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4月9日、4月23日に投開票が行われる統一地方選挙。注目ポイントの一つは“女性候補”だ。
現在、日本の国会議員の女性比率は全体の15.4%(2022年9月現在)。 先日、SNSでも話題になった海江田万里氏のツイート(下)だが、男性のみで固められた衆議院の議員運営委員会の写真を見ると、改めて日本のジェンダー後進国ぶりに気づかされる人も多いだろう。
地方議会も状況は変わらない。都道府県議会は、かろうじて東京都が女性比率31.7%だが、ほとんどの自治体が20%にも届かない。むしろ、市町村区議会と合わせた1788地方議会のうち、女性ゼロか1人だけの地方議会は報道機関などの調べによれば全国の38%とほぼ4割に近い。
人口の半分を占める女性が等しく政治の決定権を持たないまま、世の中が本当に健全に回っていくのか。LGBTQ+の権利などさらに遠い夢ではないか —— そんな危機感を強め、変化を求める人々が今、女性立候補者や議員のサポート団体を設立している。
またこうした団体は、政治に対する有権者の意識を掘り起こそうと、選挙ボランティアについて学ぶイベントのほか「より踏み込んだ政治参加」を促す試みを積極的に開催している。
とはいえ実際のところ、女性の立候補者なら投票というわけにもいかない。自分の考えと違う人などには投票はしにくい。女性議員を増やすことは大前提の上で、有権者はどんな点を重視しながら候補者を選び、行動すべきか。
そこで今回は、女性立候補者を対象とするハラスメント相談窓口を設けるほか、女性候補者と議員をサポートする団体「Stand by Women」の代表を務める濵田真里さんと、女性候補や議員の選挙ボランティアやスタッフを経験した、働く一般女性の有権者とで座談会を開催。統一地方選に際し、有権者が投票以外に政治に対してできることのヒントを探った(聞き手はフリーランス記者・三木いずみ)。
濵田真里さん:Stand by Women代表、ジェンダー総合研究所共同代表。専門分野は女性議員に対するハラスメント。大学院で女性議員に対するハラスメント研究を行い、卒業後もお茶の水女子大学ジェンダー研究所東アジアにおける政治とジェンダー研究チーム共同研究者として調査活動を実施。2021年に女性による女性議員・候補者の選挙サポートを行う団体 Stand by Womenを設立。2022年には子育て中の女性の立候補をサポートする「こそだて選挙ハック!プロジェクト」を始動し、母親候補者37人を支援中。
あき子さん(仮名):30代、1児の母。関西地域の人口過疎地で飲食店を経営。2022年、友人女性の市議会議員選挙(初・無所属)をボランティアで支援した。票読みから炊事、ビラ配り、選挙公報の制作の手伝いまで選挙支援のすべてを経験する。候補者は当選して市議になり、現在も仕事の傍ら議員活動の支援ボランティアを続ける。
エミさん(仮名):50代、シングルマザー。西日本の政令指定都市在住のライター。2022年に地元の女性県議の事務所スタッフとして時給勤務。政治活動のサポートや県議の所属政党の候補者の選挙応援を経験する。議員との方向性の違いからスタッフは辞めたが、現在男女を問わず、各地の候補の選挙ボランティアに積極参加中。
女性からの応援、「涙が出る」
—— あき子さんとエミさんは、なぜ女性立候補者・議員を応援したのですか?
エミ:私は、ごく単純に「貴重な女性議員の一席を守りたい」という気持ちからです。
あき子:(立候補者が)親しい友人だったからです。引っ越し先で公私ともにとてもお世話になっていました。でも、「選挙を手伝って」と言われた時は、自分の仕事がめちゃくちゃ忙しい時期で、断るつもりでした。寄付だけして逃げようと(苦笑)。
—— それがなぜ?
あき子:地域の産婦人科の分娩休止が相次いだり、コロナ禍の妊婦へのケアが十分でなかったりと、重大な課題なのになかなか行政と課題を共有できないと感じていました。日頃から彼女(候補者)たちと「議会に女性の声が届かない」「女性が政策決定の場にいないからだ」とさんざん文句を言っていたんです。
そんな中、身近な人が立候補を決意してくれたのに応援しなかったら人としてダメだなと思い、ほぼやむを得ず。でも、今は『信長の野望』のように、支援ボラ(ボランティアのこと)はすごく面白いです。
エミ:『信長の野望』?(笑)
あき子:うちの市は、1000票台を取れば当選する人口過疎地です。彼女もそれで当選しました。今後、彼女に倍の2000票台取れる実力をつけてもらえば、もう一人、仲間内から市議を出せます。すでに今、別の無所属の議員と2人会派を作っているので、もう1人当選したら3人会派が作れる。政策により影響を与えられるようになります。まさに、自分たちの意見が通るかもしれない。
だから、今は長期戦の構えでサポートしています。無給で人手は足りないし、やることがいくらでもあって大変ですが、夢があります。
—— 議会は多数決で決めることも多く、一匹狼だとどうしても政策は通りにくいですからね。人手が足りないとのことですが、濵田さんは研究や仕事柄、さまざまな事務所や選挙対策本部(以下、選対)をご存知です。選挙や政治活動のサポートの人手は常に足りないものですか?
