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新年度がスタートしました。
今回は、この春に社会人になった皆さん、また新たな職場で働き始めた若手の皆さんに向けて、応援メッセージをお届けしたいと思います。
私がこれまでお会いしてきた成功者たちの軌跡をヒントに、そして私自身の経験も振り返りつつ、今、どのように過ごすことがより良いキャリアの展開につながるのかをお伝えします。
まず皆さんに、声を大にして言います。
「入社3年目までの時期は、とても大事!!」
ビジネスパーソンとしてエグゼクティブクラスまでのぼり詰めた方々に、「ご自身のキャリアで大事な時期だったと思うのはいつですか?」「自分の仕事観に影響しているのはいつ頃の経験ですか?」などと尋ねると、ほとんどの方から「20代」という答えが返ってきます。しかも、入社3年目くらいまでが重要な時期だったと振り返ります。
これは私自身も実感していること。入社後3年間の経験は、今の自分を築く礎になったと思っています。
皆さんも、これからの3年間を大事にしてください。
具体的にどのような意識・行動で過ごすとよいか、私がお勧めするポイントを7カ条にまとめてみました。
1. 今は「受け身」を学ぶ時期。たくさん恥をかこう
上司や先輩、取引先などに「『こいつはデキる新人だ』と思われたい!」なんて考えていませんか?
でも、今のうちはいいところを見せようとせず、どんどん恥をかいてください。
「経験がないから余計なことをしちゃいけない。迷惑をかけないようにしなくては」なんて、萎縮してしまうのももったいない!
どんどん動いて思い切ってチャレンジして、それで失敗しても許されるのは新人ならではの特権。分からないことがあればすぐに聞けるのも新人の特権。堂々と恥をかけるのは新人のうちだけです。
柔道では、初心者は最初に「受け身」の練習から始めます。投げ飛ばされてもうまく受け身をとれるようになってこそ、攻めの動きができるようになるのです。
ビジネスも同じ。新人1年目にどれだけ恥をかいたかで、その後の成長が決まります。
以下にご紹介するのは、私が大ファンである「株式会社てっぺん」の社長、大嶋啓介さんがブログの中で引用していたメッセージです。とても共感できる内容なので、ご本人の許可を得て皆さんにもご紹介します。
『受身』負ける練習
柔道の基本は受身。
受身とは投げ飛ばされる練習、人の前で叩きつけられる練習、人の前でころぶ練習、人の前で負ける練習です。
つまり、人の前で失敗したり恥をさらす練習です。
自分のカッコの悪さを多くの人の前で、ぶざまにさらけ出す練習。
それが受身です。
柔道の基本ではカッコよく勝つことを教えない。
素直にころぶことを教える。いさぎよく負けることを教える。
長い人生にはカッコよく勝つことよりもぶざまに負けたり、
だらしなく恥をさらすことのほうがはるかに多いからです。
だから柔道では初めに負け方を教えるそうです。
しかも本腰を入れて負けることを教える。
その代わり、ころんでもすぐ起き上がる。
負けてもすぐ立ち直る。
それが受身の極意。
2. 「置き物」にならない。新人にしか発信できないこともある
新人時代は、「自分には知識も経験もないから」と、発言を遠慮しがちです。会議の場でも、聞き役に徹し、お地蔵さんか置き物のようになっている姿を目にします。
実は私も入社したての頃は置き物状態でした。今の私にできるのは、上司や先輩の話を聞いて学ぶことだけ……そう思っていました。
ところが、当時の上司からこう言われたのです。
「森本はこのメンバーの中で唯一の素人なんだ。その視点で思ったことをどんどん発信してくれ」
実際の自分の発言もよく覚えています。初めて出席した会議の終盤、「何でもいいから、今思っていることを言ってみなさい」と言われ、とっさにこう答えました。
「会議、長すぎませんか?」
それに対する上司や先輩の反応は、「なるほど!」でした。
「会議は『2時間やるもの』とデフォルトで決まっていて、誰も疑問を持たず、毎週2時間確保されていました。短縮しようとする発想がなかった」と、そこから会議の効率化を図る議論が始まったのです。
会社の中で、新人は一番「ユーザー目線」に近いともいえます。しかし、その目線も会社になじむほど失われていきます。
今だからこそできる発信をしていくことも、新人の大切な役割なのです。
3. 自分にできることで組織に貢献する
私が新卒入社したリクルートグループでは、新入社員であっても「組織貢献」が評価の指標にありました。
そこで「私が組織に貢献できることってなんだろう」と考えた結果、「ムードメーカーになろう」と決めました。「常に笑顔でいる」「誰よりも元気にあいさつする」ことで、職場に明るいムードを作ろうとしたのです。
先輩が営業に出る時には「行ってらっしゃい!」、帰ってきたら「おかえりなさい!」。
これが喜んでもらえて、「森本がいるだけで元気になるよ」と言っていただけました。
これなら、ビジネススキルが身についていない新人でも簡単にできます。
それによって職場の雰囲気が明るくなり、活性化すれば、チームにとって「大切な存在」「欠かせない人材」に近づくことができるのです。上司や先輩も「育ててやりたい」という気持ちになるものです。
