撮影:今村拓馬
政府によるスタートアップ支援の拡充が注目されている。「スタートアップ育成5か年計画」によると、今後5年で、10兆円規模の投資を進めていく方針だ。
帝国データバンクは、東京都23区内に存在する設立10年以内のスタートアップ企業数2549社を対象にした調査を3月24日に発表した。その内容から、東京都内のスタートアップの状況が見えてきた。
6割増収。赤字前提で事業成長目指す
設⽴年別 平均資本⾦額
出典:帝国データバンク
スタートアップには事業を進める上で「資本」が欠かせない。
帝国データバンクが調査した「設立年別の平均資本金額」によると、設立10年目のスタートアップの平均が約3億500万円と最も高かった。
一方、設立8年目ごろまではほぼ横ばいに推移している。
帝国データバンクの分析では、
「比較的資金調達がしやすい新株発行など『エクイティファイナンス』で得た資金を、事業に行き詰まり、経営スリム化・立て直しの一環として、減資によって負債を縮小させ、バランスシートの改善を多く行われる時期と想定され、設立8年目がスタートアップ経営の拡大と縮小の分岐点とされる時期」
としている。
また、自己資本比率の比較では、設立1年目のスタートアップでは平均92%と高い数値となっている一方で、2年目以降に平均70%を下回っていた。設立2年目以降に資金調達を進めているスタートアップが多いことがはっきりと伺えた。
設立年別業績内訳
出典:帝国データバンク
また、直近の決算を基にした分析では、増収のスタートアップが全体の約6割を占めた。特に設立3年目のスタートアップでは、増収となった企業が約9割を占めた。
「設立まで漕ぎ着けたビジネスモデルの強さが売上に直結している時期とみられる」(帝国データバンク)
一方、全体の6割以上は赤字でもあった。この状況について、帝国データバンクの分析では
「急成長の準備のために目先の小さな利益に囚われず初期投資に資金を投入するスタートアップ企業が多いことが明らかとなった」
と、赤字を辞さずに事業成長を目指す姿勢が顕著にみられているとしている。
事業分野
出典:帝国データバンク
また、スタートアップ企業を事業分野別に見ると、最も多いのがDX分野で12.2%。次いで、バイオ・ヘルスケア、くらし(共に8.2%)、エンタメ(5.7%)、マーケティング(5.5%)、EC(5.3%)、FinTech(4.6%)と続いた。
なお、スタートアップの設立時の社長の平均年齢は、全体平均が37.1歳。設立2年目のスタートアップの場合は40歳だった。
帝国データバンクは、「少子高齢化の影響から、一般企業の創業者平均年齢も高齢化が進む中、シニア向けの起業家支援などの効果も後押ししている」と分析した上で、昨今大学発ベンチャーへの注目度が高まっている中で、弱年齢化が進む可能性があると指摘している。
不動産業界がスタートアップ誘致を加速する
エリア別スタートアップの特徴。
出典:帝国データバンク
また、都内では特定の事業領域のスタートアップが集まっている地域もある。
例えば、かつて渋谷ビットバレーと呼ばれていた渋谷区には、現在「EC、エンタメ、ファッション」などの個人向けサービスを展開しているスタートアップが集まる。
千代田区には、日本の金融の中心地である大手町・丸の内地域などを中心に、DX、FinTech系が集結。同地域では、三菱地所が2016年から日本初のFinTech拠点としてFINOLAB運営。三菱地所はその他にも、Global Business Hub TokyoやInspired.Labなど、スタートアップとの共創を意識した施設を複数抱えている。
また、中央区では三井不動産が取り組む「日本橋再生計画」の中で、産業創出が進んでいる。
その最たる例は日本橋を中心としたコミュニティの形成だ。
日本橋にはもともと名だたる製薬企業が集まっていることから、医療・ヘルスケア系のスタートアップが多い。三井不動産は医療系のスタートアップや大学、製薬企業などの交流やイノベーション創出を狙った場として「ライフサイエンスビルディング」を複数建設、2016年からはオープンイノベーションを促す一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)を設立するなど、流れを加速してきた。
また三井不動産はライフサイエンスだけではなく、宇宙関連産業の活性化も進めている。
クロスユー設立記者会見の様子。2023年2月13日。
撮影:三ツ村崇志
2018年に宇宙ビジネス拠点「X-NIHONBASHI」、2020年にはX-NIHONBASHI TOWERを新設するなど、日本橋地域における宇宙分野の産・学・官連携を促す「場」の整備を進めている。
2021年には、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と日本橋エリアで宇宙ビジネスの創出促進に関する連携・協力を開始するなど、日本橋を宇宙産業の拠点にすべく取り組みを進めている。なお、直近では、2023年2月にオープンプラットフォーム「一般社団法人クロスユー」を設立している。