ヴァージン・オービットを設立した起業家のリチャード・ブランソン。
Virgin Orbit/Matthew Horwood/Getty Images
- リチャード・ブランソンが設立したヴァージン・オービットは、2023年1月に人工衛星の打ち上げに失敗したが、立て直しを図るために奮闘していた。
- 従業員をレイオフし、資金調達も試みたが失敗し、連邦破産法11条の適用を申請することになった。
- 同社の何が問題だったのかを解説する。
人工衛星の打ち上げ失敗、投資家との交渉の停滞、レイオフ、そして今回の破産法適用申請。ヴァージン・オービット(Virgin Orbit)が激動の数カ月を過ごしていたことは明らかだ。
起業家のリチャード・ブランソン(Richard Branson)が設立したこの衛星打ち上げ会社は、2021年の上場後には評価額32億ドル(約4200億円)だったが、2023年4月4日には時価総額が6740万ドル(約90億円)まで落ち込んだ。
ヴァージン・オービットは結局、事業を継続するための資金を確保できず、4月4日にアメリカの連邦破産法11条の適用を申請した。
しかし、一体何がきっかけで坂道を転げ落ちるような状況に陥ってしまったのだろうか。
SPAC取引で資金不足に
ヴァージン・オービットは「フレキシブルで反応性の高い」打ち上げシステムを有していると喧伝し、国防用や商業用の衛星、国際的なプロジェクトのための衛星を軌道に乗せてきたとしている。2019年には、アメリカ空軍の衛星を交換する必要があれば、24時間でそれをこなすことができるとブランソンは述べていた。
このようなアピールにもかかわらず、2021年のSPAC(特別買収目的会社)設立に必要とされていた4億8300万ドル(約641億円)の調達はできなかった。代わりに、企業結合によって2億2800万ドルの資金を調達したと声明で述べている。これは、株主の償還率が高かったことに起因しているとCNBCが報じている。
高額な打ち上げコストと低い成功率
ヴァージン・オービットが2019年7月に行った初めての衛星打ち上げ実験で、「コズミック・ガール」から切り離される小型ロケット「ランチャーワン」のテスト機。
Greg Robinson/Virgin Orbit
ヴァージン・オービットは、ブランソンの宇宙旅行会社ヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)から2017年にスピンアウトした会社で、両社ともヴァージン・グループ(Virgin Group)の傘下となっている。
宇宙基地の発射台からロケットを打ち上げるスペースX(SpaceX)とは異なり、ヴァージン・オービットでは、ヴァージン・アトランティック航空(Virgin Atlantic)で使用されていたボーイング747を改造した「コズミック・ガール」から、ロケットを空中発射する。小型衛星を搭載したロケット「ランチャーワン」は、コズミック・ガールの翼の下に取り付けられ、高度1万メートルに達したときに切り離される。その後、ロケットは轟音をあげて進み、軌道に衛星を送り込む。
同社は創業以来、合計6回の打ち上げのうち4回を成功させた。
ランチャーワンは機体全体を再利用できるわけではなく、これを用いた空中発射は、1回あたり約1200万ドル(約16億円)のコストがかかると報じられている。しかし、ボーイング747は再利用ができる。
ブランソンとヴァージン・グループは、ヴァージン・オービットへの支援としてこれまでに10億ドル(約1300億円)以上を投資しており、そのうち6000万ドル(約80億円)は2022年11月以降の投資だと同社の広報担当者がInsiderに述べている。この資金は「ヴァージン・オービットが絶えず直面している強い逆風と流動性の課題に対抗するには十分ではなかった」と広報担当者は付け加えた。
打ち上げの失敗
左翼の下にランチャーワンが取り付けられたコズミック・ガール。ニューキー・コーンウォール空港で最終準備が進められている様子。
Matthew Horwood/Getty Images
ヴァージン・オービットは、ロケットの打ち上げの大半を、本社のあるカリフォルニアで行っている。2020年5月に最初のロケットを打ち上げたが、宇宙へ向かう途中で失敗になってしまった。
2回目となる2021年1月の打ち上げは成功し、NASAの小型衛星10基を軌道に乗せた。
これに続いて2021年にさらに1回、2022年に2回と、3回の打ち上げを成功させた。だが、同社のダン・ハート(Dan Hart)CEOは、2022年に7回の打ち上げ成功を目指すとCNBCに語っており、それは果たせなかったことになる。
打ち上げ回数が減ってきたことから、6回目となる2023年1月の打ち上げへの期待が高まった。それは、イギリスから発射する初めての軌道に向けた打ち上げとなる予定だった。ニューキーのスペースポート・コーンウォールから離陸したコズミック・ガールは、ランチャーワンを高高度で切り離すことに成功した。しかし、このロケットは「異常」に見舞われ、搭載された9基の衛星を軌道に乗せることはできなかった。
結局、ヴァージン・オービットは必要な収益を得るための打ち上げ回数を達成できなかったとCNBCは報じている。
資金調達の問題
イギリスでの打ち上げ失敗以来、ヴァージン・オービットは投資家から資金をかき集めようとしていたと報じられている。ロイターによると、テキサスに拠点を置く投資家マシュー・ブラウン(Matthew Brown)は同社に2億ドルを出資する交渉を行っていたが、話し合いは決裂したという。
ブランソンはヴァージン・オービット最大の株主で75%の株式を所有しているが、これ以上の資金提供をするつもりはないようだとCNBCが報じている。
このような混乱の中、同社は従業員の85%をレイオフすると3月30日に発表した。また「当面の間」、事業を停止するとCNBCが報じている。
同社は現在、倒産の危機に瀕している。Insiderが4月4日に確認した破産申請のコピーによると、同社は2022年9月30日時点で約2億4300万ドル(約320億円)の資産を保有し、1億5350万ドル(約200億円)の負債を抱えている。
連邦破産法第11条の適用を受ければ、同社は債務を整理する間、事業を続けることができる。
Insiderはヴァージン・オービットにコメントを要請したが、返答は得られていない。