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イギリスのシンクタンク、パンテオン・マクロエコノミクス(Pantheon Macroeconomics)の創業者でチーフエコノミストのイアン・シェファードソン(Ian Shepherdson)氏によれば、アメリカ経済はすでに破綻し始めており、今年の夏にも景気後退が始まるだろうという。
先月の雇用者数の増加はエコノミストたちの予想をわずかに上回ったとはいえ、まもなく非農業部門雇用者数の報告はそれほど目を引くものではなくなり、2、3カ月のうちには大きく落ち込むだろうとシェファードソン氏は予測している。
2023年4月10日、顧客へ送ったメモの中で彼はこう述べている。
「23.6万人の増加という3月の雇用者数報告は、銀行危機以前の世界の残像で、まるで遠い昔のニュースのように思えます。あの頃はまだ、全国的な異例の暖冬が雇用の増加を下支えしており、連邦準備制度理事会(FRB)による合わせて4.75%におよぶ金利引き上げの影響が認識される前のことでした」
彼は2005年の時点で、住宅部門の破綻を皮切りにアメリカがいずれ不景気に突入することを予測していた。
「現状は向こう数カ月のうちに変化していくはずで、早ければ今月中にも変わり始める可能性があります。我々の現在の仮予測では、4月の雇用者増加数は15万人、5月に関しては5万人程度です」
さらに彼は続ける。
「今年の夏には雇用者数の減少が起こり、その結果、失業率が押し上げられるだろうと我々は予想しています」
シェファードソンは全米独立企業連盟(NFIB)の雇用意向調査を、労働市場の動向を占う主要な指標として挙げた。また、貸し渋りの原因となっている銀行システムの動揺によって、こうした雇用状況の悪化が加速しかねないとも述べている。
給与水準のトレンドは堅調に推移しているように見えるが……。
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……しかし状況は変化し、第2四半期はかなり弱くなるだろう。
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全米経済研究所(NBER)の定義によれば、景気後退とは労働市場と消費者支出における広範かつ重大な悪化によって特徴づけられる。NBERがこれまで判断基準としてきた数字から考えれば、今後数カ月間で失業率が0.5ポイント上昇すれば、NBERにとって景気後退だとみなすに十分な兆候になるだろうとシェファードソンは言う。
「『12カ月間で失業率が0.5ポイント上昇すれば、景気後退のシグナルとなる』というサーム・ルールは秋どころか、早ければ夏には重要性を帯びると予測しています。景気後退の始まりと終わりを判定する役割を正式に担っているNBERが、景気後退を宣言するまでには長い時間差があります。しかしこれまでにも例外なく、失業率の大きな上昇は、景気後退がほとんどリアルタイムで起こっていることを示すシグナルでした」
3.5%という現在の失業率は、ほぼ50年前に匹敵するほど低い。FRBはこの数字が2023年末までには4.5%に上昇すると予測しており、そうなれば100万人以上のアメリカ人が職にあぶれることになる。
惑わされるな、失業率は上昇する。
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3月の健全な雇用統計の陰で、高金利の結果として人員削減の動きがすでに広がり始めているとシェファードソンは指摘する。パンデミックの開始時期を除いて、解雇件数はこの第1四半期に14年間で最大にのぼったという。
とはいえ、求人数は1000万近くとまだ高い。つまり解雇された労働者が新しい職を見つけるのも比較的容易だということだ。しかしこうした数字も今後下落していくだろうと彼は予測している。
このような労働市場の軟化と賃金上昇の減速を受け、FRBは利下げを開始すべきだとシェファードソンは言う。
「賃金の伸びは急激に減速しており、物価への脅威ではなくなりました。FRBはさらなる利上げではなく、緩和に動くべきです」
シグネチャー銀行とシリコンバレー銀行という2つの銀行が取り付け騒ぎで破綻した後、アメリカ経済の見通しは急激に悪化したように見える。規制当局は介入に踏み切り、銀行の経営を支え、社会的信頼を回復するために十分な流動性を金融システムに注入した。それでも、特に地方銀行では、すでに貸し渋りが始まっている。
このままでは企業が経営維持のために必要な融資を受けづらくなり、その結果、解雇が増えるだろうと専門家たちは警告している。FRBの調査によれば、個人もまたローンを利用する難しさを訴えており、消費者支出の冷え込みも懸念されるところだ。
「融資の受けやすさに対する意識は、3月は1年前に比べて悪化している。1年前よりも融資を受けづらくなったと言う世帯の割合は、調査開始以来最高にまで高まっている」とFRBの報告は述べている。
「回答者たちは将来の融資の受けやすさについても、より悲観的になった。今から1年後にはもっと融資を受けづらくなるだろうと予想する世帯の割合も上昇している」
製造業調査、逆イールド・カーブ、債券市場の不安定性を始めとして、その他の指標も景気減速の予兆を示し続けている。