Francfrancの旗艦店である東京・青山店。心が高鳴る「かわいい」商品で若い女性を魅了している。
撮影:竹下郁子
インテリア雑貨「Francfranc(フランフラン)が」好調だ。2021年9月に創業者が退任。同時に大株主だったセブン&アイ・ホールディングスが保有株式の約半数を売却し、事業継承を得意とする投資ファンドを新たな株主として迎えた。
社員の削減、オフィスの縮小、運営ブランドの閉鎖、役員報酬の減額など苦しい決断を伴う経営改革を経て、黒字化も達成。経営資源を集中したことで、ヒット商品も増えたという。
シンプルでジェンダーレスなデザインが増える現代で、窓のない地下オフィスから「かわいい」を追求し続けるFrancfrancの新たな挑戦を追った。
「かわいい=心の高鳴り」を追求して30年
撮影:竹下郁子
撮影:竹下郁子
撮影:竹下郁子
撮影:竹下郁子
ピンクやパープルを基調とした雑貨にはフリルやリボンがあしらわれ、2階に続く螺旋階段を上ると、花柄のベッドに毛足の長いファー、キラキラしたシャンデリアといった家具が広く贅沢なスペースに並んでいた。
Francfrancの旗艦店である東京・青山店に一歩足を踏み入れると、まるでおとぎ話の中に迷い込んだかのような感覚を覚える人は少なくないだろう。
1990年の創業から30周年超となった同社がつい先日、発表したタグライン(企業メッセージ)は、「かわいくなれ、世界。」。
シンプルで性別・年齢を問わず幅広く使えるデザインをウリにするインテリア雑貨ブランドが増える昨今にあって、Francfrancは独自の路線をひた走っている。
新社長の佐野一幸さんは言う。
「Francfrancの店頭に立つと、いろいろな方が、さまざまなシチュエーションで『かわいい』『かわいい』と言い合っているのを本当によく耳にします。
形容詞の“可愛い”には複数の捉え方があると思いますが、私たちはそれを『心の高鳴り』と定義しました。
商品企画だけでなく、接客、販売、店づくり、全てにおいて『これってお客さまの心が高鳴る?』と問いかけながらやっています」(佐野さん)
カリスマ創業者なき後の組織、どう作る?
新社長の佐野一幸さん。東京・表参道のオフィスにて。
撮影:竹下郁子
タグラインを決めたのは社員たちだ。創業者で前社長の髙島郁夫氏が2021年に退任したのをきっかけに、全社員で繰り返しワークショップを開き、話し合ってきた。
このことがまさに、トップダウンからボトムアップの組織への転換点になったと佐野さんは言う。
「これまでのFrancfrancはカリスマ経営者が引っ張っていくスタイルでした。今後はそうでない自律分散型の組織に移行していく必要がある。
そのためにも会社が提供できる価値や、社員が行動する拠り所となるものは何か? 改めて言語化するプロセスが必要でした。ワークショップで感じたのは、社員皆が同じことを考えていて全くブレていないということ。
1人の強力なリーダーシップがなくとも、軸になるものがあれば、次の30年も勝ち残るブランドになれると思っています」(佐野さん)
2年連続の黒字、売上高354億円・純利益26億円
撮影:竹下郁子
直近6年間の業績は以下の通り。赤字の年もあるものの、この2年間は黒字化し、売上高350億円超に対し、20億円を超える利益を出している。
2022年8月期 売上高:354億円/営業利益:33億円/純利益:26億円
2021年8月期 売上高:361億円/営業利益:40億円/純利益:22億円
2020年8月期 純損失:12億円
2019年8月期 純利益:1000万円
2018年8月期 純損失:8億円
2017年8月期 純利益:4億円
佐野さんは2005年にFrancfrancに入社し、一貫して経営企画などファイナンスを担ってきた。直前の肩書きはCFOだ。社長に抜てきされたのは、役員として最年長で会社の在籍期間も長かったこと、そして株主として迎えた投資ファンドとコミュニケーションを取るのに適任だと判断されたことなどが背景にあったという。
「過去10数年にわたって、横ばいの業績が続いてきてしまいました。今後は成長にこだわっていきたいと考えています。株主の皆さんもそれを期待して、我々新しい経営陣に任せてくれていると思うので」(佐野さん)
人もオフィスも減らして挑んだ経営改革
Francfranc本社の様子。従業員は2022年8月時点で1393人。
撮影:竹下郁子
筋肉質な経営に転換するため、痛みを伴う改革も断行してきた。主に「人員削減」「オフィスの縮小」「不採算ブランドの閉鎖」「役員報酬の減額」の4つだ。
前社長の髙島氏はインタビューで「2020年に大胆なコストカットを実施し、250人いた本社を創業以来初めて希望退職を募ったり店舗勤務に変更するなどして150人に減らし、2カ所あったオフィスも1つを解約。役員報酬もカットするなどして年間10億円を浮かせた」と語っている。