濵田真里さんが代表を務めるStand by Womenは2021年設立。女性議員や候補者の選挙サポートを行っている。
本人提供
濵田真里さん(以下、濵田):人手不足に悩まれている候補者の方の話はよく聞きます。初立候補や政党の後ろ盾のない人の場合はとりわけ大変です。女性候補の場合、SNSやサイトでボランティアを募集すると、応募してくる圧倒的多数が男性という人もいます。政治家もですが、選挙ボランティアの現場にもジェンダーギャップが存在していると思いますね。
だからこそ、選挙ボランティア時のハラスメント被害も多いです。選挙ボランティアは無償でのお手伝いになるので、女性候補者に対して活動の対価として、個人的な関係を求めてきたり、恋愛感情を押し付けてきたりするというケースもよく耳にします。
いろいろと苦労されているため、女性から「応援します」というメッセージが来るだけで「涙が出る(ほどうれしい)」とおっしゃる女性候補もいました。
子連れ選挙活動もボランティアはOK
エミ:男性の支援者といえば、選挙活動の終盤に急に事務所に現れて、「選挙はかくあるべし」と説教をさんざんした挙げ句、10万円ポンと選挙資金の寄付として置いていった男性がいましたね……。
—— 金にモノを言わせるというか。寄付どころか、「愛想が足りない」「選挙は握手の数だ、ドブ板だ」など選挙期間中に候補に自説を延々と披露したり、説教だけしにくる“説教おじさん”は本当に多いのだと、私もある女性議員から聞きました。
あき子:私たちは男性から(立候補者の)街頭演説中に怒鳴られました。男性候補に対してもあることですが、女性候補はより舐められやすいとは感じます。ただ、うちは選対がほとんど女性だったせいか、セクハラはなかったです。
それより、立候補者が母子のための福祉活動をやっていたので、ボランティアの人に子連れが多く、それで苦労しました。他候補の選対から「子連れでビラ配ってたぞ」と通報されたり。私も子どもがいるし、子連れ世代ばかりだから、誰かが事務所で“保育園”しないといけなくて大変でした。
エミ:子連れでの選挙活動はいいのかダメなのか。公職選挙法ではそこが曖昧なんですよね。
濵田:実は、昨年の参議院選挙後に見解が変わり、「単なる同行であれば候補者でもボランティアでも子どもと活動して大丈夫」となったんです。
あき子:え? じゃあ、子どもを抱っこしながらビラ配ったりもできるんですか?!
濵田:演説させたり手を振らせたりするようなことはダメですが、子どもを抱っこしながらビラ配りするだけであれば、候補者でもボランティアでもできます。
子育てをしていると、どうしても子どもを預けられない場面なども出てくるわけです。
そういった場面で仕方なく子どもと一緒にいると、それを公職選挙法違反だと言われて通報されていたのが今までの状況です。今後は、子どもがいる候補者がより活動しやすくなると思います。
—— 少し話を戻しますと、女性候補と男性支援者の間にはセクハラ問題が起きがちですが、女性候補と女性支援者の間でも問題が起きることはあるのでしょうか?
濵田:性別関係なく、活動を通じて問題が起こることはあります。例えば女性同士であっても、選挙方法の方向性の違いなどで支援しなくなったというケースがありました。選挙や政治活動は人それぞれで、昔ながらの「朝から晩まで辻立ちしよう」という人もいれば、「もっと別の選挙方法を模索しよう」という人もいます。
エミ:そうですね。私の場合、後援会の会長は女性でしたが、県議本人に何かこちらが運営上の問題を指摘しようものなら、会長に「彼女の事務所なんだから、彼女の好きにすればいいの!」と遮られてしまって……。意見が言えなかったのも、スタッフを辞めた原因です。女性や若い人をとにかく応援したい会長の気持ちもよく分かるんですけどね。
濵田:子育て支援を訴える候補者の支援をした方が、子どもたちのお昼寝時間でも大きな音で選挙カーを乗り回す候補者の姿に違和感を覚えて、選挙後にボランティアを辞めたという話がありました。政策内容も大事ですが、実際にどんな行動をしているかも、ボランティアとして気になる部分だろうなと思います。
どこまでやるか、事前の線引きが大事
——選挙ボランティアをする相手が友達や地元民だと、この先の付き合いを考えて、言うべきことを遠慮してしまったりしませんでしたか? そもそも地元でボランティアをすることも、実は勇気が要るのではないでしょうか?
