米銀大手バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)は今後数カ月の企業収益低下が株式市場にもたらすネガティブな影響に注目する。
REUTERS/Andrew Kelly
米銀大手バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)チーフ・グローバル・エクイティ・ストラテジストのマイケル・ハートネット氏によれば、S&P500種株価指数もしくはその構成銘柄の「足かせ」になりそうな問題が一つある。
その問題とは、歴史を紐解いてみても、投資家が景気後退入りやその企業収益への影響を正しく予測できた試しはないということだ。
ハートネット氏は4月14日付の顧客向けメールの中で、米ウォール街の投資家は今後数カ月間の企業業績の見通しを相変わらず過大評価したままだと指摘している。
現在のところ、2023年のS&P500種構成銘柄の1株当たり利益(EPS)は前年比4%減というのが市場予想だが、ハートネット氏はそれを大幅に下回る16%減と予測する。株価のパフォーマンスは業績に大きく左右されるからだ。
ハートネット氏は、過去3回の景気後退時に確認された企業収益低下の規模感に注目する。
「過去3回の景気後退について、S&P500種構成銘柄のEPSの(景気の山から谷までの)下落率はそれぞれ、ドットコムバブル崩壊時(2001年)が28%減、世界金融危機時(2008年)が34%減、コロナ危機(2020年)で15%でしたが、目前の景気後退に関する市場予想はそれらに比べてマイルドで、わずか4%減(224ドルから216ドル)となっています。
EPSはその後、2025年第1四半期(1〜3月)にかけて242ドルまで再度上昇すると予測されています。2021年第1四半期に記録したコロナ危機の底からの上昇率で言えば、72%です。
EPSすなわち企業収益のレジリエンス(強靭な回復力)が本物だとすれば、そこには(物価調整前)名目GDPの爆発的な成長が織り込まれていなくてはなりません。ところが、あらゆる足元の先行指標は、EPSがより深い低迷に向かっていることを示唆しているのです。
当行独自のグローバルEPSグロースモデルに従えば、EPSは今年8月に前年比16%減まで落ち込む展開が予測されます」
【図表1】米ウォール街のコンセンサスでは、2023年の景気後退におけるS&P500種構成銘柄の(景気の山から谷までの)EPS下落率は4%にとどまる。4月12日時点の分析。
Bank of America
景気後退を目前に控えて企業収益が過大評価される現象は、過去100年の間にもたびたび確認されている。
中には、特に過大評価ということはなく、S&P500種指数は2022年に20%の下落を経験してすでに景気後退を織り込み済みとの見方もある(ただし、2023年に入ってから8%上昇して、織り込み分を吐き出した感もある)。
しかし、ハートネット氏によれば、過去10回の景気後退のうち8回については、その直前にどれだけ下落したかとは無関係に、いずれも景気後退入り後だけで20%超の下落を記録している。
直近(4月17日終値)のS&P500種指数は4141.68なので、間もなく景気後退入りして20%低下するとしたら、3313程度になる計算だ。
ハートネット氏は4月6日付の顧客向けメールで次のように指摘する。
「ベンジャミン・ボウラー率いる当社のグローバル・エクイティ・デリバティブ・リサーチ部門の過去データ検証結果によれば、景気後退が株式にネガティブな影響をもたらすのは確実です。
なおかつ、景気後退入りする前に十分(業績低下を織り込んで)株価が下落していた実例は過去にありません。1929年以降、S&P500種指数の下落幅の3分の2は、景気後退入りした後で記録されたものです。
それを踏まえると、足元のS&P500種指数にはまだダウンサイドが残されていることになります」
【図表2】株価と景気後退の関係。S&P500種株価指数の景気後退入り「後」の下落幅(紺)と、景気後退「1年前まで含めた」下落幅(赤罫)。
Bank of America
ハートネット氏は株価の見通しについて、景気後退がどうなるか次第とする。
ソフトランディング、つまりインフレ率が米連邦準備制度理事会(FRB)の目標とする2%近くまで戻り、景気後退入りが回避されるシナリオは実現可能と考える人もまだいるものの、一方で景気後退入りが近づいていることを示すシグナルが次々と点灯する現実がある。
3月初旬の米シリコンバレーバンク(SVB)破綻に端を発する金融危機も重い懸念材料になっている。
FRBの利上げを受けた金利上昇により債券価格が下落する中、銀行は預金流出に備えて(バーゼル規制に基づいて一定の手元資金水準を維持するため)流動性を確保しようと新規の融資に慎重になっている。
その動きがクレジット・クランチ(信用収縮)の懸念を加速させ、企業も個人も融資を受けるのが急激に難しくなってきている。現場の融資担当者からは、すでに融資基準の引き締めが始まっているとの声も聞かれる。
ハートネット氏は過去のデータを基に、この(融資引き締めの)動きが労働市場にまでネガティブな影響を及ぼしてきたと指摘する。
【図表3】融資条件の引き締めに対する労働市場の反応。中小企業の資金借入可能性(紺色)と新規失業保険申請件数(水色)を見ると、足元の急激な融資引き締めに反応した失業増が想定される。
Bank of America
景気後退が近づいていることを示す兆候としては、米コンファレンスボード(全米産業審議委員会)が株価や建設許可件数、マネーサプライなど10項目の経済指標から算出する「景気先行指数」が景気後退の領域に踏み込んでいることも挙げられる。
【図表4】コンファレンスボードが毎月発表する景気先行指数(LEI)は底打ちした可能性もあるが、まだ今後12カ月以内の景気後退入り可能性を示すシグナルが点灯したままだ(赤線部分)。
The Conference Board
また、イールドカーブに基づくFRB独自の景気後退指標によれば、今後12カ月以内に景気後退入りする確率は57%。これは過去4回の景気後退時に確認された水準を上回る数字だ。
【図表5】米国債のイールドスプレッド(10年債利回りと2年債利回りの差)から予測される、12カ月以内の景気後退入りの可能性。2023年3月11日時点。
Federal Reserve