UCインベストメンツの最高投資責任者、ジャグディープ・シン・バッチャー氏。
L'Attitude
カリフォルニア大学(UC)の年金や退職金の積立金、合わせて1520億ドル(約20兆5000億円、1ドル=135円換算)を管理するUCインベストメンツ(UC Investments)は2000年以降、コースラ・ベンチャーズ(Khosla Ventures)、インサイト・パートナーズ(Insight Partners)、ライトスピード・パートナーズ(Lightspeed Partners)などの著名投資会社が運営するベンチャーキャピタル(VC)ファンドに34億ドル(約4600億円)以上を投資している。
しかしInsiderの分析によると、UCインベストメンツは2022年半ばまでにこれらのVCファンドから26億ドル(約3500億円)の分配金を受け取ったに過ぎないという。少なくともこれまでのところ、リスクも手数料も高いVCではなく、インデックスファンドに投資した方がはるかによい結果だったということになる(S&P500指数は過去30年間、年平均10.7%の成長を実現している)。
Insiderは、公文書管理法(Public Records Act)に基づいてUCインベストメンツの投資記録を入手し、通常は非常に不透明なVCの世界で堅く守られている秘密について、貴重な情報を得ることができた。
大半の金融機関とは異なり、VCのファンドはスタートアップ企業への投資収益率を示すことを義務付けられていない。2014年からジャグディープ・シン・バッチャー(Jagdeep Singh Bachher)氏が指揮を執るUCインベストメンツはコメントを拒否した。
ベンチャー投資は長いゲームで、投資が実を結ぶまで10年以上かかることもあり、年金投資は20年以上の超長期的な視野を持つことが多い点に留意する必要がある。UCインベストメンツによれば、同社のVCポートフォリオは19億ドル(約2565億円)の含み益があるという。2022年の第3四半期と第4四半期に最も激しい下落があったことを考えると、2022年6月からのバリュエーションとしては楽観的と言えるかもしれない。
Insiderの分析では、投資してから日が浅いファンドを除外するために2000〜2018年の期間を見た限りでも、UCインベストメンツは支払った金額よりも受け取った金額の方が少なかったことが明らかになっている。パフォーマンスがよくない理由は、ファンドの選定ミス、タイミングの悪さ、そして2015年の早い時期に多くの保有株を売却してVC界としてこれまでにないほどの最高の6年間を逃したことなどがある。
バッチャー氏は2014年に同大学の基金の管理を引き継いだ直後、手数料を削減するために、プライベート・エクイティ・ポートフォリオの10億ドル(約1350億円)以上をセカンダリー市場で売却した。通常は、運用資産に対して2%の手数料と利益の20%の手数料が徴収される。
記録によると、2014年から2015年にかけて、UCインベストメンツはベッセマー(Bessemer)、DCM、GGV、インサイト、IVP、コースラといった有名どころを含む20近いVCファンドを売却している。その中には、当時組成から1、2年しか経っていないファンドもあった。早期に売却することで、当初は利益を得られたものの、これらのファンドから最終的に得られた多額の利益を逃した可能性がある。
例えば、UCインベストメンツは2011年と2013年のインサイトのファンドについて、それぞれ1.52と1.26の払込資本倍率を報告しており、パフォーマンスを測定するために使用している業界ベンチマークを大きく下回っている。ファンドに詳しい人物によると、もしこれらのファンドを2022年まで保有していたら、倍率はそれぞれ2.4倍と2.1倍になり、ベンチマークをはるかに上回っていたという。
UCインベストメンツが早期に売却し、記録上でアンダーパフォーマーとして記載されている2006年と2008年のライトスピードのファンドについても同様のことが言える。ファンドを直接知る人物から提供されたデータによると、UCインベストメンツがこれらのファンドを最後まで保有していれば、両ファンドとも業界のベンチマークを上回っていた。
インハウス・ファンド
著名なVCに見切りをつける一方で、バッチャー氏は何億ドルもの資金を、大学の教員や学生が行う研究を活用することを目的としたインハウスファンドに移した。内情を直接知る人物によると、UCベンチャーズと呼ばれたこのファンドは、約2年後に解体されたという。
同大学は同じ系列でありながら独立して運営されているパートナーファンドを通じて、ベンチャー投資を続けている。この投資のパフォーマンスはまちまちであることが、Insiderが得た情報で明らかになっている。
例えば、2016年以降、UCインベストメンツはUCとボウ・キャピタル(Bow Capital)のジョイントベンチャーであるボウ・ベンチャーズ・ファンド・ワン(Bow Ventures Fund I)に2億3100万ドル(約311億8500億円)以上をつぎ込んだが、受け取った分配金は7万ドル(約945万円)に満たなかった。このファンドは書類上、3億7200万ドル(約502億円)とされており、UCインベストメンツは2022年にボウ・ベンチャーズ・ファンド・ツー(Bow Ventures Fund II)にさらに1億ドル(約135億円)を投資している。
ボウは、自律走行車のニューロ(Nuro)やオンライン融資プラットフォームのクリアコ(Clearco)など、複数のユニコーン・スタートアップに投資している。
2016年からUCインベストメンツは、UCバークレー校から生まれるスタートアップを中心としたプレシードおよびアーリーステージファンドであるザ・ハウス・ファンド(The House Fund)が運営する4つのファンドに6100万ドル(約82億円)を投資した。いずれのファンドも分配金は発生していない。
ザ・ハウス・ファンドのポートフォリオ企業には、最近380億ドル(約5兆1300億円)と評価されたデータ分析会社のデータブリックス(Databricks)や、グローバルな物流プラットフォームのフレックスポート(Flexport)が含まれている。
明るい面を挙げれば、UCサンディエゴ校と提携するベンチャーファンド、バーティカル・ベンチャー・パートナーズ(Vertical Venture Partners)の2018年のファンドが、同大学の初期投資の3倍以上のリターンを得たという。バーティカルは、ユニコーンの遺伝子編集スタートアップのインスクリプタ(Inscripta)や電子スイッチメーカーのメンロー・マイクロシステムズ(Menlo Microsystems)に投資している。
また、UCインベストメンツは2018年以降、セコイア・キャピタル(Sequoia Capital)が運用するファンドに8億ドル(約1000億円)以上を投資したが、その半分のファンドが損失を計上した。
UCインベストメンツは、VCのパフォーマンスを独自に分析していない。しかし、そのプライベート・エクイティ・ポートフォリオの中でベンチャーはごく一部であり、ウォーバーグ・ピンカス(Warburg Pincus)やKKRなどの非公開企業の好調なパフォーマンスにより、過去30年間で20.8%のリターンを達成している。これに対し、公開市場への投資では8.3%のリターンを得ている。