアが横ばいになったのは、業界にとって安定化の兆しかもしれないと、ラマチャンドランは考えている。
「アマゾンの2022年の取扱数量シェアが前年並みだったことが示唆するのは、Eコマース需要と宅配業界の配送キャパシティが、平衡状態に達した可能性があるということです」