エミさん、あき子さんが参考にした『地方選挙必勝の手引』。熱心なボランティアの間では定番中の一冊だ。
撮影:三木いずみ
あき子:私は(支援した候補者が)友人で地元民でしたが、ボランティアをするうえでの条件をあらかじめ立候補者本人に宣言しておきました。例えば、「差別発言する人とは一緒にできない」などです。そういう人が選対に入ってきたら、私は辞めますと言っておきました。
ワクチンを打ってる・打ってない問題などもそうで、私は個人の自由だと思う。自分が正しいと思うことを主張するのも構いません。でも、だからと言って、打っていない人を悪し様に言ったり、逆に打った人をひどく攻撃したりするのは嫌。
ただ、もしそれでボランティアを辞めることになっても、「私があなた(友人の候補者)のことを嫌いになったからじゃないからね」とも伝えておきました。
あと、地元での選挙ボランティアは、緩いつながりを守らないとキツいかなとは思います。日常に戻った時のために、周囲との関係を考えて、選挙の電話もかけられるタイプの人はかければいいし、苦手な人はかけないでいいというのを守る。
エミ:人手が足りないと聞くとついボランティアも無理しがちですが、無理は禁物。自分も忙しいから、朝の10分だけビラ配りして帰る人もいます。それでいい。
—— どこまでやるか。事前に線引きしておくことが大事ですね。支援者と袂を分かつといえば、最近の女性候補では立憲民主党から自民党へ鞍替えをした今井るるさんの例などもあります。方向性の違いでスタッフを辞めたというエミさんは、選挙ボラや政治参加すること自体、嫌になりませんでしたか?
エミ:今井るるさんの件は、支援者も「何とか女性の一席を」という思いだったのではと感じてつらいです。ただ私の場合は、今回は単に候補者とマッチングしなかっただけ。「女性で地元」ということ以外に条件は考えていなかったので、議員との方向性の違いに気づいた頃には「仕方なく手伝ってあげてる」になって、しんどくなってしまった。やりたいからやっているスタンスが保てる候補者と出会うことが大事です。
——その見極めが難しいですね。例えば、ジェンダー平等に関心があるから女性候補にと思っても、女性だからジェンダー平等に真剣に取り組んでくれるとは限りません。自分に合う候補をどう判断すればいいのでしょうか?
濵田:Stand by Womenの場合は、ジェンダー平等に向けて動いてくれる女性議員や候補者を支援するという方針を持っています。それを判断するために、支援する女性議員や候補者を選ぶ基準として、(1)同性婚に賛成、(2)夫婦別姓に賛成、(3)トランスジェンダー差別に反対、の3つを設けて同意を確認しています。ボランティアなどのサポートメンバーに対しても、この3項目への同意を確認します。
あき子:分かりやすい。それ、いいですね。
候補者がジェンダー平等の実現にどれだけ本気で取り組もうとしているか、有権者の側にも見極める目が必要だ。
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濵田:加えて、最近は宗教団体との関わりについても確認するようにしています。女性候補であれば無条件でサポートするのではなく、事前面談をする中でさまざまな質問をして、サポートしたい人かどうかを確認しています。サイトやメディアで見ているだけでは分かりづらいのですが、直接話すと違和感が出てきたり、逆に共感が生まれたりすることもあります。
選挙で投票する際も同じように、握手したことがある、ポスターで見たことがあるなどで選ぶのではなく、候補者や議員のことを調べてみたり、できれば直接話をしてみたりすることが大事だろうなと思います。
エミ:でも、差別や宗教、あからさまに言わないけど実は……という人は多いですよね。
濵田:積極的に相手が言わないからこそ、こちらから候補者に聞く必要があると思います。わざわざ聞かれたら、このことについて気にしている有権者が多いんだなと感じますし、何らかの回答はしなければなりません。それが候補者の意識を育てることにもつながるはずです。
—— 昨年の安倍元首相銃撃事件以来、宗教と政治のつながりが大きな社会問題になっています。
濵田:でも、現場を見ていると、人手が少ない切実な状況の中で手を差し伸べてくれる人がいたら、(その手を)取りたくなるだろうなと思うんです。こういった状況を生み出しているのは、あまりにも政治に対して無関心で、積極的に働きかけてこなかった私たちでもあるのではないでしょうか。
全員:まさに。
濵田:実際に政治に関わろうとしてもなかなかハードルが高いのが現状ですが、選挙の現場に関わる人を増やすために、ツール提供やきっかけ作りをしていけたらと考えています。選挙ボランティアという側面から政治を変えていくことも、ひとつのアプローチ方法として重要ではないかと思います。
エミ:私は、この統一地方選では桜前線に沿って、“流し”で選挙ボランティアをします。
—— 地元でないところから試してみるのもいいですね。SNS担当であればリモートでもできる。女性を応援したいなら、女性候補者などに絞った支援団体による選挙ボランティア募集のサイトなどもできています。みなさん今回はありがとうございました。