2023年にドル安が進むと、投資家には国際株がますます魅力的に見えるようになるだろう。
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国際株は何年にもわたり米国株に後れをとってきたが、2023年、ついに米国株に匹敵するようになるかもしれない。
アメリカの株式市場の過去10年間の優れた業績には、テック系大企業を偏重してきたことが貢献している。ビッグテックは、紛れもなくこれまでの経済サイクルに君臨するマーケットリーダーだった。
しかし、2022年の暴落によってテック企業の高バリュエーションが崩壊した現在、投資家にとっては、より魅力的なチャンスを求めてアメリカ以外へと目を向ける良いタイミングかもしれないとエミリー・ルヴェイユ(Emily Leveille)氏は言う。
「国際市場や新興市場には、より多様な成長資源があることが多いのですが、ポートフォリオを多角化するためのものでもあります」
ルヴェイユ氏は資産410億ドル(約5兆4000億円、1ドル=132円換算)を管理する企業、ソーンバーグ・インベストメント・マネジメント(Thornburg Investment Management)のポートフォリオ・マネージャーであり、国際成長戦略を担当している。
投資家が海外へ目を向けるようになった他の理由として、ルヴェイユ氏は最近の価格調整に加え、国ごとのバリュエーションギャップについても指摘した。
「アメリカ以外のバリュエーションは、アメリカ国内の成長率が同等のものと比べると今現在も、歴史的にも、低いのです」
また、不安定な時代でも伝統的に安全な資産であった米ドルは、最近の経済的変動でわずかに強化されたものの、2023年中に連邦準備制度理事会(FRB)の利上げが一服する見込みのため、2023年末には下落するだろうというのが金融関係者の共通認識だ。
アメリカの購買力を減じるドル安も、現時点で海外資産の魅力が増しているもう一つの追い風になっているとルヴェイユ氏は述べた。
あとは投資家がどこへ資金を投じるべきなのかということだ。以降で、ルヴェイユ氏が2023年に注目している4つのテーマを紹介する。
テーマ1:高級品
アメリカの銀行危機によるストレスから世界的に流動性や通貨供給が低下しており、ルヴェイユ氏は海外がすべてにおいて有望であるとは言えないと警告した。また、景気が減速している間は成長が鈍化するため、彼女は弾力的な成長特性を持つ企業が最も優れたパフォーマンスを発揮するだろうと考えている。
ルヴェイユ氏は強い価格決定力、貸借対照表、独自の成長推進力を有し、3〜5年という彼女の投資期間に見合う企業に注目している。また、こうした企業が循環的トレンドの影響を受けすぎず、景気後退に耐えうる特定のテーマに合致することも確認している。
例えば、ルヴェイユ氏が今年投資しようとしているテーマの一つは高級品だ。景気後退が間近に迫る中では、常識破りに見えるかもしれない。
「富裕層は景気後退による経済的な影響が少ない傾向があります。なぜなら貯蓄率が高く、購買力が賃金にあまり依存していないためです。それは経済的苦境に直面しても驚くほど強靭です」
高級品の分野でルヴェイユ氏が保有している銘柄の一つはフェラーリ(Ferrari)で、同社を「希少性の持つ力を示す素晴らしい実例」と呼ぶ。指摘したのは、天文学的な価格と限定的な生産量によって同社の製品が意図的に入手しづらくなっている点だ。
「フェラーリには、レーシングパフォーマンスを通して築き上げた驚くべきブランド力と、この巨大な価格決定力を彼らに与える遺産があります」とルヴェイユ氏は言い、同社が非常に高い資本利益率や資金創出力といった強いファンダメンタルズを誇ることを付け加えた。
ルヴェイユ氏が保有しているもう一つの高級ブランドはLVMHで、同社を象徴するブランドのルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)で知られている。「利益率が非常に高く、高級品分野の中でも価格決定力は抜群です」と彼女は説明する。
