Treatの共同創業者、マット・オスマン氏(左)とヒュー・ハンター氏。
Treat
マット・オスマン(Matt Osman)氏が語るeコマースの未来は、興奮と同時に恐ろしさを感じさせる。広告からランディングページまで、購買体験全体が消費者一人ひとりに完璧にパーソナライズされるというのだ。
「ただし、消費者はパーソナライズされた体験を望んでいますが、監視されているとは思いたくないでしょう」
オスマンと共同創業者のヒュー・ハンター(Hugh Hunter)氏は、このビジョンに向けて、カスタマージャーニーの第一歩である「広告」に注力して事業に取り組んでいる。
彼らのスタートアップTreatは、生成型人工知能(AI)を活用してパーソナライズされた商品画像を作成するというもので、最近、グレイロック・パートナーズ(Greylock Partners)から850万ドル(約11億円、1ドル=130円換算)のシード資金を獲得した。
Treatのビジネスのバックグラウンドには、広告主による消費者のトラッキングを困難にしたアップル(Apple)のプライバシーに関する変更と、画像作成のハードルを下げた生成型AI技術という2つの要因がある。
プライバシーに関する規制が強化される中で、広告主が新規顧客を獲得するための最大の武器は広告画像とコピーそのものだとオスマン氏はInsiderに語る。
Treatは、企業が持つ顧客データを活用して、ターゲット層と相性の良い要素を盛り込んだ商品画像を自動生成する。例えば、マッシュルームコーヒーのブランドに関する広告では、18歳から25歳の男性の場合、広告そのものに商品の原材料の写真が写っている方が好ましいというデータに基づいて、背景にキノコが含まれた画像が生成される。
ターゲット層を変えたり、クリック率などのパフォーマンス指標に合わせて最適化したりと、制作者側で簡単に広告画像を調整することができるという。
Treatは、MidjourneyやStability AIのStable Diffusionなど、サードパーティやオープンソースのAIモデルを組み合わせて活用し、独自のデータ収集で微調整を行っているとオスマン氏は語る。
その他にも、Flair AIなど、新進気鋭の生成型AIを扱うスタートアップが多数登場し、ブランディングされた商品画像を素早く作成するという課題に取り組んでいる。しかし、アドビ(Adobe)などの既存企業にとって、これらの画像生成技術を模倣することは比較的容易であり、真の競争力は、顧客データと統合して、どれほど効果的な画像を生成できるかにかかっているとオスマン氏は指摘する。
「ブランドの持つデータとの統合は、とても難しいものです」とオスマン氏は述べる。
「当社ではそのデータを、我々自身が収集した独自のデータで補強し、独自の人間によるフィードバックや、我々のモデルのトレーニングに協力してくれる人々も活用しています」
今回のシード資金調達により、Treatは機械学習、営業および運用に携わる人材を採用する計画だ。
「消費者のプライバシー保護とオフラインの世界で得られる高度なサービスを両立させる方法があるはずです」(オスマン氏)