AnyMind Groupの十河宏輔CEO。悲願のIPOに向けて、今の気持ちを語った。
撮影:竹下郁子
ECやマーケティングなどでブランド・インフルエンサー支援を行うAnyMind Groupが3月29日、東証グロース市場に上場する。2022年3月、そして12月と2度の延期を経て、3度目の正直上場だ。
「今回はやり切らないと」
取材中、同社の十河宏輔CEOは何度もそうつぶやいた。
延期中に黒字化を達成し、機関投資家が事前に購入意志を表示するIoI(Indication of Interest)を国内で初めて実施するなど、注目のIPOの内幕は ——。
スピード再々上場を目指した理由は
AnyMindはこれまで2度の上場承認を受けるも、延期してきた。
1度目は2022年3月。ロシアによるウクライナ侵攻など世界情勢の悪化と、市況の不透明化を受けて延期へ。8カ月後の11月に再上場の承認がおりるも、翌12月、上場予定日の3日前に再び延期を発表。理由は「確認すべき事項が発生」したためとのことだった。
そして今回、3カ月というスピードで再々上場を決定した背景について、十河宏輔CEOは言う。
「上場延期と聞くとネガティブに聞こえますよね。しかも『確認すべき事項』という開示をしているので、重大な問題が起きたんじゃないかと憶測を呼ぶのも当然だと思います。
延期の理由の詳細は主幹事や東証との関係もあって説明できないのですが、従業員や株主、その他ステークホルダーの皆さんの不安を払拭するためにも、スピード感を持って再上場したいと考え動いてきました。
3カ月という短期間で上場を実現できたことで、大きな問題ではなかったと証明できたと思います」(十河さん)
3回目となる今回の目論見書のリスク項目には、1〜2回目からの追記部分があるが、記述内容が上場延期と関係があるかどうかは不明だ。
時価総額は569億円、上場の内容に変化は?
13の国と地域でビジネスを展開するエニーマインド。上場に向けて各国のカントリーマネージャーが来日するため、「東証では珍しい光景が見られるかも」(十河CEO)。
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公開価格は仮条件970円~1000円の上限である1000円。直前の資金調達からダウンラウンドして上場する企業も少なくない中、2022年7月に資金調達した際の株価885円を大きく上回る結果となった。
公開価格に基づく時価総額は約569億円。吸収金額は約30億円だ。
2022年3月、1度目の上場承認時の想定価格に基づく時価総額・約637億円と比較すると、サイズダウンになる。売出し株数は約367万から約180万へ、オファリングレシオ(新規公開株式数に占める公募・売出し株の割合)も約15%から約5%へと縮小した。
初の通期黒字化に、投資家からも高評価
AnyMind Groupの事業成長の軌跡。
出典:目論見書
「2022年3月のIPO予定時に調達する予定だった金額は7月のプレIPOラウンドで確保できたので、そこまで大きくする必要がなかったという背景があります」(十河さん)
12月の上場申請時からは、これからの数字(公開価格、時価総額、売出し株数など)は変わっておらず、「時間がほとんど経っていないこともあり、ストラクチャー自体に全く変化はありません」(十河さん)。
一方で決算には大きな変化があった。2017年から2022年まで売上高において年平均54%の成長を遂げてきたエニーマインドだが、ついに2016年の創業以来、通期で初となる黒字化を達成したのだ。
2022年12月期は約247億9000万円の売上高に対し、約3000万円の営業利益、親会社の所有者に帰属する当期利益は約2億3900万円だった。
前回の上場承認時に開示した業績予想では約1億3200万円の営業損失になると見込んでいたため、大幅な上方修正だ。黒字化したことは、投資家に向けたロードショーでもポジティブな影響があったという。
「1年間で3回のロードショーをして、その度に業績予想を開示してきましたが、ずっと上方修正で着地できているんです。『上場は延期しても数字は結果が出てるね』と、投資家に安心感を持ってもらえました。
特にこの黒字化は大きかったですね」(十河さん)
「従業員1人あたり粗利」をKPIに
撮影:竹下郁子
黒字化の背景には、マーケティング市場、特にエニーマインドが得意とする海外市場では10〜12月に予算を集中投下する広告主が多いという季節性を追い風に、その需要を想定以上に取り込めたことがある。また、アフターコロナによる旅行業界の広告ニーズの復活も大きい。観光の主なクライアントは各国の政府や航空会社、ホテルなどだ。
加えて、社員1人あたりの生産性向上にも注力してきた成果が出始めているためだという。
「初めの上場延期後くらいからでしょうか、『従業員1人あたりの粗利金額』をKPIとして設けて、利益率の改善に務めてきました」(十河さん)
2023年12月期は売上高約327億円、営業利益は10倍の約3億円を見込む。
「上場企業ということもあり、成長投資を続ける一方で、利益も追っていかないといけません。生産性はずっと改善し続けていますし、このあたりは実現可能なラインかと。
営利10倍というと大きく聞こえるかもしれませんが、売り上げ規模からすると、まだまだ改善の余地があると個人的には考えています」(十河さん)
国内オファリング初の「IoI」を実施
取材でエニーマインド社を訪れたのは上場の2日前。この1年で約70人が入社し、オンボーディングも兼ねて出社を推奨しているという社内は、活気に溢れていた。
撮影:竹下郁子
今回の上場で忘れてはいけない点の1つが、機関投資家が事前に購入意志を表示するIoI(Indication of Interest)が実施されたことだろう。IoIは投資家の呼び水の役割を果たす効果があり、これまでfreeeやビジョナルが上場時にグローバルオファリング(国内外同時に株式を募集・売り出しを行うこと)で取り入れてきたが、国内オファリング(旧臨報方式)でのIoIは、エニーマインドが初めてだと同社は説明する。
株式取得を表明したのはアセットマネジメントOneで、その額は最大7億円だ。アセットマネジメントOneがIoIを示したのは、2度目の上場申請時から。延期を経ても同社が表明を取り下げることはなかった。
「機関投資家がこうした表明をしてくれると、他の株主や投資家にも安心感を持ってもらえると思いますし、今のような不安定な市況においてIoIは特に有効な手法だと考えています」(十河さん)
インドネシアとインド市場を攻める
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アセットマネジメントOneが評価したのは、エニーマインドのアジアを中心としたグローバルな成長戦略だ。アジア13の国と地域でビジネスを展開し、2022年12月期の売上高に占める海外売り上げ比率は約53%にのぼる。
上場後も海外市場へは積極攻勢をかけていく。
「いま最も注目しているのがインドネシア、次がインドです。まずはこの2カ国でEコマースやD2Cの支援において、しっかりと市場をとっていきたい。現地企業のM&Aも視野に入れています。
5年以上先の長期的なスパンでは、アフリカへの展開も考えたい。僕らは創業時からアジアという伸び代がある市場でビジネスをしてきました。新興国におけるノウハウは構築できていると思っています」(十河さん)
サービスに目を移すと、EC マネジメントプラットフォームの「AnyX」、会話型コマースプラットフォームの「AnyChat」、物流在庫管理支援の「AnyLogi」の成長率が高く、「D2CとEコマース領域にはが引き続き注力する」(十河さん)。
ChatGPT4などのAIも既存サービスに活用し、成長を加速させる予定だ。
「僕たちが持つインフルエンサーやEコマースのデータを元に、どうAIを活用できるか、調査をしてパイロット的に使い始めている段階です。
全てのプロダクトでAIを活用し、強くしていけたらいいなと思っています」(十河さん)