グーグル社員の告白「退職する以外に選択肢はなかった」。育休中社員が語ったこと

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グーグル日本支社で退職勧奨に応じた社員がBusiness Insider Japanの取材に応じた。写真右は取材協力者の社員証。写真の一部を加工しています。

横山耕太郎撮影/取材協力者提供

「育休中にも関わらず、期限を決められて退職するように誘導され、サインさせられたグーグル社員もいることを知ってほしい」

グーグル合同会社の社員で、5月末での退職に応じた社員はそう話す。

巨大IT企業に吹き荒れるレイオフ(一時解雇)の嵐のなかで、グーグルも世界中のオフィスで社員の「解雇」に着手している。

日本支社であるグーグル合同会社も退職勧奨に踏み切ったことを認めており、一部の社員に対し退職の条件をまとめた「退職パッケージ」が送られている。

一方で、育休・産休中にも関わらず退職勧奨の対象となった社員の中からは、「育児中で転職活動もままならない状況で、やむを得ず退職に応じた」という声も上がっている。

対象者の社員らの心境や、これまでのレイオフと何が違ったのかを取材した。

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退職を勧めるメール「ああ、私に来たか」

契約書

グーグル合同会社の一部の社員に送られたという「退職パッケージ」を撮影。

撮影:横山耕太郎

Aさん(年齢、性別は非公開)が「退職パッケージ」のメールを受け取ったのは、育休取得中のことだった。

Aさんは、グーグル合同会社の技術系の部署で、5年以上正社員として働いてきたが、メールを受け取った瞬間については、「『ああ、私に来たのか』と意外に冷静だった」と振り返る。

ただ、繰り返し繰り返しメールを読む中で、次第に一方的な通告に対して、悲しみと共に怒りがわいてきたという。

メールを受け取った後の人事部との面談の席では、「退職パッケージ」に2週間以内に合意した場合、基本給の9カ月分に加え、勤続年数に応じた退職金が支払われること、そして退職日の2023年5月31日までに社内の別ポジションの募集があれば、異動も可能だと説明された。

従来、グーグル社内でポジションを異動する場合、社内システムを通じてポジションの募集を調べ、システム上で応募する形式だった。

しかし面談では、退職に同意した場合、すぐに社内システムへのアクセス権を失うとも説明された。

「面談の場で『社内システムに入れないのであれば、どうやって募集ボジションを見つけるのか?』と質問したのですが、『社外の人と同じように、社外に募集しているポジションには応募できる』と説明されました。

社外の募集も絞っている状況で、かつ育休中なので転職活動も簡単ではありません。これまでと同じように異動可能なポジションを見つけるのは現実的ではありませんでした

今回の退職勧奨は過去とどう違うのか?

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渋谷にあるグーグル合同会社。

撮影:横山耕太郎

過去にも部署の再編やポジションクローズはもちろんあった。

今回の退職勧奨は、過去の事例と何が違うのか?

Aさんによると、これまでは会社の方針でプロジェクトを縮小したり廃止になった場合には、余剰になったメンバーは他のプロジェクトやチームを探すために、約3カ月の猶予が与えられるのが通例だった。

「社内規則ではないものの、猶予期間のうちに、社内システムを通じて別部署の募集を探して異動することができました。

それが今回の場合は3月2日の朝にいきなりメールが来て、意思決定の猶予は2週間だけ。しかもサインしたらシステムに入れず、異動先が探せません。やり方があまりに強行だと感じました」

かつて数年グーグルで働いた経験のある30代の元社員は、「今回ここまで社員から反対の声が上がったのは社風の影響が大きいのではないか」と話す。

「グーグルは透明性を重んじる会社。ある意味でこれまで解雇については、本人も周囲もある意味で『しょうがない』という納得感があった印象がある

ところが今回は、さまざまなポジションで突然大規模な解雇に踏み切った。詳しい説明がなかったことが反感につながったのではないか」(30代の元グーグル社員)

「退職を断ったらどうなるか…」

赤ちゃんの写真

Aさんは「育休中に、情報も少ない中で退職を迫るのは間違っている」と話す(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

Aさんは退職勧奨のメールを受け取ったあと複数回、人事部と面談し、「サインしなかった場合どうなるのか?」について説明を求めたが、明確な回答はなかったという。

「人事からは『あなたのポジションはもうない』ということばかり、繰り返し説明されました。そして3月中旬の回答期限までは、2日に一度は、締め切りを知らせる自動メールが届きました。

断ったらすぐに解雇になるのか? 断った場合、退職金などの条件は変わるのか? 全くわからないまま判断を迫られました

Aさんの周囲で退職勧奨の対象になった社員たちには戸惑いがひろがり、対応が分かれた。なかには「会社に屈したと思われたくない」と退職勧奨に応じず、労働組合に加入した同僚もいるという。

結果的に、Aさんは退職に合意することを決めた。

「会社の説明には全く納得はできなかったものの、家族との生活があります。このまま先が見えないままで働くことは現実的ではなく、まずは『お金を確保する』という選択肢しか、私にはありませんでした

