韓国のミレニアル世代やZ世代は、週69時間労働に反対している。彼らは疲れていて、子どもを持てる人も少なく、すでに死ぬほど働いている人もいる。
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- 韓国政府は、週の労働時間の上限を69時間に増やしたいと考えている。
- 現在、韓国の週労働時間の上限は52時間である。
- このことは特に若い人たちの間で、健全なワークライフバランス問題の議論に火をつけている。
2023年3月上旬、韓国政府は労働時間の上限を現在の52時間から69時間に引き上げる計画を発表した。
だがこの提案はすぐに反発を招き、韓国政府は計画の見直しを余儀なくされた。
CNNによると、キム・ウンヘ大統領室広報首席秘書官は2023年3月15日の声明で、引き上げ案に対する否定的な世論を受け、韓国政府が新しい「方向性」を模索していると述べた。
しかし、それだけでは終わらなかった。2023年3月25日、約1万3000人の労働組合員が大学路(テハクロ)一帯に集まり、「69時間労働廃止」「ユン・ソクヨル審判」と書かれた看板を掲げてこの改革に抗議した。
また、この提案は現在進行形の議論にも火をつけている。Insiderは韓国の3人の労働者に、健全なワークライフバランスの必要性について話を聞いた。彼らは全員、韓国の「仕事第一主義」はもう通用するものではないと語っている。
若者は「とても疲れている」
「韓国には労働者を保護する制度はあるが、効果的に機能していない」と28歳の家庭教師、パク・ジョングァンさんは言う。パクさんは週に少なくとも48時間働いており、試験シーズンにはそれ以上働いているという。
「生きていくためとは言え、もはや家事を分担するハウスメイトを検討する段階になっている」と、パクさんはInsiderに語っている。
「一時的だとしても、週69時間や80.5時間の労働を可能にするこの法律は、国民の健康である権利を害する恐れがある」と、中小企業で週60~64時間勤務している30代前半の韓国人(匿名を希望している)は話している。
「私はとても疲れている」とも付け加えた。
韓国のメディア、ハンギョレによると、69時間の制限は週6日労働、80.5時間は週7日労働の場合に適用されるという。
アジアで最も過労が多い国
経済協力開発機構(OECD)が2022年にまとめた雇用に関するデータによると、韓国はアジアで最も、世界でも5番目に過労の多い国だという。
2021年の韓国の労働者の年間平均労働時間は1915時間だった。OECDによると、これに対して2021年のアメリカでは平均1791時間だったという。
韓国には「過労死」を意味する「グワロサ」という言葉があるほど、長時間労働は労働者に影響を与えている。
2020年、韓国では新型コロナウイルスのパンデミックの時に、配達の増加を原因とする過労で14人の宅配業者が死亡したと、ロイターは労働組合の代表の話を引用して報じている。
韓国では、過労が生活の質の低下にもつながっていると指摘されている。長時間労働が韓国の若い労働者に与える悪影響を研究した科学者グループによる2020年8月の研究論文には、「20歳から35歳の若い従業員において、長時間労働はストレス、うつ病、自殺の具体的な方法を考えることなどと関連していた」と記載されている。この研究では、3332人の若手社員から収集したデータを分析している。
注目すべきは、長時間労働の文化や過労死が韓国特有のものではないことだ。世界保健機関(WHO)と国際労働機関(ILO)の2021年5月の調査によると、2016年には長時間労働による脳卒中や心臓病で、世界で74万5000人が死亡したという。この数字は2000年から29%も増えている。
しかし、韓国の過労の文化は、少子化という別の緊急の問題にもリンクしている。
韓国政府は長時間労働と少子化を切り離そうとしている
2023年2月22日、韓国における国家行政機関である統計庁は、ハッとするようなデータを発表した。
韓国の合計特殊出生率(女性1人が一生に産む子どもの数の平均)は、2021年は0.81だったのが、2022年には0.78に低下している。出生率の低下は、高齢化と労働力人口の減少という2つの差し迫った課題を意味している。高齢化と労働力人口の減少は互いに影響し合っている。労働人口の減少は経済成長の鈍化を意味しており、その結果、政府が高齢化した国民のケアを行うことが難しくなるのだ。
だが、韓国政府は長時間労働と出生率の低下を切り離そうとしている。
2023年3月27日に韓国の雇用労働部がツイッター(Twitter)に投稿した文章が、同国の労働者の間でさらなる怒りを呼んでいる。
雇用労働部の投稿には、「労働時間制度改革が出産放棄などの少子化問題につながるというのは論理的妥当性を欠いている」と書かれている。
その直後、韓国のツイッターでは、「論理的正当性」「雇用労働部」というキーワードがトレンド入りした。
「労働時間制度改革が出産放棄などの少子化問題につながるというのは論理的妥当性を欠いている」
「雇用労働部のツイートは、69時間フレックスタイム制が男女対立を助長するという部分を意図的に歪曲する悪意のあるものだと思う」とブロックチェーン業界でゲームデザイナーとして活躍するファン・ウサンさんはInsiderに語っている。
ファンさんはパートナーと一緒に暮らしているが、結婚はしていない。子どもは欲しいが、そのためには経済的、心理的な障害があるという。彼は週休2日制の改革が長引けば、少子化問題が悪化すると考えている。
「週69時間働いて、子どもも産んで、でも育児休暇は『ダメ!』」という見出しの韓国の京郷新聞の記事では、多くの韓国人の労働者が、仕事のプレッシャーや給与をカットされることなどから、自由に育児休暇を取れないという調査結果やインタビューが掲載されている。
「69時間について話すことはやめよう。ただでさえ週5日60時間働いて、毎日午後11時にしか仕事を終えられないのに、誰が出産して子育てをするんだ」と労働法組織「ワークプレイス・ガブジル119(Workplace Gabjil 119)」は、京郷新聞に語っている。