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- ウォール・ストリート・ジャーナルの調査の結果、アメリカ人はかつてのように「勤勉であること」に価値を見出していないことが分かった。
- 「勤勉さ」を必要とする仕事がなくなったわけではない。賃金が安いだけだ。
- 今日の労働者 —— 特にギグワーカー(雇用関係を結ばない単発・短時間の働き方をする人)に、かつて「勤勉であること」が約束したような保証はない。
ウォール・ストリート・ジャーナルの調査の結果、アメリカ人は愛国心、宗教、勤勉であることをかつてほど重要視していないことが分かり、共和党の活動家や政治家たちはこれに憤慨した。
調査の結果を受け、「アンチ・ウォーク」の投資家で2024年の大統領選の共和党候補指名争いに立候補したヴィヴェク・ラマスワミ(Vivek Ramaswamy)氏は、「信仰、愛国心、家族、勤勉は姿を消した」とツイートした。トランプ政権で大統領報道官を務めたアーカンソー州のサラ・ハッカビー・サンダース知事は「これがこの国のさまざまな問題の原因」とツイートした。
ウォール・ストリート・ジャーナルとシカゴ大学の全国世論調査センター(NORC)が実施し、アメリカの1019人の成人が回答した3月のこの調査では、回答者の67%が自分にとって勤勉であることは「とても重要」だと答えた。回答者の83%が勤勉さはアメリカ人の気質のとても重要な一面だと答えた1998年から16ポイント低下した。
ウォール・ストリート・ジャーナルの編集者アーロン・ジトナー(Aaron Zitner)氏は、アメリカ人はかつて「一生懸命働けば、アメリカでは成功できる」と信じていたが、「今回の調査で、わたしたちの子ども世代はわたしたちの世代よりも良い暮らしができないかもしれないという悲観主義がこれまでになく高まっていることが分かった」とポッドキャスト『What's New』で指摘した。子ども世代は自分たちよりも良い暮らしができると「自信がある」と答えたのは21%だった。1998年の調査では64%だった。
勤勉さや愛国心、宗教、子どもを持つことといった価値観は「何世代にもわたって、アメリカ人の気質を定義付けてきた」とジトナー氏は『What's New』で語ったが、最新のデータはこうした価値観がもはや"国"としてアメリカ人を1つにまとめていないことを示している。
勤勉さに対する悲観論に拍車がかかっているのは、アメリカ人が「この20年、一生懸命働くことしかしてこなかった」からかもしれないとInsiderに語ったのは、イエール大学の教授で労働史を研究しているジェニファー・クライン(Jennifer Klein)氏だ。
アメリカ人が一生懸命働きたがらないことが問題なのではないと、クライン氏は話している。中でもギグエコノミーの台頭によって、労働者はどんなに頑張ろうと安定、収入、福利厚生、社会的地位を失ってきたのだ。
問題は「頑張って働いた見返りが"不安定"であること」だとクライン氏は指摘している。
ギグワークの増加が原因?
アメリカ人の労働時間は以前に比べて減っているものの、これまでになく懸命に働いている。
1990年代以降、企業はコストを削減するために労働力をアウトソーシングし、労働者は賃金を得るために不安定かつ不規則なパートタイムの仕事を当てにせざるを得なくなったとクライン氏は指摘する。
非営利団体National Employment Law Projectによると、雇用主の10~30%が従業員を独立した請負業者またはギグワーカーとして分類し、何百万人分もの労働災害に対する補償、失業保険、その他の福利厚生を与えずにいるという。
左派系シンクタンクのEconomic Policy Instituteの試算によると、例えば、このように"誤って"分類された建設労働者は、最大で年間1万6729ドル(約220万円)もの収入と手当を損失しているという。同様に、"誤って"分類された在宅介護者は9529ドルを失っていて、造園師やトラック運転手、ネイルサロンのスタッフ、清掃作業員なども賃金未払いのリスクが高いという。
労働者に柔軟性と自由を提供する —— これがギグワークの楽観的な"約束"だ —— というよりも、このシステムは「果てしない労働とそれでも足りない労働時間」をもたらしたとクライン氏は指摘している。アメリカでは労働人口の少なくとも17%が不安定な勤務体系に置かれている。こうした人々は比較的低収入で、小売、ホスピタリティー/レジャー、専門/ビジネスサービス、医療サービスなどで働いている傾向がある。
「週によって自分の勤務シフトがどうなるか分からないと、子どもを世話したり、教育を受ける計画も立てられない。家族と過ごす予定も立てられない」とクライン氏は話している。
その結果、「人々はきつくて激しい仕事を非常に好ましくない、割に合わない条件で担ってきた」と同氏は付け加えた。
コロナ禍で増した負担
2020年の初め以降、看護師やバスの運転手、食肉加工や倉庫作業に従事する人々は自らの命を危険にさらしてきたが、あまり報われなかった。
彼らは「ミドルクラスや専門職の人々が自宅で守られた環境にいる」中で、「不平等を目のあたりにしたでしょう」とクライン氏は語った。「労働条件に憤りを感じる」のも当然だと同氏は言う。
ウォール・ストリート・ジャーナルの調査で高齢者の方が若者よりも勤勉さを重視する傾向が強かった —— その差は14ポイントと驚くべきものだった —— 背景には、こうした労働条件の悪化がある。上の世代は力のある労働組合とニューディール時代の労働法に守られ、"1日8時間、週40時間労働"の枠内で懸命に働いたとクライン氏は指摘する。彼らは団体交渉によって良い給料、医療、有給休暇、年金を確保した。
そしてここ近年は「懸命に働けば安全が手に入る可能性があり、勤勉であることが社会的価値だった」とクライン氏は話している。「雇用主にはそれを守れという社会的圧力だけでなく、政治的、経済的圧力があった」という。
ところが、雇用の規制緩和と"公正な労働"というニューディール構造の解体は、"勤勉"と"安全"を切り離したと同氏は指摘する。実質賃金はここ数十年、ほとんど変わっていない。
だからこそ、ニューヨーク・タイムズの記者や看護師、アマゾンの倉庫作業員、コロンビア大学の大学院生、スターバックスのバリスタなど「さまざまな労働者がここ数年で初めて、組合の結成や集団行動(やスト)を志向するようになったのだろう」とクライン氏は話している。
「人々は懸命に働いているものの、実際に十分な賃金は得られておらず、上の世代が受けていたような福利厚生も確実に受けられていない。(彼らは)職場で自分たちがいかに見下されたように感じているかを訴えているのだ」