コスト半減の「超小型がん陽子線治療装置」が国内初導入へ。世界も注目のスタートアップが一歩

調印式の様子。

調印式の様子。右からビードットメディカルの古川卓司代表、江戸川病院の加藤正二郎院長、江戸川病院を運営する社会福祉法人・仁生社の加藤正弘理事長。

撮影:三ツ村崇志

今や二人に一人が「がん」になる時代。

誰でも同じ治療を平等に受けられるような環境を作るために、NEXTユニコーン(2022年版を日経新聞が取りまとめ)としても期待される国内のスタートアップが新たな一歩を踏み出した。

「超小型陽子線がん治療装置(以下、陽子線治療装置)」を開発する旧・放射線医学総合研究所(放医研)発のベンチャー、ビードットメディカルが、江戸川区にある江戸川病院に陽子線治療装置を導入することが決まった。導入決定は、同社としては初。

4月3日に同病院グループである江戸川メディケア病院で開催された調印式で、ビードットメディカルの古川卓司代表は、

「放医研発ベンチャーでありながら、私たちは江戸川区のベンチャー企業でもあります。私どもが開発したこの小型陽子線装置が、地元である江戸川病院さんに最初にお使いいただけるということで非常に嬉しく思っています。それと同時に、江戸川区から世界に先端医療を届けるために引き続き続き邁進していきたいと思います」

と語った。

「都内初」の陽子線治療を提供

陽子線治療は、がんの「放射線治療」の一種。

ただし、X線を使う一般的な放射線治療法に比べて、周囲の正常な細胞へのダメージを少なく抑えることができる点が特徴だとされている。2000年代初頭に頭部の腫瘍の治療法として承認されて以降、少しずつ適用範囲が拡大されてきた治療法であり、実はそこまで新しいものではない。

ただ、一般的な陽子線治療装置は、陽子線を照射する装置そのものがビル3階分に相当する高さ12メートル、重さ約200トンとかなり巨大であることが大きなネックだった。導入にはコストもかなりかかることから、2023年3月の段階で全国で導入されている施設は16道府県・19施設のみ。最も人口が多い東京都内でも、陽子線治療装置を持つ医療機関は存在しなかった

古川代表も

「(陽子線治療は)都内に限らず、日本全国でもまだ普及していない治療です。その1番の原因は機械があまりにも大きすぎることで、なかなか普及していなかった背景があります」

と、有益な治療方法でありながら普及が進んでこなかった現状をこう指摘する。

イメージ

従来の装置とビードットメディカルが開発する装置のサイズ比。比べてみるとその違いは一目瞭然だ。

画像:ビードットメディカル

ビードットメディカルでは、もともと放射線医学研究所で陽子線をはじめとしたさまざまな「粒子線」の装置を開発していた古川代表の知見を生かし、高さ4メートル、重さ約20トンと大幅に小型化した陽子線治療装置の開発に成功。これに伴い、コストも既存製品の約50億円から半分の25億円ほどにまで削減できたという

こういった背景から、今回導入先となった江戸川病院とビードットメディカルは、2022年12月に基本合意書を締結。今回の調印式を経て、装置の導入に向けた具体的な話し合いを進めていくことになる。

実際に導入されれば、東京都内で初めて陽子線治療という選択肢を提供できる医療機関が誕生することになる。

古川代表が以前Business Insider Japanのインタビューで語っていた「地域の中核病院に必ず陽子線治療装置があれば、『午前中だけ半休を取って治療する』というように、働きながら治療をすることもできるはず」という世界観に、一歩近づくわけだ。

なおビードットメディカルは、2023年2月にタイ・タマサート大学とも導入に向けた基本合意を結んでおり、世界への展開が期待されている。

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