参加者減のスタートアップ「合同入社式」。冬の時代「年収100万減」でも入社した理由

4月3日は多くの企業で新入社員の入社式が実施される。

それよりも一足早い土曜日の4月1日、1社あたりの新卒採用数が少ないスタートアップの新卒合同入社式が渋谷区で開かれた。

スタートアップ業界では資金調達の難易度が高まり「冬の時代」とも言われている。新入社員はどのような思いを胸に社会人としての一歩を踏み出したのか。会場を訪ねた。

合同入社式には、39社56人が参加した。

合同入社式には、39社56人が参加した。

撮影:土屋咲花

参加者数は減少。スタートアップ不況で採用控えか

「スタートアップ新卒合同入社式」は、スタートアップの新卒社員に「同期を贈ろう」とキャリアSNSを運営するYOUTRUST、採用管理システムを手掛けるHERP、モビリティベンチャーのAzitが開催した。

今年で3回目。昨年は59社93人が参加したのに対し、今年の参加は39社56人に減った。

YOUTRUSTの岩崎由夏代表は、

「(資金調達が難しくなった)最近の市況感から、各社は採用を絞っているのだと思います。未来への投資である新卒採用はスタートアップでは後手に回りますし、資金を削りやすい部分です。参加企業の顔ぶれも入れ替わりがあり、半数くらいは昨年はいなかった企業という印象です」

と話す。

スタートアップ情報プラットフォームINITIAL(ユーザベース社)の調査によると、2022年の国内スタートアップの資金調達額は8774億円。過去最高に上る一方で、

IPO時の株価が上場前の資金調達時より大きく下回るスタートアップが散見するなど、調達環境が好調とは一概に言えない要素も見えています」(同調査より)

と、株式市場の冷え込みから資金調達の難航・長期化が進んでいる。

岩崎代表は

「今年の新卒はそんな中でもリスクを取ってスタートアップを選んできている。そういう意味では一人ひとり強い子たちが集まっていると思います」

と話す。

事前に用意した資料を使って自己紹介する参加者。

事前に用意した資料を使って自己紹介する参加者。

撮影:土屋咲花

参加者は会社経営を体験できるビジネスゲームに取り組んだ。

参加者は会社経営を体験できるビジネスゲームに取り組んだ。

撮影:土屋咲花

日本経済新聞のNEXTユニコーン調査では、回答したスタートアップ企業の2021年度の平均年収は、上場企業の平均を7%上回る650万円だった。一方でこの春は大企業を中心に賃上げの発表や新卒の初任給の引き上げなど、待遇面での大企業の強さを感じる出来事が続いた。

なぜスタートアップへの入社を決めたのか。参加者に聞いた。

「大手の方が安定」でもスタートアップを選ぶ理由

古賀亜美さん(22歳、文京学院大学卒)は、キャンピングカーのレンタルやカーシェアを手掛けるCarstayの初の新卒として入社した。長期インターンで大学3年生の頃から約1年半、カスタマーサクセスの部署で問い合わせ対応や公式ラインの運用業務などを担当しており、入社後も同業務に携わる。

「インターンでは学生だから限定的な仕事しかさせない、というようなことはなく、むしろ私の意見をたくさん聞いて取り入れてくれましたし、『やってみなよ』と業務を任せてくれました。信頼されていることが嬉しかったです」(古賀さん)

実は、古賀さんは大学3年生の12月には既にドン・キホーテを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)から内々定を得ていたという。

「オファーはいただいていたものの体力に自信がなく、入社するかどうか迷っていました。そのことをCarstayの社長に話したら、面接を受けないかと言っていただきました」(古賀さん)

インターンでの経験や働き方が決め手となり、PPIHを辞退。6人目の社員として入社を決めた。

古賀亜美さん(中央)。

古賀亜美さん(中央)。

撮影:土屋咲花

「給与面で言うと、PPIHとCarstayの待遇はほぼ変わりませんでした。ただ、大手の方が安定性があるという意味で学生の間は不安になることもありました」(古賀さん)

と正直に明かす。

「でも今は心を決めていますし、強気な言い方をすると『じゃあ私が安定させればいいじゃん』と思っています」(古賀さん)

入社2か月前に大手企業を辞退。年収は100万円減…

岩﨑海里さん(右奥)はログラスのTシャツを着て入社式に参加した。

岩﨑海里さん(右奥)はログラスのTシャツを着て入社式に参加した。

撮影:土屋咲花

経営管理クラウドを提供するLoglass(ログラス)の岩﨑海里さん(23歳、一橋大学卒)は、2023年の1月末に人材サービス大手の内定を辞退して、ログラスへの入社を決断した。

5月からは採用責任者として、新卒採用に携わる予定だ。

年収は当初内定を得ていた企業よりも、100万円程低くなるというが、

「自分の将来に対しての投資時間だと思っています。今貰える金額よりも、将来的に自分がどれだけできるようになるかを軸に考えています」(岩﨑さん)

と話す。

ログラスには、就活を終えた後にインターンとして加入し、働いているうちに「入社して欲しい」と誘われた。面接を経て内定を得た際には、承諾するかどうかを回答期日の1月31日ぎりぎりまで考えたという。

「最初は成長企業である内定先でマーケティングの仕事をするつもりでした。でも、『ワクワク感をベースに意思決定することも悪くないのでは』という助言や、ログラスのミッションに共感したこともあって最終的に入社を決めました。また、シリーズAでは数億円規模の資金調達が多い中で、ログラスは17億円を調達しています。社会から期待されているという事実も決め手の一つになりました」 (岩﨑さん)


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