メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)。
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メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)がここ1年半ほど抱えてきた広告主とのゴタゴタは、間もなく片が付くのかもしれない。
アップルが2021年にプライバシーに関するフレームワーク「アップ・トラッキング・トランスペアレンシー(App Tracking Transparency)」を導入し、ユーザーがトラッキングを事前に拒否しやすくしたことで、メタは売上高にして数十億ドルを失った。
※トラッキングとは……アップルは、アプリ経由で収集したユーザーやデバイスのデータを、「ターゲット広告や広告効果測定を目的として」他社のアプリやサイトなどから収集されたデータに「紐付ける行為」や、データを「ブローカーに共有する行為」と定義する。
メタのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は2022年、アップルのプライバシー変更を受け、ターゲティング広告の配信最適化における「シグナルロス」に苦しんだと、繰り返し公の場で発言している。
また、11月に実施した1万1000人規模のレイオフ(一時解雇)についてもやはり、アップルのプライバシー変更の影響を抜け出すのに苦しんだことを要因の一つに挙げている。
しかし、広告効果測定プラットフォームを提供するロッカーボックス(Rockerbox)のロン・ジェイコブソン共同創業者兼CEOによれば、メタはそうした広告事業の深刻な不振やリストラを経験しながら、早くも回復に向かっているという。
ジェイコブソン氏は4月13日、米投資銀行エバーコア(Evercore)のアナリストチームに対し、次のように語っている。
「メタの広告パフォーマンスは、アップ・トラッキング・トランスペアレンシー導入前の水準近くまで回復しています」
メタはここしばらく、AIを活用した広告パフォーマンスの改善に重点投資してきた。
ザッカーバーグCEO肝煎りのメタバース事業には大きな進展が見られない一方、AI分野への資金投入の大きさは際立って見える。実際、広告営業を担当する同社の経営幹部によれば、2023年に想定される300億ドル超の設備投資はその大部分がAI分野に向けられるという。
米ウォール街もこうした現実的な動きを評価し、メタの株価は2022年11月に記録した52週安値(88.09ドル)から大幅な回復を見せ、ここ1カ月あまり52週高値(224.30ドル)の更新が続く。
ジェイコブソン氏とエバーコアのアナリストチームによれば、デジタル広告は全般的に「広告の冬」の最中だが、そのように広告主が財布の紐(ひも)をよりキツく締めている現状があるからこそ、メタやグーグルのようなプラットフォームは利益を積み上げやすいのだという。
エバーコアのアナリストはこう分析する。
「景況が厳しい時期ほど、(商品やサービスの集客販売を目指して広告宣伝などを担当する)マーケターは実績のある確実性の高いチャネルを重視するもの。具体的に言えばそのチャネルこそがグーグルやメタなのです。
ロッカーボックスのジェイコブソン氏は、広告主が(未開発の客層開発を進めようと採用してきた)施行的なチャネルへの資金を引き揚げる中で、グーグルとメタは最もレジリエントなプラットフォームであり続けていると指摘しています」
2022年第4四半期(10〜12月)、メタが運営するサービスの広告インプレッションは前年同期比23%増と、広告需要の堅調な伸びを示している。
ただ、そうした広告事業の回復見通しを前にしても、メタには人員整理やコスト削減の手を緩めるつもりはないようだ。
ザッカーバーグ氏は2023年を「効率化の年(the year of efficiency)」と位置づけ、2022年通期決算発表の場で賞与支給総額の引き下げを発表。3月には、さらに1万人前後のレイオフ「第2弾」を実施する計画も明らかにした。
ザッカーバーグ氏は追加人員削減の詳細についてフェイスブックに投稿し、次のように悲観的な見通しを語った。
「現時点では、この新しい経済的現実が何年も続く可能性に備えるべきだと思う」
ウォール街は強気予測
一方、米ウォール街のアナリストらは、ザッカーバーグ氏より明るいメタの業績を予測している。
米投資会社バーンスタイン(Bernstein)のアナリストは顧客向けメールで、レイオフ第2弾に関して次のような分析を提示する。
「(2度にわたる大規模レイオフを通じて)利益を出すのに十分な規模のコスト削減が完了し、これからは関心の的が成長にシフトします。
メタは現在、市場シェアの再拡大を目指せる好ポジションにつけており、エンゲージメント(ユーザーの反応)は増加基調、AIへの巨額投資も結実しつつあります」
また、エバーコアは4月26日に予定される第1四半期(1〜3月)決算について、2021年第4四半期以来となる「売上高2ケタ成長」が実現すると予測する。
メタは同四半期に創業以来初となるユーザーの減少を記録し、フェイスブックのデイリーアクティブユーザー(DAU)数が前期比マイナス約100万人となったと発表したが、エバーコアはそれも回復を見せると予測している。
エバーコアのアナリストチームは4月10日付の顧客向けメールで、インスタグラム(Instagram)のエンゲージメント改善が第1四半期に加速して「過去最高」となる一方、フェイスブックのエンゲージメントは「まずまず」の改善だったと指摘した。
この結果についてエバーコアは、「ほぼ確実に、短尺動画共有機能『リール(Reels)』がエンゲージメント増加をけん引するドライバーになっている実情を示しています」とした上で、同機能が今後広告事業の収益増にも貢献すると予測する。