アリババグループが企業を6事業グループに分割し、それぞれの経営を独立させると発表した。
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中国EC最大手のアリババグループが会社を6事業に分割し、それぞれ独立した経営体制に移行すると発表した。ECが収益の大半を占めるものの、この10年で事業範囲が大きく広がり、“大企業病”が指摘されたり、各事業でライバルの攻勢に押されることも増えていた。米中の投資家やアナリストは、グーグルの2015年の組織再編との類似性を指摘し、アリババグループの企業価値上昇につながると歓迎ムードだ。
事業部ごとにCEOと取締役会設置
同社の3月28日の発表によるとアリババグループは持株会社に移行、既存事業は「クラウドインテリジェンス事業」「Taobao Tmallコマース事業」「中国国内ローカルサービス事業」「ツァイニャオ・ネットワーク(菜鳥網絡)事業」「グローバルデジタルコマース事業」「デジタルメディア及びエンターテインメント事業」の6つに分割される。生鮮食品スーパー「Hema(盒馬鮮生)」、オンライン旅行のFliggy(飛猪)など、6事業グループに属さず独立する企業も少なくない。
組織再編の最大のポイントは、6事業グループにそれぞれCEOが着任し、取締役会を設立するなど、アリババグループから独立して成長を目指すことだ。完全子会社化する「Taobao Tmallコマース事業」以外は資金調達や将来的なIPOも目指せる。
再編によって、生まれる6事業グループは以下だ。
1. クラウドインテリジェンス事業
クラウドサービスや人工知能(AI)関連のビジネスならびにDingTalk(釘釘)などのコミュニケーションプラットフォーム事業が含まれる。研究開発機関のDAMOアカデミー(中国語:達摩院)もここに属する。
同事業のグループ売上高に占める比率は直近で8%。対話型AI「ChatGPT」からも分かるようにクラウドやAIは技術革新の要であり、米中のメガテックが競う分野だ。アリババグループ会長兼CEOの張勇(ダニエル・チャン)会長が同事業のCEOを兼務し、グループ全体の頭脳の役割も果たすことになるだろう。
2. Taobao Tmallコマース事業
CtoCマーケットプレイスのタオバオ(淘宝)、BtoCマーケットプレイスのTmall(天猫)を中心に、タオター(淘特、旧・タオバオ特価版)、共同コミュニティ型ECのタオツァイツァイ(淘菜菜)、BtoB仕入れサイト1688.comなど中国EC事業が属する。同事業はアリババの売上高の7割近くを占め、黒字を生み出すキャッシュカウだが、中国内のEC市場は成熟ステージに入り、タオバオ、Tmallが新興EC企業の追い上げを受けるなどプレッシャーにさらされている。CEOにはアリババ創業時のメンバーである戴珊(トゥルーディー・ダイ)氏が就き、アリババグループの完全子会社となる。
3. 中国国内ローカルサービス事業
地図アプリのAmap(高徳地図)やフードデリバリーのウーラマ(餓了麼)などが傘下に入る。同事業部グループのアリババグループ売上高に占める比率は5%で、業界内の熾烈な競争で優位を築けていないビジネスが多い。食配サービスアプリのウーラマ(餓了麼)はテンセントグループで業界首位の美団と差が広がっている。
4. ツァイニャオ・ネットワーク(菜鳥網絡)事業
アリババグループのEC事業を支えるために誕生した物流部門。AIやビッグデータを駆使して物流を効率化し、各国の物流企業と提携しながら世界に配送網を広げた。中国越境ECを手掛ける海外企業の配送もサポートしている。
5. グローバルデジタルコマース事業
東南アジアのEC子会社Lazada、海外消費者向けECのAliExpress、Trendyol、Daraz、Alibaba.comが傘下に入る。海外消費者と中国事業者を結ぶECはアリババの祖業だが、最近はSHEIN、Temu、TikTokECなど新勢力に押され気味。30代でアリババグループ幹部に昇進後、2020年のスキャンダルで降格してキャリアが断たれたと見られていた蒋凡(ジアン・ファン)氏がCEOに就く。
6. デジタルメディア及びエンターテインメント事業
動画サイトのYouku(優酷)や映画宣伝・配給を行うアリババ・ピクチャーズ(阿里巴巴影業集団)などを統括する。他社との競争が激しく、規制にも影響されやすいこともあり、アリババグループ売上高に占める比率は3%前後にとどまる。
「翼の下に隠れていたビジネスに自由を与える」
アリババグループは成長ステージの違う多くのビジネスを抱えている。
アリババの決算報告書より
アリババグループの張会長兼CEOは3月28日、社員向けの文書で「(1999年の)会社設立以来、最大かつ最も重要なガバナンス改革」と述べた。
アリババグループはインターネットやスマートフォンの普及で人々の生活にITサービスが欠かせなくなる過程で、あらゆる分野を手掛けるようになった。2022年3月期の決算によると、アリババのアクティブユーザーは13億1000万人。従業員数はグローバルで20万人を超える。
張会長は2015年のCEO就任時から、機動力、敏捷性を上げる必要性にたびたび言及しており、2019年に生鮮食品スーパー「Hema(盒馬鮮生)」をグループから独立させたり、重複しているビジネスを整理するなど、肥大化した組織の再編に取り組んできた。
大きくなりすぎてチャレンジ精神や機動力が失われる“大企業病”は長らく課題であり続け、ITビジネスが独占禁止法の対象となり、当局のアリババへの監視が強まった2021年以降は、取引先や顧客を縛り付ける行為にもメスが入るようになった。
3月30日に実施したアナリスト向け会議で、張会長はアリババグループを「成長ステージ、事業の特性、市場環境、顧客、競合が異なる事業がたくさんある超大型組織」と指摘した。社員に向けても「変化しなければゾンビになる。自ら変化しなければ時代に淘汰される」と危機感を訴えており、「翼の下に隠れていたそれぞれの事業に自由を与え、解放する」と強調した。
将来的経営権の放棄も視野
創業者のジャック・マー氏から経営のバトンを引き継いだ張会長は、今回の組織再編を「アリババの24年の歴史の中で、最も大きく重要なガバナンス改革」と述べた。
Reuters
アナリスト会見で、アリババグループは持ち株会社移行後の各事業グループへの関わり方を「大株主」のようになると説明した。事業グループが上場した後は、各社のアリババグループに対する位置づけを評価し、経営権を手放す選択肢もあるという。
アリババグループの組織再編発表後、株価は上昇し安定基調で推移している。グーグルも2015年に持株会社アルファベットを設立し、インターネット検索と広告事業を中核としたグーグルや、自動運転開発のWaymo、ライフサイエンスのVerilyなどを傘下に置く体制に移行した。アルファベットの業績や時価総額がその後も成長していることから、アリババの組織再編もポジティブに受け止められた。
黒字化が見えない事業グループもあるが、物流のツァイニャオやこれまでも資金調達の報道が複数回出ているHema、クラウドインテリジェンスグループは、早期の上場が期待されている。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。