アマゾンのアンディー・ジャシーCEO。
Amazon
アマゾンが従業員に報酬の一部として分配している株式数を減らそうとしている。この動きは、経済が不透明な中、同社が広範囲に報酬を変更しようという狙いなのではないかと見られている。
先ごろ管理職に対して出された社内文書によると、経済情勢と社内の予算により、アマゾンは2025年の制限付き株式ユニット(RSU:restricted stock units)と呼ばれる従業員に分配される株式を削減する予定だという。
この文書は、アマゾンの給与体系を変更し、従来よりも現金支給を増やす可能性を示唆しており、変更によって株価の潜在的な低迷を補えるとしている。
この2025年に向けての計画は、2年先を見据えたアマゾンの通常報酬体系見直しサイクルの一環だ。例えば2023年であれば、ほとんどの従業員は、2023年の給与総額と2024年と2025年の株式付与数が記載された報酬サマリーを受け取る。アマゾンは2024年の第1四半期に「株式数の変動を加味し」2025年の報酬を見直すという。
「今年の報酬を最終決定し、先行きが不透明な経済、会社の報酬予算、そして基本的な現金報酬と株式のバランスが改善されるよう将来の報酬モデルを調整したところ、最終展望年のRSUを若干減らすことを決定をしました(他の年は影響なし)」
文書にはそう書かれている。この件に詳しい人物によると、「最終展望年」とは、2024年から始まる2年間の付与サイクルを考えると、2025年を指しているという。
現在、アマゾンの株価は、2018年夏と2020年春とぼぼ同レベルで推移している。ここ数年、株価の上昇が低迷していたため、従業員の中にはRSUに基づいた報酬に対して不満を漏らす者もいる。現金報酬を増やすことは、それらの従業員の懸念に答えることになる。
決定ではなく可能性
アマゾンの広報担当者であるオーガスト・アルデボット=グリーンは、Insiderの問い合わせにメールで回答し、この文書の内容が正しいことを認めた。しかし、広範囲でのアマゾンの報酬体系の変更は、決定ではなく可能性であり、会社の報酬に関する哲学に「変更はない」という。
アマゾンはこれまで同業他社に比べ、現金で支給する基本給の額を少なくする代わりに、自社株式を従業員に付与し、株価が大幅に上昇する期待によって従業員を惹き付けてきた。この戦略は、2009年から2021年までアマゾンの株価が急上昇したときには非常にうまく機能したが、2022年に株が急落したことで、従業員維持のための手段としてのRSUの価値は失われてしまった。
アマゾンがスタッフに付与するRSUを減らすと決定したことは、2022年からの大きな転換を意味する。2022年に同社が過去最高額の株式報酬を発行したことは、Insiderが以前報じている。2022年に開示されたアマゾンの株式報酬額は196億ドル(約2.6兆円、1ドル=132円換算)で、前年比54%増、2020年の2倍以上の水準となった。
2022年に市場が低迷する中、他のテック企業も同様に数百万株の追加発行を行ったが、そのようなことは 「完全に持続不可能だ」と一部のアナリストは指摘する。企業が大量の新株を発行すると、将来の利益に対する自分たちの取り分が希釈化されるため、投資家から不満が出ることも多い。
管理職向けの社内文書でアマゾンは、この変更により、2025年の給与体系を「より柔軟に調整する可能性がある」とした。
「最終的な展望年で行う変更により、次の報酬サイクルでその展望年について見直す際、もっと柔軟に基本給と株式付与の組み合わせが調整可能になります」と文書に記されている。
基本給の増額を望む従業員
もし給与体系が変更されれば、アマゾンは従業員の不満に応えることができるかもしれない。Insiderや関係者が確認した内部文書によると、同社を退職するスタッフはよく、基本給の低さをその主な理由として挙げていた。
現在の報酬体系は近年大きな問題となっており、離職率の上昇を促し、Insiderが以前報じたように、アマゾン社内では「地球で最高の雇用主」になるために取り組むべきことの1つとして認識されるようになった。
2022年に行われた社内調査では、従業員はより高い基本給を好むことが分かったと、アマゾンの関係者は述べている。現金の比率が低いパッケージに比べて、現金が75%、株式が25%のパッケージのほうが従業員に高い評価を受けたという。
こうした懸念に対処するため、アマゾンは2022年、基本給の上限を35万ドル(約4600万円)に引き上げ、従来の16万ドル(約2100万円)から2倍以上に増やした。それでも、多くの社員は昇給がないことに不満を持っていた。
アマゾンは以前からRSUを利用してインセンティブを調整してきた。Insiderが確認した社内ガイドラインによると、アマゾンは管理職に対して、社員が会社の給与体系について質問してきた場合、「オーナーシップ」と「長期的」な思考の重要性を強調するように指示している。
「私たちは、報酬プログラムを通じ、社員のオーナーシップへのコミットメントを強化しています。当社の株式の長期的権利を付与し、当社の長期的な業績と成功によって、従業員が株の所有権を維持することの重要性が高まります」と述べている。
今のところ、アマゾンは2025年の株式分配に関して慎重に見える。ある従業員の報酬明細書では、2025年の株式付与の欄が空欄になっており、一部のRSUプランがまだ確定していないことを示していた。
それでも、アマゾンは将来の株価パフォーマンスについては強気のようだ。前述の報酬明細書によると、アマゾンは2024年と2025年の15%の想定株価上昇を見込んでいる。