サントリー天然水の2Lペットボトル。4月上旬から新しいペットボトルを順次展開していく。
撮影:三ツ村崇志
飲料の容器に使われるペットボトル。
便利である一方で、飲み終わった後に資源回収の日まで家で保管しておくのはちょっとした手間だ。袋に入れてまとめようにも、数が増えるとどうしてもかさばって邪魔になってしまう——。
飲料大手のサントリーは4月5日、この消費者のちょっとしたストレスを軽減できる新容器を発表した。新しいペットボトルは、飲み終わった後に「折りたたむ」ことで、約6分の1まで小さくコンパクトにすることができる。まずは4月上旬から「サントリー天然水」の2リットルサイズの商品に展開していく計画だ。
サントリー天然水のペットボトルが新しくなるのは、実に20年ぶり。同時に原料の30%を植物由来のものにするという。
「消費者」も「回収業者」も、小さくするとメリットが
サントリーが開発した新しいペットボトルでは、容器をわずかに平行四辺形に加工することで、ペットボトルの「腹」の部分を押した際に、自然と同じようにつぶれるようになっている。
ペットボトルをつぶした後、飲み口と底についている星マークを結ぶように折りたたみ、さらに容器上部についた折り目(下図参照)に沿って口の部分を曲げることで、全体をコンパクトなまま固定できる。
ペットボトル上部についている「折り目」(飲み口のすぐ下)。最後にこの線に沿って折ると、しっかりと固定される。
画像:サントリー
サントリー食品インターナショナルのブランド開発事業部の佐藤晃世副事業部長は、この新容器と「折りたたみ方」を普及させることで、
「回収の日まで家の中で保管するのが嫌だという声を解消し、もっとポジティブにペットボトルの分別回収に取り組んでいただけるのではないかと考えております」
と話す。
飲み終わったペットボトルをコンパクトにまとめることのメリットは、家で保管しやすくなることだけではない。
「小さくたたむことで資源回収の袋の使用枚数が減り、経済性も上がると考えております。また、ペットボトルを回収する方々においては、1回当たりの回収量が減らせるので、 回収ルートが改善され、効率アップにもつながるのではないでしょうか」(佐藤副事業部長)
実際、ペットボトルを回収する際に「つぶすこと」を推奨している自治体は多い。東京23区でも、調べた範囲で少なくとも18区のホームページに「つぶす」あるいは「できるだけつぶす」という文言があった。
「ペットボトルがかさばる」
サントリー食品インターナショナルのブランド開発事業部の佐藤晃世副事業部長。
撮影:三ツ村崇志
飲料業界では、長年にわたりペットボトルの容器包装まわりの改善が進められてきた。背景にあるのは、環境負荷の低減やユーザビリティの向上だ。
サントリーでは、ペットボトルそのものやラベル、キャップの軽量化をはじめ、植物由来原料の利用拡大や持ちやすさ・注ぎやすさを重視した形状の導入、分別回収のしやすさを意識したラベルレス商品の展開などを進めている。ボトルの軽量化は、プラスチック量の削減だけではなく、ボトルがつぶれやすくなることも狙っていた。
ただ今回のように、折りたたんでさらに消費者に能動的にコンパクトにしてもらおうという取り組みは初めてだ。
他社を見ると、例えばコカ・コーラでは2015年に「ペコらくボトル」と称した角柱型のつぶしやすいデザインのペットボトルを開発。従来のペットボトルと比較して約半分の大きさまで小さくすることができるとして、無糖茶カテゴリーの製品に導入している。2022年6月には「い・ろ・は・す」の容器もブランド誕生以来13年ぶりにリニューアル。つぶしやすく改良している。
そう考えると、「つぶしやすくしたい」はもちろん、「コンパクトにしたい」という需要は、実は以前から消費者の中に存在していたと言えそうだ。
佐藤副事業部長に新容器を開発した背景を問うと、
