日本のエリート、世界では「低学歴」。はるかに“学歴社会”が色濃い欧州で直面した劣等感

国連本部

スイス・ジュネーブにある国連本部。

撮影:雨宮百子

日本では大学の入学式シーズンを迎え、新たな大学生活に胸を躍らせている人も多いだろう。

私自身も10年以上前の自分の受験体験を振り返り、第一志望の大学への入学に涙を流して喜んだのを思い出す。

でも、会社をやめて欧州留学に踏み切ったこの半年の経験をもって、当時18歳だった過去の私にひと言伝えるのであれば、「井の中の蛙大海を知らず」だろう。

これから学生生活を送る学生や、100年人生においてはまだ「若い」同世代に伝えたいのは、島国ではなく世界から自分を俯瞰することの重要性だ。

3カ国語は当然。ベルギーで感じた欧州の「標準」

テキスト

現地のテキストに加え、日本でフランス語のテキストを購入。だが、フランス語の壁は高い。

撮影:雨宮百子

ベルギーにきて私が最初に直面したのは「劣等感」だ。

勉強もそれなりに努力して、学生時代はIT企業でのインターンや離島でのボランティアなど、たくさんの経験もした。

社会人になってからは、編集者としてベストセラーをつくったり、経営学の修士号を働きながら取得したり、これでも「そこそこ」頑張ったと思う。

しかし、フランス語圏にあるベルギーの大学院で出会った同級生(現地のベルギー人の学生に加え、中東、アフリカなどの出身者)は日常的にフランス語を話し、英語も当然のように流暢に話す。学生たちの多くは日常的に3カ国語を話せる人間がゴロゴロいるのだ。

英語を話すことができれば、日常生活はなんとかなりはするものの、欧州における現地語の強さに驚いた。「英語を頑張らないと」とか言っている場合ではなかったのだ。

言語とは、単に伝わればいいだけではない。本質的に重要なのはコミュニケーションであって、どれだけ相手の国の言葉になじもうとするか、その姿勢が人間関係の円滑さをきめる。

ある授業で、面白い26歳の韓国人にあった。

彼はドイツの大学からベルギーに留学中で、長年日本に住んでいたため、日本語と韓国語が母国語レベルだ。また、ドイツ語と英語は独学で勉強し、流暢に話す。現在はイタリア語とフランス語を勉強中だといって、単語を沢山かいたアイパッドを見せてくれた。

「やっぱり現地の言葉を話せるだけで、距離ってぐっと縮まると思うんですよね」といいながら、目を輝かせる彼をみて、フランス語で心が折れそうになっていた自分を大いに反省した。

20代女性の博士取得者に驚く

大学院の講義

筆者が参加している大学院の法学の講義。

撮影:雨宮百子

言語だけではない。修士以上の学位をもっている人もゴロゴロいる。

仏語の授業で隣に座った留学生のイラン人女性は、経済関係の博士課程在籍者だった。

友人の紹介で出会ったベルギー人の警察官のパートナーである20代の女性は、科学分野の博士号取得者で、彼らと夕食を食べながら書籍の話をしていると「私の書いた本もみて!表紙のイラストは彼が書いてくれたのよ」と笑顔で本を渡された。見ると、それは製本された博士論文だった。

博士論文には難しそうな数式が並び、私には理解できなかったが、日本で20代女性の「博士」に会う機会がほとんどなかったので、驚いた。

OECDの“Overview of the education system (EAG 2022)”では、2020年のデータをもとに「日本の博士課程またはそれに準ずる課程に進学する女子学生の割合は、他のOECD加盟国やパートナー経済圏と比較して最も少ない部類に入る」と記載されており、日本は38カ国中最低ランクだった。

日本でも高校生や大学生のうちに博士課程に進む女性に出会う機会が数多くあれば、「そういう選択肢もありかも」と思う学生の数はもっと増えるはずだ。

グローバルの「足切り」は修士以上

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ジュネーブの国連前にある椅子のオブジェ。地雷をなくすという願いが込められているという。