Aさんは今年の夏以降まで育休を取得する予定だったが、5月31日に退職扱いとなる。そのため5月末で育休も切り上げられる。

同じように育休・産休を取得中で離職に応じた社員では、1年半近く育休を切り上げて退職するケースもあるという。

退職を決めたものの、労働組合に加入

退職推奨に対する意見文

現役社員が結成した労働組合・アルファベットユニオン。グーグル合同会社に「退職勧奨」について説明などを求めている。

撮影:横山耕太郎

5月末での退職に応じたAさんだったが、労働組合に参加することを決めた。

Aさんが加入するアルファベットユニオン(本部はJMITU=日本金属製造情報通信労働組合に置く)は、グーグル合同会社に対して、「レイオフの必要性やレイオフ回避のための経営努力についての説明」や、同意のない解雇を行わないこと、組合員に対して退職勧奨をしないこと、などを求めている。

グーグル合同会社の労働組合としては、東京管理職ユニオンに本部を置くグーグルジャパンユニオンも活動を続けており、現在2つの労働組合が併存し、別々に行動している。グーグルジャパンユニオンによると、現在の組合員は約70人いるという。

労働組合に加入したAさんは、同じく退職勧奨のメールを受け取った育休・産休中の社員の実態を調べるため、退職に応じた複数の社員に、アンケートを実施した。

アンケートによると、育休・産休中にサインした全員が『納得いかなかったがサインしてしまった』と回答。かつ『期限内にサインしなかった場合について、人事部との面談で明確な説明はなかった』『誠実な対応ではなかった』と答えた。

また、レイオフによって直面する課題として、「5月31日に離職した場合、共働きではなくなることで、現在通っている保育園に通い続けらないリスクがある」との声もあった。

「上の子どもが保育園に通えなくなって、さらに出産が重なる状態で転職活動をするのは不可能です。0歳児という親にとっても子どもにとって貴重で大切な時期。会社の都合での育休を奪うのは許されない」(アンケートに寄せられた声より)

またAさん自身、「もう1人子供がほしいと計画していたが、今回の会社の決定で難しくなってしまってた。これは日本の少子化対策に全く逆行する」と話す。

「子供を産み育てる家族は、復職も転職も簡単ではなく、サポートされなくてはならない存在です。今回のように育休・産休者にも退職勧奨をすることを許す事例を日本で作ってしまったら、育休を安心して取ることはできなくなってしまいます」(Aさん)

アルファベットユニオンでは、本部を置く労組・JMITUの過去の事例や、他の労働組合の裁判事例などから、「組織再編に伴う退職勧奨では、育休・産休中の社員を対象にした事例は、会社が倒産の危機にある場合に限られる」と主張している。

声を上げられない育休社員

Aさんは、退職を決めてまでも、労働組合に入った理由をこう語る。

「『なんで退職が決まっているのに、こんなに面倒なことをしているの?』と聞かれるのですが、育休・産休者で労働組合に入っている人はほとんどいません。不満を感じながらも、育児に追われ、声をあげる時間も体力もない現実があります。だから私が声を上げなくはいけないと思っています」

またAさんは、世界をリードするグーグルだからこその責任があるのではないかと話す。

「AIを作っているグーグルが、弱い立場にある産休・育休者に対して、たとえ合理的であったとしても、倫理的・人道的ではない行動をしています。それで社会に役立つAIを本当に作れるのでしょうか?」

育休期間を「在職期間に」要求

抗議活動の写真

アルファベットユニオンの組合員らは、渋谷のオフィスの前にたち、グーグルが行動規範とする「Don't be evil」と掲げた。

提供:アルファベットユニオン

アルファベットユニオンでは、会社への要求として「育休産休中の社員は退職勧奨の対象にしないこと」や、「仮に本人がサインし、撤回を望まない場合でも、育休・産休の切り上げ分は、在籍期間の延長か退職金の増額で対応すること」などを求めている。

グーグルに新卒入社した、アルファベットユニオン代表の小林佐保さんは、「対話で問題を解決するのがグーグルの文化。会社には労働者と誠実に対話してほしい」と話す。

「確かに外資系企業では、解雇はよくあることかもしれません。でも私たち社員の多くは、グーグルは人員整理は行わないと信じていました。

とくに育休・産休中の社員には、不安で頭がいっぱいなのに、そのタイミングでキャリアプランが崩れるのはどれだけストレスになるか。誠意ある対応を求めていきたい」(小林さん)

アルファベットユニオンでは、3月22日、グーグル合同会社と第1回となる団体交渉を実施した。

アルファベットユニオンが求める「産休・育休の切り上げ期間についての補償」について、会社側は「退職条件は最終的なもの。サインによって同意したものと理解しており、パッケージの変更は公平性の面で変更できない」と回答したという。

アルファベットユニオンでは、第2回の団体交渉の開催を求めているものの、日程はまだ決まっていない。

Business Insider Japanではグーグル合同会社に対し、退職勧奨について質問を送っているが、期日までの回答はなかった。

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