ポップアップストアの一般公開初日。雨天でもオープン前から人が集まった。
撮影:土屋咲花
韓国で急成長中のファッションEC「MUSINSA(ムシンサ)」が、日本での展開に力を入れている。
報道によると、韓国では百貨店の国内トップ店舗を超えるほどの売り上げを誇る。年間取引額が2兆3000億ウォン(約2400億円)を超える、韓国10社目のユニコーン企業だ。
そんなムシンサが、東京・原宿に上陸した。
初めてのポップアップストア「ムシンサ東京ポップアップストア:SEOUL発 TOKYO初」を4月16日まで原宿⼋⾓館ビルで開催中だ。来日したCEOのハン・ムンイル氏(35)は「日本はグローバル展開にあたって最優先の市場」と話す。
米国では日本の約2倍を売り上げているのに、あえて日本に注目するのはなぜか。理由や海外戦略を聞いた。
ポップアップに想定の約6倍
店内の様子。整理券を発行し、順に案内した。
撮影:土屋咲花
ポップアップストアの入口。韓国で人気の洋服やバッグ、コスメのブランドをそろえた。
撮影:土屋咲花
「1日あたり500〜600人の来場を見込んでいましたが、それより多くのお客さんにお越しいただきました。ありがたいことです」(ハンCEO)
ムシンサ東京ポップアップストアは一般公開初日が金曜日だったにも関わらず、多くの若者でにぎわった。週末を含む最初の3日間で、想定を大幅に上回る1万1416人が来場したという。
ムシンサは2001年に開設した靴のオンラインコミュニティが始まりだ。2009年にファッションECサイト「MUSINSA STORE」を立ち上げた。韓国のブランドをキュレーションして成長を遂げ、現在の韓国国内の会員数は人口の約5分の1にあたる1000万人、取り扱うブランド数は7000を超える。
商品の販売チャネルの提供だけでなく、ブランドの育成に力を入れているのも特徴だ。韓国では撮影スタジオなどを備えたファッション業界専用のシェアオフィス「MUSINSA STUDIO」を運営し、若手ファッションブランドを支援する。2021年には日本法人「ムシンサジャパン」を立ち上げ、ブランドの日本進出にも伴走し始めた。
グローバル展開では2022年7月、「MUSINSA GLOBAL STORE」をオープン。日本を含むアジアや米国など13の国と地域に展開する。
日本進出を熱望する韓国ブランド
ハン・ムンイルCEO。
撮影:土屋咲花
海外での売り上げは米国が最も大きく、「日本の約2倍」(ハンCEO)という。だが、ムシンサは日本での展開を最優先に位置づけている。ハンCEOによると、二つの理由がある。
「一つは、韓国ブランドから日本に進出したいというニーズが多いからです。小さい頃から日本のファッションや文化に影響された方が多く、日本に憧れを持っています。今はグローバルで韓国のブランドのみを紹介していますが、将来的には各国のローカルブランドを発掘して一緒に成長していきたいと思っています。その観点からも、日本が一番適当ではないかと思っています」(ハンCEO)
日本は人口減少に伴い長期的な市場の成長は見込めず、マーケットとしての魅力に欠ける部分もある。だが、
「マーケット自体は韓国より大きいですし、消費のパターンや体型など、似ている点が多いこともあって日本に注力しています」(ハンCEO)
という。
日本では「リアルな顧客接点」を重視
ポップアップストアは商品の展示のみで、購入はタグに記載のQRコードからオンラインで行う。
撮影:土屋咲花
韓国のアイドルグループ「NewJeans(ニュージーンズ)」をグローバルアンバサダーに起用して知名度の浸透を図っている。
撮影:土屋咲花
ムシンサは海外展開においてローカライズを重視。各国に合わせた戦略を取る。
韓国では2009年の「ムシンサストア」開設以来、EC専業で成長を続けた。実店舗を出し始めたのは2021年からだ。一方、日本では早々にリアルで商品に触れられるポップアップを展開した。
「この段階で日本でオフライン店舗を出したのは、顧客とのリアルな接点づくりが大事だと思っているからです」(ハンCEO)
