トルコの遺跡にあった墓と、そこで見つかった釘(囲み写真)。考古学者はこれらの釘について、「不安定な死者の魂」を墓につなぎとめるための「魔除け」だった可能性もあると見ている。
Sagalassos Archaeological Research Project. Claeys et al. 2023, Antiquity, Insider
- ローマ時代の都市遺跡にあった墓で、曲がった釘、石灰、煉瓦が見つかった。
- これらの釘は、死者が生者にとりつかないようにするための魔除けだった可能性がある、と考古学者らは述べている。
- 火葬された者に敬意が払われていたことをうかがわせる遺物も見つかっている。
トルコにある2000年前のローマ時代の貴人の墓で、多数の釘が発見された。死者が生者を悩ませないようにするために使われた「魔除け」用の釘である可能性があるという。
トルコのブルドゥル地方にある古代都市遺跡サガラッソスの考古学調査により、曲がってねじれた釘41本が見つかった。サガラッソスには、紀元前3世紀から紀元後13世紀にかけて人々が暮らしていた。
査読つきの学術誌『アンティクイティ(Antiquity:「古代」の意味)』に、2023年2月21日付けで発表された論文の著者らによれば、この釘は「各種の邪悪な影響力を防ぐ魔除け」として使われていた可能性があるという。
この釘により、被葬者である身元不詳の成人男性を墓につなぎとめ、魂がよみがえらないようにしたのかもしれないと研究チームは考えている。
サガラッソス遺跡の墓で出土した釘。
Sagalassos Archaeological Research Project. Claeys et al. 2023, Antiquity
西暦100年から150年の間に作られたと見られるこの墓では、煉瓦と石灰からなる厚い層の下に、遺体が安置されていた。こうした葬り方は、サガラッソスのネクロポリス(共同墓地)では他に例がない、と論文の著者らはニューヨーク・タイムズの記事で話している。
考古学者が発見した180前後の墓のうち、煉瓦と石灰が使われているのはこの墓だけだ。
そうしたもろもろの儀礼を考えあわせると、この釘は、「火葬に使われた薪の遺物を囲む魔除けのバリア」を構成していたと考えられる、と著者らは論文で述べている。
釘は、魔術と結びつけられることが多い
トルコ・ブルドゥルのサガラッソス遺跡にある「アントニヌスの噴水」。この都市遺跡にある墓地から出土した釘は、「不安定な死者の魂」を墓につなぎとめるために使われていた可能性があるという。
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この釘からは、ローマ人たちが「眠らぬ死者」をおそれ、自分の身を守るためにさまざまなオカルト的慣行を実践していたことがうかがえると論文では述べられている。
論文の筆頭著者で、ベルギーにあるルーベン・カトリック大学の考古学者ヨハン・クライス(Johan Claeys)がニューヨーク・タイムズに語ったところによれば、ローマ時代には釘は高価だったため、誤って捨てられた可能性は低いという。
「(釘は)貴重品だったので、まだ使えるのなら、回収されていたはずだ。しかしこれらは、墓のまわりを囲むように配されており、死者のための釘だったと思われる。そしてその配置には、目的があったようだ」とクライスは述べている。
この研究に関わっていない英リバプール・ジョン・ムーア大学の法医人類学講師マッテオ・ボリーニ(Matteo Borrini)がBusiness Insiderに話したところによれば、釘には魔術的特性があると見なされることが多いという。
「最もよく見られる連想は、苦痛などの何かをそこに固定させることだ」とボリーニは言う。
さらに釘は、死者に呪いを、死後の世界へと運んでもらう目的でも用いられていたという。
「ローマ時代には、誰かに対する呪いを書きつけて釘を打てば、それを墓に固定できるとされていた」とボリーニは話している。
「呪いを書かれた人は、いわば密使のようなものになり、その文字を不滅の精霊に届けます。すると精霊が、生きている特定の人間を追いかけ、責めさいなみ始めるというわけだ」
遺体を守るために釘が使われた可能性も
釘は、地域によっては非道な目的で使われた場合もあるが、今回発見された特定の事例では、遺体を守るために使われた可能性もある。
この墓では、死者が火葬された際に敬意を払われていたことをうかがわせる遺物が見つかっている。したがって、ここに葬られたのは、生前に恐怖の対象だったわけではないと考えられる。
当時、火葬は一般的な葬送の儀式だった。この墓では、陶器やガラスの断片、微量の食物が見つかっていることから、この地域で一般的だった葬儀が執りおこなわれたと考えられる。
墓の近くでは、ガラスの破片、硬貨、何本かの大きめの釘が見つかっている。これらの遺物は、墓を封印する前に丁重な葬儀がおこなわれていたことを示唆している。
Sagalassos Archaeological Research Project. Claeys et al. 2023, Antiquity
ただしボリーニは、ひとつの墓に意味を持たせすぎるのは、考古学によくある落とし穴かもしれない、と注意を促している。この墓が他の墓と様式が違っているのは、単に、死者が別の文化の出身だった可能性もあるし、一風変わった一族特有の儀式にしたがっていたのかもしれない。
「この墓の発見者や、論文の執筆者は、その点をよくわかっていると思う。彼らは論文で、こう指摘している。『何らかの形跡はある。魔術である可能性がある。もっと違う何かかもしれない。だが、確実なところはわからない』」