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GPT-4に代表される、大規模言語モデル(LLM)を使ったAIは、どんな用途に使うべきか?
さまざまな企業で検討が進んでいるが、もっとも可能性が高いジャンルの一つとみられているのが「語学」だ。LLMの持つ文章生成能力や、言語の壁を越える能力を生かし、言語習得を効率化できるのではないか……と期待されている。
そこに、オンライン語学学習の最大手の一角「Duolingo」が名乗りを上げた。OpenAIと提携し、最新のLLMである「GPT-4」を言語学習に組み込んだ「Duolingo Max」を3月に発表した。
LLMを語学サービスに使う上での価値と留意点はどこにあるのか。
Duolingo Maxのプロジェクト・マネージャーを勤めるエドウィン・ボッジ(Edwin Bodge)氏を直撃した。
GPT-4で最上位サービスを開発、まずは英語話者向けに
Duolingo Maxのプロジェクト・マネージャーを勤めるエドウィン・ボッジ(Edwin Bodge)氏。
筆者キャプチャー
スマホの定着以降、言語学習では遊びの要素を取り入れた「ゲーミフィケーション型」が主流になってきた。ヒアリングなどに合わせて単語を並べていくというシンプルな操作方法を採用し、それを達成感が感じられるサイクルで繰り返すことで、ゲーム的な楽しさの中で言語を習得できる、というのが特徴だ。
基本サービスは無料。広告表示をオフにし、より自由に学ぶ際にはサブスクリプション型の「Super Duolingo」(個人向け・AppStore経由の場合、年間9900円)を契約する——という形を採っている。
出典:Duolingo
GPT-4を導入する「Duolingo Max」はSuper Duolingoの上位に位置付けられ、まずはアメリカを中心とした一部市場向けに、英語話者向けのスペイン語とフランス語コースとして提供を開始する。当初はiOSのみの対応となる。
料金は、月額29.99ドルもしくは、年額167.99ドル。日本向けの提供はまだ公開されていない。
ボッジ氏は「まずニーズの大きい、英語話者に対するスペイン語とフランス語のコースから評価を進め、その後、日本語でのサービスも検討していきたい」と話す。
AIが「間違いの理由」と「ロールプレイ」を提供
Duolingo Maxでは、新たに2つのコースが追加される。「スマート解説」と「ロールプレイ」の2つだ。
「この二つの機能によって、人間の言語チューター(語学の個人教師)の教え方を、かなり再現できるようになりました。Duolingo Maxは、上位10%の言語チューターからインスピレーションを得ています。
彼らが何をしているかを見て、それをAIで再現しようとしたわけです」(ボッジ氏)
GPT-4の持つ「言葉を扱う能力」そのものを使い、既存のアプローチでは不足していた部分を補おうとしているわけだ。
「Duolingoで学ぶ人々から多く寄せられていたのは、『なぜ間違えたのか?それを知りたい』ということでした。
答えが正しいのか間違っているのか、その理由やフォローアップの方法など知ることで、『言葉の雑学』から抜け出すことができるのです」(ボッジ氏)
間違いがなぜ、どういう種類のものかを指摘する「スマート解説」。
出典:Duolingo
ボッジ氏は「スマート解説」を導入した意図をそう説明する。
「ロールプレイ」についても同様に、利用者からの要望の高さやレッスンの高度化を目的に導入されている。
「ロールプレイ」ではシチュエーションを定め、それに合わせてインタラクティブに対話しながら言葉を学ぶ。その対話にはGPT-4のようなAIの力が必要になる。
役割を定めて会話しながらレッスンする「ロールプレイ」。
出典:Duolingo
実はDuolingoは、過去に「学習者どうしが話す」ことで言葉を学んでいく仕組みを試していたことがある、
「よく知らない相手に外国語で話すなんて、不安でいっぱいだったのだと思います。だから、過去のテストは、あまりうまくいきませんでした。AIは、このような時に優れたツールになり得ます」(ボッジ氏)
ここでは、GPT-4の言語生成能力だけでなく、音声認識技術も活用され、人と話しているのに近い形を再現し、学習に活用する。
OpenAIと話し始めたのは「2022年9月から」
ボッジ氏によれば、OpenAIとの話し合いがスタートしたのは「昨年の9月から」だという。OpenAI側からDuolingoに連絡があり、関係がスタートした。
「私たちのチームにいるプロダクトマネージャーの友人が、OpenAIにいたのです。ただ、それ以前からAIの活用については、弊社でも意識していました。
OpenAI側も、弊社を言語学習分野のリーダーだと考えていて、接触の機会を探っていたようです。
ですから、早期に彼らが手を差し伸べてくれたことは、パートナーとして彼らを選んだ、大きな理由の1つです。複数のAI製品をリサーチしましたが、現状、GPT-4が最も優れた技術であると判断しました」(ボッジ氏)
もちろん、現在のAIは、GPT-4であっても間違いがある。一方で、十分に優秀かつ、人間よりもはるかに素早く処理ができるため、人間の仕事を奪ってしまうのでは、という懸念もある。正確性とスピード、双方で懸念が存在しているわけだ。
この点についてボッジ氏は、「完全でないからこそ、我々は人間の作業がなくなるとは考えていない」と話す。
「私たちのチームには、各言語の専門家がいます。そして、GPT-4が学習者に回答した内容を表にまとめた上で彼らに渡して、内容の正確さ・関連性・トーン・簡潔さなど、いくつかの側面から評価してもらい、その正確さを追跡できるようになっているのです。
このように、人の手による品質評価を行うことで、精度を改善していくことができるのです」(ボッジ氏)
「語学学習」にAIはプラス、しかしコストの問題からまずはサブスクに
Duolingo MAXは最上位のサービスとなり、年額にすると倍近くの支払いとなる。それだけ、GPT-4を使うためのコストもかかり、一方で差別化する自信もある、ということなのだろう。
Duolingoは無料でも使えて、サービス運用コストは常にビジネス上、重要な課題だ。
サブスクであるDuolingo MAXの利用者を増やすことも重要だが、同時に、コストを最適化しながらビジネスを進めることも大切。このことは、今後AIを活用する企業すべてが直面する課題でもある。
その点を問うと、ボッジ氏は次のように説明した。
「(AIの利用コストが)変動費としてかかってきますから、サブスクリプションで提供するのは止むを得ないと考えています。GPT-4の利用は、ほとんどがDuolingo MAX向けです。
データについて、オフライン利用とオンライン利用を明確に区別しており、ロールプレイのようなものは、オンラインでGPT-4を介して処理する必要があります」(ボッジ氏)
一方で、学習用コンテンツ生成にも、GPT-4は役に立つ、とも話す。
「我々のサービス内では、学習用セッションに使うための文章が大量に必要になります。以前は、その製作効率があまり良くありませんでした。そこでもGPT-4は有用でしょう。
我々が初期費用を払ってコンテンツ生成に利用すれば、その情報は我々の中に蓄積され、無料のサービスにも活用されていくことでしょう」(ボッジ氏)
これをそのまま解釈すれば、「少し長い目」で見れば、Duolingoのサービス全体の価値向上に、GPT-4が活用されていく、ということになる。
「学習系サービスへのGPT-4活用」の先駆的な例として、Duolingo MAXの日本語サービス対応が待たれる。