イーロン・マスクの次なる狙いはどこにあるのか。
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イーロン・マスクはつい先日、今後6カ月にわたり人工知能(AI)技術の開発を休止するよう呼びかける公開書簡に署名した。ところがそのマスクが、ツイッター(Twitter)社内でAIプロジェクトを進めていると見られることが関係者への取材で分かった。
2022年10月28日にツイッターを買収してからほぼ半年、マスクは同社の抜本改革を進めてきたが、最近になって約1万個のGPU(画像処理に必要な計算処理を行う半導体チップ)をツイッター用に購入したと、同社に詳しい2人の情報筋は明かす。新たなテクノロジーが必要とする計算負荷を考慮して、テック企業では通常、大規模なAIモデルにGPUを使用する。
本件に詳しい情報筋によると、このマスクのAIプロジェクトはまだ初期段階にあるという。だが今回これほどの規模の演算能力を手に入れたということは、マスクが開発に熱意を傾けていることの表れだと、この人物は話す。一方でマスク自身は、AI技術の持つ力は強大であり、確実に「公共の利益」の範囲内で運用されるよう規制する必要があると発言して、このところの生成AIの開発を批判している。
ある情報筋によれば、マスクがツイッターで立ち上げているAIプロジェクトには大規模言語モデル(LLM)が関係しているという。LLMとは、大量のテキストデータを使って事前に学習し、高度なコンテンツを生成するAIのことだ。
ツイッターはLLMの学習に使える膨大な量のデータを保有している。例えばChatGPTを開発したOpenAIは、学習目的で以前はツイッターのデータにアクセスしていたが、マスクはこれを中止させたと昨年12月にツイートしている。
AIエンジニアも引き抜く
マスクは3月初旬までに、AI研究の分野で知られる人材もツイッターに雇い入れている。アルファベット(Alphabet)傘下のディープマインド(DeepMind)社から、エンジニアのイゴール・バブシュキン(Igor Babuschkin)とマニュエル・クロイス(Manuel Kroiss)を正式に採用したのだ。
マスクはChatGPTに対抗するAIプロジェクトを独自に立ち上げるにあたり、遅くとも2月の段階でバブシュキンを含むAI分野の専門家にアプローチを始めていた、とジ・インフォメーション(The Information)は報じている。
情報筋も、ツイッターが生成AIをどのように使うかはまだ不透明だと話す。一つの可能性としては、マスクが不満を漏らしていた検索機能の改善に使われるのかもしれない。マスクは検索機能を「改修」するため、セキュリティ開発者のジョージ・ホッツ(George Hotz)を3カ月間のインターンシップとして雇ったものの、ホッツはわずか1カ月で辞めていた。
そのほかに考えられる可能性としては、ソーシャルメディアのプラットフォームを支える存在である広告への利用だと情報筋はみる。マスクはツイッターを買収して以来、数々の方針変更を行ってきたが、ツイッターは広告主の獲得に苦戦している。実用化に向けて生成AIをトレーニングをすれば、新しく広告画像を生成したり、特定のユーザーに向けてメッセージを送ったりすることも可能になる。
ChatGPTとは浅からぬ縁
GPUは費用がかかる。この市場の95%のシェアを占めると言われるNvidia(エヌビディア)のGPUは1個1万ドルだ。マスクはツイッターの財務基盤の弱さについてたびたび言及しているが、情報筋によると、マスクは数千万ドルを費やしてGPUを大量購入した可能性が高い。
また、ツイッターがまだ保有しているアトランタ州とオレゴン州2カ所のデータセンターのうちの1カ所で、新規部門の運用が行われる見通しであることも、情報筋の証言で分かった。可能性が高いのはアトランタ州にあるデータセンターだという。
ツイッターは主要データセンターをカリフォルニア州サクラメントにも置いていたが(運用はNTT America)、マスクの独断により昨年12月に突然閉鎖された。この決定によりエンジニア部門の責任者だったベナム・レザーイー(Behnam Rezaei)が辞職している。
なお、マスクにはChatGPTと浅からぬ縁がある。ChatGPTを開発したOpenAIの設立には、サム・アルトマン(Sam Altma、OpenAIのCEO)をはじめとするテック分野の主要プレイヤーとともにマスクも関わっていた。マスクは2018年に同社を去っている。
だがOpenAIが現在の生成AIブームを巻き起こすと、2023年に入ってマスクは同社に批判的な姿勢をとるようになり、「実質的にマイクロソフト(Microsoft)に支配された、クローズドソースで開発を行う徹底的な利益追求型の企業」になり下がったと発言している。マイクロソフトは2019年にOpenAIに出資しており、今年1月にはパートナーシップ拡大の一環として数十億ドルの出資を行っていると発表している。