韓国のEC化率は日本より高く、ハンCEOによると、ファッション分野では35%程度だという。チャネルトークが公表した「2022 アパレルECベンチマークレポート【韓国編】」によると、韓国全体のEC化率は29%。
一方で日本は約20%。実店舗のニーズが高いと判断した。
「常設店舗の出店については今回のポップアップ終了後に検討したいと思っている」(ハンCEO)
という。
韓国ブランドを日本で有名に
日本でも人気の高い「Mardi Mercredi」。
撮影:土屋咲花
Mardi Mercrediの日本展開はムシンサジャパンが手掛ける。
webサイトより編集部キャプチャ
もう一つの成長軸として掲げるのは、日本法人のムシンサジャパンが手掛けるブランド事業だ。
「ムシンサにある個別ブランドが有名になり、日本ではムシンサジャパンでしか買えないよね、という状況を作りたい」
と話す。
ハンCEOが例に挙げるのは、韓国の人気ブランド「Mardi Mercredi(マルディメクルディ)」。同ブランドはムシンサジャパンを通して、2021年に日本初の公式オンラインストアを開設した。報道によると、進出から6カ月で累計売上高1億円に達したと発表している。
SHEINとは別路線
ポップアップ参加ブランド「2000ARCHIVES」の価格帯はTシャツが1万円前後、ジーンズが2万円前後。
撮影:土屋咲花
アジアのファッションECは、中国発のSHEIN(シーイン)やTemu(ティームー)など低価格を売りにしたブランドが急成長中だ。シーインはムシンサがポップアップを出店しているのと同じ原宿に昨年、常設のリアル店舗をオープンした。
ハンCEOは
「中国のECは面白いと思っています。日本の消費者は安くて質が良くないものはあまり好まないと思っていましたが、SHEINのケースをみて、そうでもないのではと感じました。ただ、ムシンサは安価で1年しか着られない服ではなく、ファッションと併せてダイバーシティも提供していきたいと思っています」
と違いを強調する。
ポップアップストアに出店したブランドの価格はTシャツが8000円前後〜、アウターの中には9万円ほどする商品も並んだ。SHEINはもちろん、ZARAやユニクロなどと比較しても高価格だ。
「今回ポップアップに参加いただいたのは、それぞれにこだわりやアイデンティティがあるブランドです。日本で知られてきたKファッションは、東大門(トンデムン、韓国最大級のショッピングエリア)を中心に『韓国って洋服安いよね』というイメージがあったと思うのですが、その認識を変えていきたい」
という。
偽物やパクリ防止策も
Mardi Mercredi公式オンラインストアでは偽物品への注意喚起を行っている。
撮影:土屋咲花
ファッション業界に付き物の偽物やデザインの盗用といった問題にも、ブランド保護の観点から取り組む。
ムシンサではブランドがプラットフォームに入店する際、本人がデザインした商品かどうかを入念に確認するという。本人がデザインしていないことが明らかになった場合は販売ができない。ブランド同士が酷似するデザインで衝突した際には、委員会を構成して解決を手助けしているという。さらに、スタートアップとともに、デザインのコピーや偽物品を売る販売チャネルをモニタリングする取り組みも始めている。
「ムシンサではないが、韓国でも偽物品の問題は常にありました。この業界を作る一企業として、ブランド側をサポートしていくことが一番大事だと思っています」(ハンCEO)
という。
ネトフリやスポティファイを意識
ベンチマーク企業にはネットフリックスやスポティファイを挙げる。
「ブランド(売り手)にどういうベネフィットを提供しながら、ムシンサと一緒に成長していくかという点を常に学んでいます」(ハンCEO)
という。
韓国最大級のファッションプラットフォームが日本を足がかりにして狙うのは、アジアのナンバーワンだ。
「日本を含め、アジアの国々のブランドを発掘し、グローバルでより多くの国に展開したい。2024年には、海外の売り上げがムシンサ全体の5~10%になるようにしたいと思っています」(ハンCEO)
将来的には日本のユニクロのように、海外売り上げが韓国国内を超えることを目指している。