撮影:雨宮百子

ちなみに、国連をはじめとする国際機関の多くは、採用の段階で「修士号以上取得者」と明記している。

欧州の大企業も修士号を持っていることを前提に採用を募集していることが多い。

日本の有名大学を出ても、多くの場合は名前すら認識されていないし、学部だとそもそも「足切り」。つまり、日本よりもはるかに「学歴主義」なのだ。

グローバルの頂点ともいえる、国際機関での実態はどうなっているのだろう。詳しく話を聞くために、スイスの国際機関で働く日本人の友人に連絡をとってみた。

特に国際機関においては、博士、修士、学士の順に非常に学歴主義が強い。本当の意味での『即戦力』が求められているから。

日本だと博士号とかまで進むと就職に不利みたいな話も聞くせいか、35歳が上限の国際機関の若手人材プログラムでも、欧州の出身者は28~30歳が多い一方、日本人は33~35歳くらいが多い印象。

国際機関では上の役職になるほど学位が優位になる。修士号保持者は職務経験が10年ないと応募できないものでも、博士号保持者は2~3年で応募できるなど、長い目でみるとキャリアアップの近道になることもある」(スイスの国際機関で働く友人)

修士課程の割合グラフ

日本では修士課程に進む割合が少ない。

出典:科学技術・学術政策研究所「学位取得者の国際比較」

科学技術・学術政策研究所の出す「学位取得者の国際比較」をみると、人口100万人当たりの学士号取得者数は、日本は2019年度4539人とドイツやフランスよりも多い。

しかし、修士になると日本は一気に低くなる。

2008年度と各国最新年を比較すると、特に英国、フランス、ドイツの伸びは大きい一方で日本は横ばいだ。面白いのはドイツとフランスの学士取得者の低さだろう。これには背景がある。

早くから意識させられる自分の「強み」

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筆者が通っている大学院。

撮影;雨宮百子

例えば、ドイツでは早期における「職業訓練」が有名だ。初等教育期間を経た第4学年(10歳くらい)以降、種類の異なる学校を選択することができるのだ。

勉強が好きな学生は勉強を続ければいいし、そうではない学生はなりたい職業に直結した「専門性」を磨いていけばいい。

つまり日本でいう一般的な「大学」に進む学生は少ない。なので、大学進学率は低い一方で、「学ぶ」と決めた人は修士、人によっては博士までいく率が高い。

フランスでも、日本で言う高校の時点で異なるカリキュラムを提供している。15歳で進路が分かれ、一般的な大学に進学する以外にも様々な選択肢がある。そして一般的にフランスの大学の学費負担は日本よりも軽いという。

つまり、日本のように高い学費を払った上で「大学全入時代」とはならない。また、大学の卒業にはかなり厳しい勉強が待っていることも忘れてはいけない。

プライベートには一切関係ない「学歴と年収」

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ベルギーでも春が来つつある。

筆者撮影

ただし面白いのは、「進路」における学歴格差はないこと。

欧州での「学歴主義」は単に「専門主義」にすぎない。あくまでビジネスにおいて業務を遂行するうえで求められるだけ。

相手の社会的地位や、学歴、職業、年収は、一切プライベートには関係ないことが多い。

人間関係において、「たくさん稼いでいるひとがスゴい」「年収〇〇円以上でないとパートナーとしては不適切」というような発想は男女ともにないのだ。

例えば、いわゆる「恋バナ」を含め、好きな異性のタイプとしてお金の話をしようものなら、「彼女はお金が好きなひとなんだね」と苦笑いをされる。

日本では「会社はどこですか?」と聞くことは公私ともに多いが、こちらでは特定の会話の流れがない中で聞くのは、「あなたは何歳ですか?」といきなり聞くに等しいくらい失礼だ。

日本での勉強・就職は、ある意味恵まれているといえるだろう。

「新卒採用」があり、失業率よりも人手不足が話題になるからだ。しかし、あくまで日本という「日本語」で守られたマーケットでのみ通用するということを忘れないようにしたい。

そして、その「幸せな」マーケットは加速する人口減少とともに確実に縮小している。

一歩外にでれば、世界は広い。

大学入学は、単なる1つのスタート地点にすぎない。早いうちから世界の現実を直視し、日本とは全く違った常識や考えがあることを知ることが、最終的には自らのチャンスや可能性を広げるように感じている。

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