それから、私が良く言われた「長所」は“打てば響く”ところ。とにかく、部門で決まった施策などは、「やってみましょう」と率先し、上司や先輩から言われたアドバイスは「なるほどですね。ありがとうございます」と指摘されたことに感謝し、すぐに行動する……この“打てば響く”は、別の言い方をすると愛嬌力ともいえると思います。
愛嬌の良さ、チャーミングさも先輩たちに可愛がられる大事なキャラクターだと思います。
「自分にできることで貢献する」という意識を持って、何か自分の中でルールを決めて実践してみてはいかがでしょうか。
4. 「マラソンの先頭集団」に、入社3年以内に入っておく
私が新人時代、お客様である経営者からこう問いかけられました。
「森本さん、42.195キロを走るフルマラソンで優勝する選手たちの共通点は何だと思う?」
答えは、「最初の5~10キロ地点で先頭集団に入っていること」でした。
その地点で先頭集団に入っていない選手が、そこから追いつき追い抜いて1位になれることはほぼないのだ、と。
その経営者は、「ビジネスパーソンも同じである」と、私に伝えようとしたのです。
ビジネスパーソンの場合、5キロ地点にあたるのが「入社3年目」と捉えた私は、「3年間は絶対に力を抜かずにがんばろう」と決意しました。
とはいえ、高い営業成績を挙げることにこだわったわけではありません。
確実に「基礎力」を身につけることを意識しました。経営やマーケティングのセミナーを受講したり、ビジネス書を読んだり。
早い段階で基本的な理論を学んでおくと、仕事をしながら検証し、自分のものにしていけます。やっていない人と比べれば、3年後、5年後には大きな差が開きます。
まず3年間、お金や時間を「成長への投資」に使ってみてはいかがでしょうか。
5. 守破離の「守」をきっちりと
「守破離(しゅはり)」という言葉があります。
能を確立した世阿弥の教えであり、武道や伝統芸術などの世界で語り継がれている精神です。
「守」は基本の型を身につける段階、「破」はその型を破って応用する段階、「離」はそれらに創意工夫を加え自分独自のものを確立する段階。
どんな道も、極めていくためには順を追って階段を踏んでいくことが大切である、と伝えているのです。
今は確実に基礎力を蓄える時期。それさえ怠らなければ、3年先、5年先に必ず成果となって表れます。一足飛びに「破」「離」に到達しようなどと思わず、まずはしっかりと「守」に取り組んでいきましょう。
「お客様との約束を守る」「問い合わせに即レスする」など、そんな基本を守ればいいのです。それは信頼関係を築くベースとなります。
6. 人とつながり、リアルコミュニケーションで関係を深める
今、社会環境が激変しています。テクノロジーが進化する中、コロナ禍の影響もあって、すべての活動がデジタル化されています。ChatGPTなども登場し、「ネット検索」以上に情報収集スピードもアップしました。
そんな時代にあって「大切なものは何か」と考えた時、やはり「人とのご縁」「人とのつながり」だと実感しています。今の私にとって最大の武器、最高の財産となっています。
皆さんもぜひ、幅広い世代の、さまざまなバックグラウンドや価値観を持つ人々とのご縁を結び、育てていってください。
それも、バーチャルな世界でゆるくつながるより、やはりリアルでのコミュニケーションをお勧めします。バーチャルで何十回と話をしても、リアルで会う1回にはかなわないと感じています。
一歩踏み込んだ関係を築き、一生の師・一生の友・一生のパートナーを得ていただきたいと思います。
7. 「サードプレイス」を持つ
毎日、会社と自宅を往復するだけでなく、「サードプレイス」を持つことをお勧めします。
例えば、学び・趣味・スポーツなどのコミュニティに参加したり、ボランティア活動をしたりするなど。
会社・家庭でいつも特定の人とだけ過ごしていると、居心地はいいかもしれませんが、価値観が凝り固まってしまいます。新しい発想も生まれにくくなるでしょう。
サードプレイスを通じてさまざまな人と出会い、「こんな考え方(視点、価値観など)があるんだ」と気づく体験を重ねていくことで、視座高く、視野も広くなると思います。それが結果としてビジネススキルでいうところの「発想力」や「創造力」といったクリエイティビティが磨かれることにつながります。
以上、新社会人・若手の皆さんに心に留めておいてほしい7カ条をご紹介しました。
とにかく大事なのは、動くこと。情報を得て「役立った」とか「気づきを得た」と感じるのは意外とできるもの。難易度が高いのは、そこから行動を起こすことです。
あるデータによると、行動にまでつながる人は10%程度だそうです。10人に1人の中に入れば、その後のビジネス人生も変わっていくと思います。一つでも実践してみることで、皆さんのキャリアと人生が輝くことをお祈りしています。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひこちらのアンケートからあなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
※本連載の第101回は、4月24日(月)を予定しています。
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。