テーマ2:高齢化社会
ルヴェイユ氏はまた、高齢化に関連するサービスを提供する企業にも投資している。高齢化は経済状況とは関係ないため、こうした企業は不況に強いからだ。
彼女のお気に入りの企業の一つは、白内障手術や視力回復手術で使用するレンズや機器を製造するドイツ系企業のカールツァイスメディテック(Carl Zeiss Meditec)だ。
「同社は高齢化に加えて、人々が長時間パソコンを使うようになって近視が増えていることにも対応できる企業です」
ルヴェイユ氏によると、同社が特に存在感を高めている中国では毎年100万人が近視になり、2030年まで毎年1100万人が60歳になるという。
このテーマに合致するもう一つの企業は、ライア・ドロガシル(Raia Drogasil)だ。高齢化するブラジル社会で薬の需要が急増する中、今後収益を得る見通しのブラジル系ドラッグストアチェーンだ。同社は極めて細分化された市場のリーダーであり、コンソリデーターでもある。
「それに加えて、同社は非常にうまく経営されているかなり優良な企業です。通常は高値で売買されますが、ブラジルの政治リスクもあって割安に購入することができます。政治の問題が、為替やインフレ、あるいはライア・ドロガシルのビジネスに大きな影響を及ぼすことはないと考えています」(ルヴェイユ氏)
テーマ3:中国の経済再開
中国経済が上向く中、ルヴェイユ氏は中国市場で大きなシェアを持つ銘柄を選び、同国への投資を増やしている。
「経済的観点から、中国のストーリーは世界的な成功例であり続けると思います」と彼女は説明し、国内の成長を再活性化すると予測される中国国民の総貯蓄残高について指摘した。
例えば、LVMH、カールツァイスメディテック、ロレアル(L'Oreal)など、彼女のポートフォリオに組み入れられている銘柄は中国からの売上が全売上の20〜30%を占めており、こうしたことはヨーロッパのエレベーター企業のコネ(Kone)にも当てはまる。
「同社は質の高いビジネスを行っています。コネは中国での不動産開発と建物の近代化、そしてエレベーターの設置数増加に伴うマージン収入の拡大によって利益を上げています」
テーマ4:ヨーロッパのエネルギー情勢の変化
2023年にルヴェイユ氏が追いかける最後のテーマは、ヨーロッパのエネルギー情勢の変化だ。これはロシアによるウクライナ侵攻の結果としてエネルギー供給に制限がかかったことが原因となっている。
「ウクライナ侵攻によって分かったことは、ハード・ソフトの両面において特定のコモディティの供給源と調達先をシフトできる必要があるということです。そうしたコモディティを生産している国々はこれまで収益を得てきており、今後もそうであるはずです」
彼女が例として上げたのは、穀物とプロテイン製品の輸出大国であるブラジルだ。
昨今の石油および天然ガスの価格高騰も、特定のコモディティの生産コストを引き上げ、需要と供給の不均衡をますます悪化させている。ルヴェイユ氏の予測によれば、鉄鋼や銅といった特定のコモディティは今後10年のうちに高騰するという。なぜなら、この2つはクリーンエネルギーへの移行において重要な要素となる資源だからだ。
ルヴェイユ氏はコモディティに直接投資することはないものの、投資先として選んだ企業に原材料が与える影響を考慮している。彼女はまた、デリバティブやコモディティのヨーロッパ最大の取引所であるドイツ取引所(Deutsche Börse)の株も保有している。
「ヨーロッパのエネルギー供給網において再生可能エネルギーの重要性が増し、天然ガスを従来と異なる場所から調達する必要が生じているため、ドイツ取引所での商品取引はそうしたコモディティの売り手と買い手のマッチングに役立ちます」とルヴェイユ氏は説明する。
「ヨーロッパ大陸のエネルギー情勢が変化する中で、同社は構造的な勝ち組であると考えています」