台湾問題「米国に追従すべきでない」マクロン仏大統領“爆弾発言”の深い理由。G7に亀裂生む可能性

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中国南部の広州で「異例の」連日となる会談・夕食会をともにしたフランスのマクロン大統領(手前)と中国の習近平国家主席。

Jacques Witt/Pool via REUTERS

「欧州は米中への追従を避け、台湾をめぐる自分たちと無関係の危機に巻き込まれてはならない」

超大国アメリカに公然と反旗を翻したとも取れるこの発言をしたのは、中国を公式訪問(4月5日~4月7日)したフランスのマクロン大統領だ。

台湾の蔡英文総統の訪米(4月5日にマッカーシー米下院議長らと会談)への報復措置として、中国軍が空母「山東」を動員して台湾海峡で軍事演習を繰り広げていたその最中であり、マクロン発言を伝える記事は世界を駆けめぐった。

発言は、ウクライナおよび台湾問題への対応をめぐる主要7カ国(G7)に亀裂を入れ、欧米の結束を揺るがす転換点になるかもしれない。

大統領専用機内でのインタビュー

マクロン氏の発言を報じたのは、アメリカの政治専門サイト「ポリティコ」とフランスの経済紙「レゼコー」だ。

マクロン氏の公式訪中は3年5カ月ぶりで、習近平国家主席とウクライナ・台湾問題について集中的に意見交換した。

インタビューは、中国南部の広州からパリに戻る大統領専用機内で行われた。

ポリティコによると、マクロン氏は欧州が米中対立に巻き込まれず「戦略的な自立」を確立して、米中に対抗する「第三極」になるべきとの持論を展開した。

台湾問題については、「欧州は単にアメリカの追従者でいいのか」と自問した上で、「アメリカに追従し、中国の過剰反応に付き合うべきと考えるのは最悪」と語った。

さらに、「欧州は兵器とエネルギーに関してアメリカ依存を増大させてきた」「米ドルの治外法権的な状態への依存も減らさねばならない」とマクロン氏は発言。ドルへの過剰依存を戒め、通貨・金融面でも戦略的自立が必要と主張した。

歓待した習氏にとって「予期せぬお釣り」

この記事公開と前後して行われた中国軍の軍事演習(4月8〜10日)について調べようと、筆者が中国国防部のサイトにアクセスすると、軍事演習に関する記事を押しのけ、マクロン氏と習氏の会談内容が写真入りで大きく報じられていた。これは意外だった。

4月6日の北京での公式会談・夕食会に続いて、翌7日にも習氏がわざわざ南部の広州に出向いて非公式会談と二回目の夕食会を開いたのも、異例中の異例だ。中国側がマクロン訪中をいかに重視しているかが分かる。広州では約4時間マクロン氏に付き添ったとされる。

一連の対話を中国側はどう報じたか。

中国国営新華社通信は、広州での非公式会談でマクロン氏が「真の友好は相互理解と相互尊重にある。中国がフランスと欧州の独立自主と団結統一堅持を常に支持していることを称賛する。中国とは互いの主権と領土保全など核心利益を尊重し合っている」と発言したことを報じた。

習氏はそれに対し、「中仏関係と中欧関係、国際・地域問題で多くの見解が一致(中略)したことは、中仏関係の高いレベルと戦略性を体現している」と応じ、中国とフランスの「全面戦略パートナー関係」を新たな高みへと進めたいと述べたという。

「異例の歓待」外交を繰り広げた結果、マクロン氏から「対米追従」を避けた「戦略的自立」が必要との発言まで得られ、習氏としては予期せぬ「お釣り」が返ってきた思いだったのではないか

フランスの独自路線、アメリカとの確執

アメリカ一極支配と距離を置くフランスの「戦略的自立」は、今に始まったわけではない。

第二次世界大戦中、ナチスドイツのフランス侵攻に対しレジスタンス運動を展開し、戦後は1959年から10年間に渡って大統領を務めたシャルル・ドゴールの外交スタンスに源がある。

ドゴール主義とも呼ばれるその特徴は、アメリカ依存から脱却し、フランスの国益を中心とした独自性の追求にある。

東西冷戦中の1964年1月には、西側諸国で初めて中国を国家承認した。2003年の米軍によるイラク侵攻作戦では、ドイツとともに侵攻に反対している。

フランスとアメリカの外交をめぐる確執・摩擦は他にも数多くある。

直近では、米政府が2021年9月に創設した米英豪3カ国の新たな安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」が好例だろう。

バイデン米大統領はオーカス創設にあたって、オーストラリアに(それより以前に)フランスと締結したディーゼル潜水艦開発契約の破棄を通告させ、代わりに米英が原子力潜水艦の建造技術をオーストラリアに供与すると発表したのだ。

