『ターミネーター』のシナリオとは違い、エンターテインメント業界でもAI技術を避けて通るのは難しくなりつつある。
Melinda Sue Gordon/Paramount Pictures
「私に従いなさい。あなたの脚本を映画にしたいのなら」——。一部の成長企業からはそんなメッセージが聞こえてきそうだ。というのもウォール街の投資家によれば、新しいハリウッド映画の脚本マーケットの可能性を見極める際に人工知能(AI)とデータを活用しようと考えているのだという。
セレンゲティ・アセット・マネジメント(Serengeti Asset Management)のアリア・ヴォスーギ(Aria Vossoughi)氏はInsiderに対して、こうした技術がもたらす利益に期待していると述べた。
「今われわれが興味を持っているのは、価値ある知的財産を識別する方法を今まで以上に自動化しようとしている企業です」
ヴォスーギ氏は、ニューヨークを拠点に10億ドル以上(約1320億円、1ドル=132円換算)の資産を運用するセレンゲティで、スペシャル・シチュエーション戦略とレベニュー・ファイナンスの責任者を務めている。彼は具体的な企業名こそ明かさなかったが、「価値ある知的財産を識別する方法の自動化を進めている企業は数社ある」といい、この分野はまだ 「初期段階」だと付け加えた。
「従来のプロダクションスタジオやハウススタジオが社内データを狭い範囲で活用する様子を見てきました。しかし、こうした企業から『マーケット全体の幅広いデータを結集できるようにすべきだ』と主張する人物が何人か現れています」(ヴォスーギ氏)
さらにヴォスーギ氏は、AIやその他の技術も「この分野を破壊するだろう」と述べた。
ヴォスーギ氏のようなプライベート・クレジットの投資家が、メディアやスポーツのディールに記録的な額の資本を注ぎ込み、AIがあらゆる業界を根底から覆す革命が起こる可能性がある。
ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)の最高情報責任者は先ごろのInsiderの取材に対し、「これ(AI)は人生でめったにお目にかかれない代物だと直感した」と話している。
アリア・ヴォスーギ氏はセレンゲティ・アセット・マネジメントでスペシャル・シチュエーション戦略とレベニュー・ファイナンスの責任者を務めている。
Courtesy of Serengeti Asset Management
ハリウッドのAIへの思い入れはヒートアップ
ヒストリカルデータを活用すれば、どのプロジェクトが興行的にヒットし、どのプロジェクトが失敗するかを情報に基づいて予測できる。映画製作会社はプロとして恥をかくことを免れ、投資家は新規プロジェクトのコンテンツを支援する際の経済的リスクを軽減することができる。
また、『ターミネーター』や『マトリックス』のようなハリウッド映画に見られる破局シナリオとは違って、これまでの経緯を見るかぎりエンターテインメント業界にとってAIの実用化はますます避けて通れなくなりつつある。
確かに、ハリウッドでは何年も前から、データとアルゴリズム、クリエイティブ・コンテンツの融合に向けた取り組みが行われてきた。ネットフリックス(Netflix)のようなストリーミング企業は、独自のアルゴリズムや分析を用いて視聴者の嗜好を推測している。映画の配役を入れ替えると興行成績にどのような影響が出るかを調べたり、機械学習を活用して何十万もの属性を取り込んで脚本を評価したりと、映画製作をゲーム化したスタートアップ企業もあることが過去の報告で明らかになっている。
大規模スタジオやストリーミングサービス会社のような技術力を持ちにくい小規模の企業にとってはチャンスだろう。
ベンチャーキャピタルなどの他の投資家は、メディアとAIの邂逅に魅力を感じている。CAAで消費者投資の責任者を務めるマイケル・ブランク(Michael Blank)氏は以前Insiderの取材に対し、この分野への投資は 「今、膨れ上がっている」と語った。 AIや機械学習を活用したスタートアップ企業は、ディープフェイクを生成してフィルム上の顔を入れ替えたり、俳優の年齢を若返らせたり、故人の声を再現したり、言語吹き替えのプロセスを迅速化したりできるツールを映画会社に提供している。
これらのツールに潜在的な利点はあるものの、その普及とともにハリウッドのクリエイティブ・コミュニティがどのように反応するのかは未知数だ。コンテンツの有効性を評価するためのリソースとして歓迎されるかもしれないし、自分たちのアートの縄張りを侵す邪魔者として見られるかもしれない。ヴォスーギ氏は、後者のような視点はあまりに後ろ向きだと述べている。
「これらのツール(AI技術)は、クリティティビティを判断する存在にはならないでしょう。むしろ、補完する存在になるはずです。
人間的な要素を失ってはいけないと思います。その上でAI技術が適切に活用されれば、何が有効で何が有効でないかを分析できる、より効果的なプロセスが実現できるはずです」