(左から)セレブラルバレーAIサミットで議論する独立系ジャーナリストのエリック・ニューカマー、Adept社の共同創業者兼CEOのデイビッド・ルアン、グレイロックのパートナーであるサーム・モタメディ。
Greylock
サンフランシスコのフィルモアとミッション地区の間にある何本かの通りは、最近、セレブラルバレー、ベイズバレー、ヘイズバレーなど、さまざまな名前で呼ばれている。
2023年3月30日の朝、この地区で、独立系ジャーナリストのエリック・ニューカマー(Eric Newcomer)と音声AIゲームのスタートアップであるVolley(ボレー)が共同開催した「セレブラルバレーAIサミット(Cerebral Valley AI Summit)」が開かれた。
サミットには、何十人ものAI好きや起業家、AIについてもっと学びたいと考えているベンチャーキャピタリスト(VC)たちが集まった。
サミットでは、データプライバシーの問題やAI関連企業の加熱した評価額の高騰など、さまざまなトピックが取り上げられた。
本稿では、このイベントで議論された3つの主なポイントを紹介する。
1. パワフルなAIモデルとその閉鎖性
Anthropic(アンスロピック)、Adept(アデプト)、Stability AI(スタビリティAI)など、OpenAI(オープンAI)の競合企業たちが参加したパネルディスカッションでは、AIモデルのプロバイダーの今後の展望について議論が交わされた。
登壇者の何人かは、AIスタートアップの中でもリーダー的な存在は依然としてOpenAIだと認めつつ、それ以外の企業にも魅力的なところがあると話す。
OpenAIがマイクロソフトから数千億円規模の出資を受けたのは、膨大なクラウドコンピューティングパワーが必要だったからだと言われている。クレイナー・パーキンズ(Kleiner Perkins)のパートナーであるバッキー・ムーア(Bucky Moore)は、マイクロソフトの競合の中にはOpenAIと提携することを警戒し、AnthropicやStability AIなど他のAIプロバイダーとの提携を模索する企業もあると語った。
また、コンピューターのコストが低下し、ベンチャー企業らはAIモデルのトレーニングプロセスを簡素化しようとしている。第三者のプロバイダーに頼らず、自社でAIモデルをトレーニングすればさらなるコスト軽減につながる。
ファウンダーズ・ファンド(Founders Fund)のリー・マリー・ブレイズウェル(Leigh Marie Braswell)は、インフラのスタートアップ企業であるMosaicML(モザイクML)のブログ記事に触れ、GPT-3級のクオリティを持つAIモデルは今やわずか50万ドル(約6500万円、1ドル=131円換算)で作ることができ、OpenAIのAIモデルのトレーニングに必要とされていた数億円から大幅に減少していると述べた。
また、サミットの議論の中には、Stability AIの創業者兼CEOであるエマド・モスタック(Emad Mostaque)のように、AIモデルの問題はもはやその性能やコストではなく、透明性やアクセシビリティの問題になっていると話す者もいた。
一方、モスタックはOpenAIの閉鎖性についてこう語った。
「プライベートで管理されたデータをブラックボックスに送るというようなことはできません」
モスタックが描くAIモデルの未来のビジョンでは、人々はオープンソースのモデルとそうではないモデルの両方をハイブリッドな形で使い、携帯電話にまでそれらのAIモデルを搭載するようになる、という。
2. コーディングの未来
近年のAIブームに伴い、開発者がAIや非AIアプリケーションを構築するのを支援するスタートアップが続々と登場している。今回のサミットでは、LangChain(ラングチェーン)、CodeComplete AI(コードコンプリートAI)、Pyq AI(パイキューAI)などのスタートアップがソフトウェア開発の将来について語った。
スタートアップの中にはCodeComplete AIのように、大企業向けにより良いセキュリティとプライバシーを提供することで、AI生成コードの分野では草分け的存在のGitHub Copilot(ギットハブ・コパイロット)に対抗して差別化しようとする企業もあった。
Pyq AIの共同創業者であるエミリー・ドーシー(Emily Dorsey)に代表される開発者ツール企業のファウンダーの多くは、自分たちの目標はソフトウェアエンジニアに取って代わることではなく、エンジニアがもっと効率的に、人間が得意とする仕事に集中できるようにすることだと強調する。
しかし、これらのスタートアップの中には、OpenAIのような大規模モデルプロバイダーに依存しているところもあり、OpenAIの提供するプロダクトの進歩やリリースによって自社プロダクトの開発を調整しなければならないこともしばしばあり、それが問題となる。
LangChainの創業者、ハリソン・チェース(Harrison Chase)も、大規模モデルプロバイダーがどの分野に深く関わっていくかによって自社の戦略が大きく左右されると語った。
3. AIは人間の代替になるか
イーロン・マスクやスティーブ・ウォズニアックなどテック業界の大物たちは最近、AI開発の半年間休止を求める公開書簡に署名した。そのこともあり、サミットでは多くの人が偏見やデータプライバシーといったAI技術のリスクに関する懸念を表明し、その解決策を議論した。
モスタックは、一般的なAIの可能性についてはあまり心配はしていないが、AIが労働者にとって代わるということについては警戒していると述べた。AIモデルの内部構造について、より透明性を高めるために、Stability AIのStable Diffusion(ステーブル・ディフュージョン)のようなオープンソースモデルの利用を増やすことが考えられる、とモスタックは言う。
また、議論されている解決策が、AI自体が抱える問題と同じくらいに危険なものになる可能性があると主張する参加者もいた。
「解決策が、結果的に善悪を判断する中央集権的な組織を作ることになるのではないかと懸念しています。必要とされているのは、もっと分散型の仕組みです」(ムーア)
しかし、大方の参加者の見方は、どのような結果になろうともAIの驚異的な進歩のペースを止めることはほぼ不可能だということだ。
「我々は激しい競争の真っただ中にいるのです」(ニューカマー)