佐野さんは上記について「おおむねその通り」とした上で、言う。
「オフィスは東京・表参道に2カ所あったのですが、契約の期限が切れたこと、そしてコロナ禍でリモートワークが主流になって席数が以前より必要なくなったこともあり、1つに集約しました。
今はもともとEC用の撮影スタジオだった地下フロアを、本社として使っています。窓もない地下ですが、活気があっていいですよ」(佐野さん)
人員削減については2020年8月時点で約700人いた正社員を、2021年8月には約640人に減らしたという。2022年2月末の正社員は約660人だ(本社・店舗勤務者を含み、休職者を除く)。
経営資源の集中でヒット商品が増えた
人気の寝具セット。ケースに収納するとクッションになる。
撮影:竹下郁子
また経営資源をFrancfrancに集中させるため、傘下にあった「MODERN WORKS」「Master Recipe」「A LAUBE」 の3ブランドをクローズした。これらは2018年ごろから同社が運営していたが、「まだ収益化できていなかった」(佐野さん)という。
「利益的に足を引っ張っているものをどうするか? コロナ禍のタイミングで早々に決断して、経営をスリム化していきました。
その結果、会社のリソースをFrancfrancにより集中させることができて、商品の完成度が上がり、ヒット商品がたくさん出るようになったんです。
私たちのビジネスは最終的には『商品』なので、ヒット商品の打率は重要です。これは本当にいい変化でした」
商品の企画にあたっては新しいデザイナーを入れるのではなく、元からいたチームに磨きをかけたという。
MBO、セブン&アイの売却経て、再上場も?
そんなFrancfrancには紆余曲折の歴史がある。
1990年:会社設立。当時の社名はバルス
1992年:Francfranc1号店を東京・品川区にオープン
2002年:JASDAQ(ジャスダック)市場に上場
2005年:東証第二部に上場
2006年:東証第一部に指定替え
2012年:MBO(経営陣が参加する買収)により上場廃止
2013年:セブン&アイ・ホールディングスと資本業務提携を結ぶ
2017年:社名をFrancfrancに変更
そして2021年7月、セブン&アイ・ホールディングスが、約49%保有していたFrancfranc株の25%ほどを売却すると発表した。
現在、そごう・西武の売却など多角化戦略の見直しを進めるセブン&アイだが、同社がグループ企業の保有割合を減らすのは2000年代以降、この時が初めてだったと当時の日経新聞は報じている(日経新聞2021年7月17日)。
買い手となったのは、後継者問題に悩む企業の事業継承を得意とする国内投資ファンド・日本成長投資アライアン ス(J-GIA)だ。
Francfranc広報部によると現在の株式保有割合は、J-GIA51%、創業家である髙島氏の会社・Blue Wedge Limited25.5%、そしてセブン&アイ・ホールディングス23.5%だ。
この数字を見ると、経営体制が変わった今も髙島氏の影響力は大きいように見えるが、
「いち株主としての関係はありますが、会社の役職はないですし、事業の運営について何かおっしゃることもありません。
今後の方針としては上場も選択肢の1つです。株主であるファンドのExitがあるタイミングでいろんな選択肢が出てくると思いますが、関係者と話し合いながら方向性を決めていきます」(佐野さん)
国内外140店舗、EC売上は20%
撮影:竹下郁子
Francfrancは現在、日本国内に132店舗、香港に9店舗を構えている。
この数年は国内外含めて、年間16店舗ほどの新規出店ペースを維持していく方針だ。
メインの購買層は昔から一貫して20〜30代の女性だが、最近はイオンなどショッピングセンターにも積極的に出店していることもあり、40〜50代にまで幅が広がっていると言う。
またECも右肩上がりに伸びており、コロナ禍を経て現在は売り上げ全体の約20%を占めているそうだ。
一方で懸念点もある。原材料や輸送費の高騰、円安だ。Francfrancの製造拠点は中国を中心としたアジアにある。
「仕入れという面では苦しいです。値上げも実施していますが、商品に見合った価格になるよう意識しています。
雑貨ブランドで競合は多いですが、Francfrancはギフト需要が非常に多く、それはブランド力の証左だと思っています。贈りたくなる商品ということなので。
小売の成功って、やっぱりいい商品を作ることに尽きるんですね。私たちの強みは従業員の自社ブランドへの愛が強いこと。今後はその部分をもっと強めていきたいです」(佐野さん)
「売り上げをいくら作った」などの人事評価には表れづらい「気持ちや行動」を評価するため、会社にとっていい行動をした従業員を表彰する制度も新たに設けた。
カリスマ創業者から引き継いだバトンで、日本中に「かわいい」を届ける佐野社長の挑戦は始まったばかりだ。