「もう限界…」の行政デジタル“後進国”脱却へ、団体発足。カギはDX推進を阻む「公共調達」改革

民間のIT・AIテクノロジーを活用し、非効率な行政・公共サービスを改善して利便性向上につなげるGovtech(ガブテック)。

99%の行政サービスがオンラインで手続き可能なGovtech先進国・エストニアや、オードリー・タン氏が中心となって新型コロナウイルス対策を成功させた台湾など、2013年ごろから世界的な広がりを見せている。

一方で日本は、スイスの国際経営開発研究所(IMD)が毎年公表する世界デジタル競争ランキングにおいて2018年の22位から下降の一途をたどり、2022年には過去最低の29位に後退。デジタル先進国との格差が広がり続けている。

そんな日本の現状を官民共創で変えていくことを目指し、Govtechや自治体DX、地方創生に携わるスタートアップ・団体が立ち上げたのが、一般社団法人Govtech協会だ。

行政が発注者、民間は受注者という構図の限界

Govtech Japan Association

Govtech協会設立会見を記念してつくったそろいのTシャツを着て撮影に応じる代表理事の日下光氏(中央)と伊藤和真氏(中央右)、理事の関治之氏(中央左)。

撮影:湯田陽子

「これまでの公共調達は、行政が発注者で民間は受注者という構図だったが、そうした(一方通行の)受発注の関係ではデジタル化を進められないという限界が来ていると思う」

3月29日の設立会見では、代表理事の1人で、マイナンバーカードを活用したデジタル認証サービスを展開するxID(クロスID)CEOの日下光氏はそう危機感を語った。

その上で、民間企業による革新的なGovtechサービスが生まれやすい環境・制度整備に向けた政策提言のほか、自治体をはじめさまざまなステークホルダーとの共創・競争環境の整備を進めていく考えを明らかにした。

「圧倒的に調達能力が低い」日本に必要な公共調達改革

Govtech Japan Association

活動⽬的とGovtechに期待される課題解決

提供:Govtech協会

公共調達に関しては、その仕組みや手法の柔軟化が大きな焦点となる。

例えば、民間企業のサービスのように公共調達に関するシステムのAPIを公開できれば、行政におけるデータの見える化やシステム同士をつないでデータを活用する取り組みの広がりが期待される。

また、自治体ごとにシステムをオーダーメイドでつくるのではなく、業務プロセスを見直しながら汎用的なSaaSモデルの製品を使えるようになれば、行政の無駄をなくすことにもつながる。

「現在の公共調達では想定されていない事業評価や契約のあり方の変革、1年ごとの調達サイクルだけではない、アジャイル型で改善可能なデジタル公共行政サービスの実現も必要だ」(日下氏)

こういった取り組みの拡充によって、公共調達の参入障壁が低くなっていく(行政の調達能力を高める)ことも期待できる。

Gavtech協会のアドバイザリーボードに加わったNew Stories代表の太田直樹氏は、総務大臣補佐官を務めた自身の経験を含め、地方自治体のDX化に携わる中で「圧倒的に調達能力が低い」という課題感を抱く一人だ。

「Govtech協会に期待するのは、公共調達を変えていくこと。特定の企業ばかりで、新しいところが全然入ってこないことは数字にも現れている。知恵を持った民間が調達で選ばれるような仕組みに変えていかなければならない」(太田氏)

公共調達だけじゃない、新たなビジネスモデルの可能性

Govtech協会が視野に入れているのは公共調達制度の見直しだけではない。新たなビジネスモデルの構築によって社会課題の解決を図ることも重視している。

「自治体と民間企業が連携して財団をつくり、その予算で地域のDXや人材育成をするといったさまざまなビジネスモデルが少しずつ生まれている。


Govtech協会ではそうした(事例の)調査・分析をしながら、どういったビジネスモデルや関わり合いであれば、横展開しながらサステナブルな公共・行政分野での官民の共創を実現できるのかを深掘りしていきたい」(日下氏)

協会設立の背景には、地方自治体と共創関係を構築していく上でいち企業だけでは対応が難しい面もあったからだという。

「DXを推進していこうとしている国の動きと、実際にそれを進める地方自治体の間でギャップのようなものが少しずつ出てきている。(そのギャップを埋めるために)民間企業が個別に声を上げるとどうしてもポジショントークに聞こえてしまうため、業界団体をつくって一つの声としてまとめる必要があった」(日下氏)

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