波乱に満ちた「仮想通貨冬の時代」を経て、業界の専門家たちは市場における次の問題について意見を交わしている。
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- アメリカの証券取引委員会と商品先物取引委員会は、ここ数週間、仮想通貨業界に対する規制を強化している。
- Insiderは、仮想通貨業界に対する規制の拡大がもたらす影響について、コンプライアンスの専門家に尋ねた。
- 市場はますます高まるボラティリティに耐えなければならないだろう。
この1カ月の間に、アメリカの金融規制当局は、主要な仮想通貨企業やその関係者に対する多数の規制措置を発表した。今後、この業界の取り締まりはいっそう厳しくなると関係者は見ている。
アメリカの証券取引委員会(SEC)は仮想通貨トロンの創設者で起業家のジャスティン・サン(Justin Sun)を告訴し、商品先物取引委員会(CFTC)はバイナンス(Binance)と創業者のチャンポン・ジャオ(趙長鵬)を告訴した。このような取り締まりは今後起こることを予見するものだと市場関係者は述べている。
金融サービス企業JSTデジタル(JST Digital)の規制問題担当グローバルヘッドであるマーティン・グラント(Martin Grant)によると、一連の取り締まりは、規制当局が投資家を守るために現在の体制を修正しようと懸命になっていることを示しているという。
「問題は、これらのケースに対する措置が他の企業が実行可能な道を示すものになるのか、あるいはこの新興産業をだめにしてしまうのかということだ」とグラントはInsiderに語っている。
「結局のところ、業界関係者が求めているのは規制の基準の明確化だが、それはまだ達成されていない」
2022年、サム・バンクマン-フリード(Sam Bankman-Fried)が創業したFTXが破綻し、ドー・クォン(Do Kwon)が開発したステーブルコインのテラUSDが暴落するなど、大手仮想通貨企業が壊滅的状態に陥り、投資家は数十億ドルもの資産を失った。だからこそ、規制当局の決意は固いようだ。失脚した仮想通貨業界の2人の大物はその後、アメリカ当局によって刑事告訴された。
これらの事件が注目を集めたため、「新たな規制は避けられない」と、CFTCの元上級裁判弁護士で、企業コンプライアンスとホワイトカラー犯罪弁護を専門とするブレイドン・ペリー(Braden Perry)はInsiderに述べている。
「仮想通貨の普及とともに、投資コミュニティも著しく成長し、投資の上級者も初心者もその騒動に加わった。(そして)仮想通貨の取引所やウォレットに関する投資環境が変容し、新たな製品やサービスが扱えるようになった一方、悪用もできるようになっている」
さらに「取引所やウォレットの数が増え続け、問題やハッキングが発生することによって、規制当局が刺激されているのは間違いなく、それが今後の規制の原動力になる可能性もある」とペリーは付け加えた。
規制が強化されると、リソースの少ない小規模なプロジェクトは規制に従うゆとりがないため、業界から排除されるかもしれないと、マイニング企業BTCMのチーフエコノミストであるユーウェイ・ヤン(Youwei Yang)は述べている。
「規制遵守とそれに向けた取り組みにはコストがかかるが必要なことだ。(その業務を担う)人材は、技術者と同じくらい重要になる。(SECが求める)登録要件を満たす大規模な業者は最終的に、要件を満たさない、あるいはそのための十分な資金がなく、日常的な監視業務ができない小規模な業者を取り込むことになるだろう」
仮想通貨の価格は、規制に関するニュースに敏感に反応することがあるため、規制が強化されるとますますボラティリティ(価格変動性)が高まるだろう。ただし、規制当局がいつ決定を下すのかについては、依然として不透明だ。というのも当局は概して「イノベーションの未開拓分野では、規則の制定や政策が後手に回る」ためだとペリーは言う。
「それでも、比較的悪名高い企業に対するこのような公的な取り組みは、ちょうど最近の価格変動やFTXの破綻に見られたように、間違いなく市場に影響を与えるだろう」
業者の悪質な行為を阻止し、「市場へのアクセスを広げるテクノロジーを規制しすぎない」ことを目指して適切に設計された規制の枠組みであれば、おそらくプラスに働くだろうとペリーは考えている。しかし、そのためには金融規制当局、業界関係者、議員の間で幅広い取り組みと協調が必要になる。
規制対応のソリューションを提供するフェネルゴ(Fenergo)の金融犯罪ポリシー・マネージャー、ロリー・ドイル(Rory Doyle)は「次のステップとして、仮想通貨企業がさらなる監視を回避したいのであれば、コンプライアンス管理の強化を優先し、顧客をよりよく理解して潜在的なリスクを特定するための自動化されたプロトコルやテクノロジーを取り入れる必要がある」とInsiderに語っている。
SECは2023年3月、仮想通貨トロンの創設者で起業家のジャスティン・サンを詐欺と証券法違反の疑いで告訴した。トロンを違法に宣伝したとしてリンジー・ローハン(Lindsay Lohan)、ニーヨ(Ne-Yo)、ジェイク・ポール(Jake Paul)といった有名人も告訴されたが、罰金を支払うことで和解した。
またSECは、アメリカ最大の暗号取引所コインベース(Coinbase)に「ウェルズ通知」を発行した。これは証券法違反をめぐって法的措置を講じる予定であることを通達する公式文書だ。
一方、CFTCは3月27日、取引高で世界最大の暗号資産取引所であるバイナンスと創業者のチャンポン・ジャオがアメリカのデリバティブ取引規則を破ったとして訴訟を起こした。
CFTCの執行部門の主任弁護士であるグレッチェン・ロウ(Gretchen Lowe)は「バイナンスのコンプライアンス努力は見せかけであり、同社は法律に従うよりも利益を優先するのを意図的に何度も選択したことが被告たち自身のメールやチャットに表れていた」と声明で述べている。