「実際、サントリー天然水を飲んで頂いているお客さまから『家の中でかさばる』とか『置いておきたいけれども重い』といったいろいろなことを伺いました。お客様の生活に寄り添うブランドでありたいと考え、今回、容器の開発に取り組みました」
と、消費者の声を出発点に開発がスタートしたと語った。
子どもと図書館。折り紙がヒントに
サントリーHDの包材部で新しいペットボトルの開発に携わった荻野大介さん。
画像:サントリー
今回サントリーが開発した新容器は、一見すると今までとあまり大きな違いはない。ただ、開発にかかった期間は約2年。その間に試作した容器の数は70を超える。
これは、単につぶしやすくするだけではなく、わざわざ「折りたたむ」という動作を誘導するための設計が必要になったことが大きく関係している。ただ、新しいペットボトルの開発にあたって、最初から「折りたたみたい」という要請があったわけではない。
この容器の開発に携わった、サントリーHD包材部の荻野大介さんは、
「2リットルのボトルに対して付加価値を付けようとしていました。持ちやすさや注ぎやすさについてはもともとこだわっていたのですが、さらにブラッシュアップしていく上で、事業部から使い終わったあとの体験を良くするところで開発してほしいと話がありました」
と開発の発端について語る。
開発をスタートした当初は、縦(垂直)方向に圧縮するタイプや、横方向にさらにつぶしやすくするタイプも考えていたというが「面白くなかったんです。つぶしたくなるような楽しいものを考えたかった」(荻野さん)という。
「折りたたんでコンパクトにする」というアイデアのきっかけになったのは、子ども図書館に行ったときに見つけた「折り紙」の本だったという。
「(本を見つけたとき)『折り紙だ』と、インスピレーションが湧いてきました。子どもに感謝です」(荻野さん)
ただ、ペットボトルを折りたたんで小さくしてもらおうにも、人によってつぶし方はさまざま。「押す場所」を示すためにペットボトルにマークをつけても、同じようにつぶしてはもらえなかった。
そこで荻野さんは発想を変えた。
「つぶし方を誘導するのは難しかったのですが、自然につぶれて折りたたみやすくなるように『つぶれ方』を誘導すればよい。そこで、最初から少しだけ平行四辺形になった形のペットボトルをつくりました」(荻野さん)
そこからさらに試行錯誤が続いた。
荻野さんによると、ペットボトルで左右非対称な構造を作ることは非常に難しく、加えてつぶれ方を誘導するために平行四辺形にしたことで、ペットボトルの強度が弱くなるという問題が発生したという。
ペットボトルの強度は、手に持った際の「飲みやすさ」や「注ぎやすさ」に直結する。加えて、輸送時の荷重の伝わり方にも影響を与える。
飲んだ後につぶしやすい一方で、容器として必要な基準をクリアするために荻野さんは試作を積み重ね、最終的に平行四辺形の内角の角度が、90度からわずか「5度」ずれた構造に落ち着いた。その上で、二つ折りにして体積をできるだけ小さくした状態で固定するために、飲み口の近くに折り目をつけるなどの工夫も施した。
こうして新しいペットボトルが完成したのは、2022年の9月頃だったという。
新しいペットボトル(左)と、従来のペットボトル(右)を同じようにつぶしてみると、確かに新しいペットボトルの方がコンパクトのままになっていた。
撮影:三ツ村崇志
コンパクトに折りたためるペットボトルの着想を得た当初は、つぶすと同時に勝手に折りたたまれるような構造や、最終的に折りたたんだ時に「カチッ」とロックできるような構造を組み込むことも検討に挙がっていたという。ただ、技術的な制約もあり、最終的には消費者に自主的に折りたたんでもらう形になった。
荻野さんも「そこについては、啓蒙していくしかないとは思います」と話す。
メーカーのちょっとしたリニューアル。消費者の立場からするとあまり気づくことはないかも知れないが、手に取る機会があれば、その背景には技術者の試行錯誤があったことを思い出して欲しい。