中央大学の新キャンパス。移転の理由は、法曹教育の強化にあるという。
撮影:土屋咲花
中央大学がこの春、都心にキャンパスを移転する。
同大学を代表する法学部が、文京区に新設した「茗荷谷キャンパス」に4月1日から移るのだ。法学部が都心に戻るのは、1978年に多摩キャンパスに移って以来、45年ぶりだ。
近年、首都圏の大学は都心回帰が進んでいる。津田塾大学は2017年、千駄ヶ谷にキャンパスを新設。青山学院大学は2013年、相模原にあった人文・社会科学系学部を渋谷区の青山キャンパスに移転し、文系学部を都心に集約している。
約3万人の学部生(2022年度)を抱える中央大学は、2000年に市ヶ谷キャンパスを開設していて、今回新たに都心にキャンパスを増やした形だ。
中央大の合同開校式で、新キャンパスを取材した。
大学の歴史を体現した茗荷谷キャンパス
中央大学は1885(明治18)年、「英吉利(イギリス)法律学校」として18人の若い法律家によって東京府神田区(当時)に創設された。
新設の茗荷谷キャンパスは、130年以上続く大学の歴史を表現した。英吉利法律学校や、創設者たちが学んだイギリス法曹院(ミドル・テンプル)を意識したインテリアが随所にちりばめられている。
キャンパスは丸の内線茗荷谷駅から徒歩約1分の好立地。地上8階、地下2階建てで、5階に屋上庭園を設けるなどして隣接マンションに配慮した。
中央大学の法学部が入る茗荷谷キャンパス。施工は清水建設。
撮影:土屋咲花
地下2階から地上1階が学食や学修支援センターが入る「学生生活ゾーン」、2階から5階が図書館や教室などの「学習ゾーン」、6階から8階は研究室フロアとなっている。
外観は英吉利法律学校の赤レンガ造り校舎をモチーフにしているという。低層階のアーチは、旧駿河台キャンパスや、大学を象徴する「白門」をイメージした。
入口は重厚感のある白いアーチが連なる。
撮影:土屋咲花
エントランスには法と正義の女神「テミス像」が設置されている。
撮影:土屋咲花
建物に入るとすぐ吹き抜けがあり、ガラス張りの天井から各階に自然光が差し込む。1階からは5階までの全貌を見渡せ、人の動きがよく分かるようになっている。設計を手掛けた会社によると、「角度の違う通路が街並みのような表情をつくっている」という。
エントランスを入ってすぐの開放的な吹き抜け。
撮影:土屋咲花
5階には緑豊かな屋上庭園が広がる。随所にベンチや可動式の椅子が設けられ、学生が思い思いの時間を過ごすことができそうだ。
屋上庭園。
撮影:土屋咲花
屋上庭園。写真左側の座椅子は自由に移動させることもできる。
撮影:土屋咲花
4階は図書館フロアで、約9万冊の蔵書を揃える。
緑と濃い木目調にゴールドの照明を配置したクラシカルな雰囲気で、ミドル・テンプルの図書館をイメージしたという。リラックスしながらも勉強に集中できる空間となるよう意識されている。多摩キャンパスで人気という、緑の見える閲覧席も設けた。
低書架で見通しの良い図書館。
撮影:土屋咲花
地下1階の食堂は、木調格子で格式ある雰囲気に仕上げられている。ハリーポッターのホグワーツのような世界観で、こちらもミドル・テンプルをイメージしたという。学食はスエヒロが運営する。
ミドル・テンプルを模したという地下1階の食堂。
撮影:土屋咲花
地域貢献を意識したことも特徴の一つ。1階には一般向けの保育施設「キッズルーム茗荷谷」や郵便局、スターバックスコーヒーが併設されている。
1階のスターバックスは4月1日オープン。
撮影:土屋咲花
法科大学院は有名大が立ち並ぶ御茶ノ水に移転
茗荷谷キャンパスと合わせて、JR御茶ノ水駅から徒歩約3分の駿河台キャンパスも建て替えられた。元々この場所にあった駿河台記念館が、地下1階、地上20階建ての高層ビルに生まれ変わった。
駿河台キャンパスには法科大学院(ロースクール)とビジネススクールが市ヶ谷、後楽園キャンパスからそれぞれ移転する。茗荷谷、駿河台の両キャンパスは地下鉄で3駅。移転で距離を近づけ、法学部と法科大学院の連携を強化する。
駿河台キャンパス。
撮影:土屋咲花
駿河台キャンパスは東京医科歯科大学や日本大学、明治大学など有名大学の高層キャンパスが立ち並ぶエリアに位置する。19階のカフェテリアからは、近隣大学の建物を始めとした景色が一望できる。
19階のカフェテリアからは、近隣大学のキャンパスが一望できる。
撮影:土屋咲花
法学部の志願者数は増加
中央大が公開している志願状況によると、2023年度の法学部志願者数は前年度と比較して約1000人増えた。
広報担当者は
「2022年度から今回の都心展開を知らせる広告を出しています。高校生だけでなく一般の方々にも向けた幅広い情報発信ですが、その効果もあったのでは」
としている。
MARCHなど有名私立大学の多くは、主要キャンパスを都心に置いている。華やかな都会の立地は、全国から集まる学生にとって魅力の一つ。
学生はどう感じているのか。
4月から法学部3年生になる男子学生は
「多摩キャンパスは広くて大学らしい一方で、東京で暮らしている感じがあまりなかった。キャンパス移転に伴い引っ越しましたが、周辺の環境が『東京の大学に来たな』と感じます。遊ぶ場所が増えるのも楽しみ」
と話す。
同じく法学部新3年の女子学生は
「就活面での利点を感じています。都心だと移動がしやすいので、ありがたいです」
と歓迎していた。
この茗荷谷キャンパスには4月から、約6000人の法学部生・院生が通うことになる。