この「裏切り」に対し、フランス政府は当時、駐米・駐豪大使を召還する強い報復措置に出ている。

国連安全保障理事会の常任理事国で核保有国でもあるフランスをソデにしたツケは大きい。

マクロン氏が今回の発言を通じて、米英の裏切りに対する報復を果たしたと考えたとしても不思議ではない。

中国主導のウクライナ和平協議に前進

習氏とマクロン氏の首脳会談に話を戻そう。

フランスは今回の訪中を通じ、仏航空機大手エアバスが160機を中国から受注したほか、豚肉など農産品の輸出拡大で合意。航空・宇宙産業や原子力発電分野での協力深化でも一致した。

4月7日に発表した共同宣言で両氏は、ウクライナ侵攻について「核兵器を使ってはならない」とロシア向けの呼びかけもした。

習氏はさらに、共同記者会見でウクライナ問題に関して、「中国は和平交渉と政治的解決の促進を主張している」と述べた。中国が2月に公表した和平案を評価するマクロン氏を抱き込みながら、中国主導の和平協議を前進させる狙いが透ける。

欧州諸国も、ウクライナ問題については「一枚岩」ではない。

ウクライナ民族主義を掲げるゼレンスキー大統領による、北大西洋条約機構(NATO)からの武器供与をバックにした戦争継続路線を、ポーランドやバルト3国、北欧諸国は支持する。

一方、フランスやドイツ、スペインは強硬な対中政策には反対の立場で、国内の製造業や観光業への配慮から中国との経済連携を模索しており、ウクライナ危機の政治的解決を主張する中国の和平仲裁案に一定の理解を示す。

中国は今回のマクロン発言を引き出したことで、米欧結束によりロシアの孤立化を図ろうとするバイデン政権に対抗していくための「橋頭保」を築いたと言えるだろう。

米中対立の解消が困難になる中で

中国がいま積極的な外交攻勢に出る背景には、2022年11月にインドネシアのバリ島で行った初の米中対面首脳会談を経ても、米中対立の局面を打開できなかったことがある。

中国外交のブレーンで中米関係を専門とする王緝思・北京大学教授は、シンガポールの南洋理工大学で行った講演で「対話を重ねても中米関係の改善は難しい」と悲観論を展開、「中米関係の改善にどんな期待も抱いていない」と断じた。

習近平氏は現在の国際情勢を「百年来の未曾有の変化」と形容する。国際政治から内政に至るあらゆる領域で「安全」を強調し、戦略目標である「中華民族の復興」の根本にも国家安全があるとする「総体国家安全観」を2014年に提起した。

そこには、米欧による圧力が国内のさまざまな矛盾と連動し、中国が内部から崩壊していくかもしれないという危機感が反映されている。香港や台湾の問題がまさにその例だ。

王教授もこの講演で、米連邦議会における民主党と共和党のコンセンサスは「中国を攻撃することでアメリカの団結を図る」ことにあるとし、「中国もアメリカという外在的脅威の下で団結すべき」と主張した。

サウジアラビア・イラン国交正常化の仲介に成功した中国が、続いてG7の切り崩しという「本丸」への外交攻勢に出たのは、国家安全の確保に共産党一党支配の生死がかかっているとの認識があるからだ

危ない日米の「もたれ合い」

これまで対米関係を改善が最重要課題と主張してきた王教授が、関係改善は難しいと認識を改めたのはなぜなのか。

その原因を探ると、中国気球撃墜事件(2月初旬)を機にブリンケン米国務長官が訪中を中止したこと、そのブリンケン氏が習氏のロシア訪問(3月20〜22日)を前に同国のロシアへの殺傷兵器供与に懸念を示し強い警告を発したこと、バイデン米大統領が蔡英文・台湾総統とマッカーシー米下院議長の会談を認めたことなどが思い浮かぶ。

米中関係の改善が決定的に困難になる中で、中国の外交攻勢は、中東や中南米諸国など開発途上の「グローバルサウス」諸国だけでなく、マクロン訪中を機にG7にまで及び始めた。

岸田首相は権力基盤の強化とレガシー作りという目的の達成に向けた最大の課題として、5月中旬に予定されるG7広島サミットの成功を設定する。

岸田氏はマクロン氏とは真逆に、同盟国の軍事力強化と「核の傘」による拡大抑止を結合したバイデン政権の「統合抑止戦略」に追随し、忠実な対米依存外交を展開してきた。

衰退するアメリカと日本の「もたれ合い」はいかにも危うい。マクロン発言は広島サミットへの道程に待ち構える「落とし穴」への警告でもあると、筆者は考えている。

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