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アーカンソー州在住で人事の仕事をしているジェイロン・マクミラー(27)は、まさか自分がネットフリックス(Netflix)を解約することになるとは想像もしていなかった。
しかしインフレが進行するなか、ストリーミング配信にかけていたコストを減らしたことでどれだけ節約になるかを実感した。
「出費がどんどんかさみ始めて、もう予算に余裕がないことに気づいたんです」(マクミラー)
マクミラーは昨年、ネットフリックスのプレミアムプランとHulu(フールー)の広告なしライブTVプランを解約し、毎月100ドル(約1万3500円、1ドル=135円換算)近くを切り詰めることに成功した。
サブスクを解約したことで、新型コロナのパンデミック時のあの単調な生活に一服の「安らぎ」を与えてくれた娯楽を手放すことになった、とマクミラーは言う。しかし、インフレにより消費者物価が40年ぶりの高水準にある今、マクミラーのようにストリーミング配信を解約したりもっと手頃な料金プランに切り替えたりして支出を抑える若い視聴者は増加している。
Insiderは、ミレニアル世代とZ世代の消費者5人に話を聞いた。彼ら彼女らは、インフレが進む中でガソリン代や食料品などの必需品を確保するため、サブスクサービスを解約したと話す。
話を聞いた若者のうち何人かは、パンデミック中に過度なテレビ視聴が習慣化してしまったので、代わりに社会活動やアウトドアに時間を使いたいと言う。また、ストリーミングサービスを再契約することには前向きだが、新しい番組や映画を少し見たらまた解約するだろうという声もあった。
インフレがサブスクサービスを直撃
この現象がストリーミング配信サービスにとってどのような意味を持つのかを示唆しているのが、コンサルティング大手のデロイト(Deloitte)が最近発表した「2023年デジタルメディア・トレンド(2023 Digital Media Trends)」調査だ。同調査によると、ミレニアル世代の回答者の約3分の1(32%)とZ世代の30%が、節約のために過去6カ月以内に少なくとも1つの有料エンターテインメントサービスを解約したと回答している。
同調査ではZ世代(デロイトでは1997〜2009年生まれと定義)、ミレニアル世代(1983〜1996年生まれ)、X世代(1966〜1982年生まれ)、ブーマー世代(1947〜1965年生まれ)、シニア世代(1946年以前生まれ)の5つの世代を分析している。全体として、全回答者の44%が過去6カ月以内に、節約とは無関係な理由も含めて有料エンタメサービスを解約したことがあることが分かった。
これは、デロイトがストリーミングサービスのユーザーの解約動向を5年近く追跡調査してきた中で最高水準だと、同社の米国テクノロジー・メディア・通信業務を率いるケビン・ウェストコット(Kevin Westcott)副会長は話す。
「アメリカはかつてないほどのインフレに見舞われています。ガソリンを入れるにもスーパーに買い物に行くにも、これまでになく高い金額を払っているのです」
ウェストコットはそう述べ、労働者の賃金が物価上昇に追いついていないことを指摘した。
同調査によると、88%の世帯がストリーミングサービスのサブスクを続けているとはいえ、視聴者数がまだ右肩上がりで伸びていることを金融業界に納得させたいストリーミング企業にとって、解約増はプレッシャーになりかねないと専門家は話す。
88%の世帯がストリーミング配信の契約を継続しているが、44%の消費者が過去6カ月間に少なくとも1つを解約している。
デロイト「2023年デジタルメディア・トレンド調査」より
ストリーミング企業が怯える解約増
ストリーミング企業にとって、これまでは加入者数の増加が最重要指標だった。しかし「今は、金融市場はストリーミング企業のビジネスがどれだけ利益を上げているかに注目している」とウェストコットは言う。
ネットフリックスとディズニープラス(Disney+)は、新しいユーザーを引きつけて収益を増やすべく、2022年に安価な広告付きプランを導入した。しかし広告事業は成長が緩慢であるうえ、若年層顧客の一部をプレミアムプランから奪ってもいる。デロイトの調査では、ミレニアル世代の18%とZ世代の16%が、過去6カ月間に同じサービスの広告なしプランから広告つきプランへ乗り換えたと回答している。
一方、ミレニアル世代の31%とZ世代の21%が、少なくとも1つの有料サブスクサービスを解約し、代わりに別の広告つき無料サービスを契約している。
ミレニアル世代の32%、Z世代の30%が、出費を抑えるために過去6カ月以内にストリーミング配信を解約したと回答している。
デロイト「2023年デジタルメディア・トレンド調査」より
今回で17回目となるデロイトの本調査は、独立系調査会社が2022年11月にアメリカ在住の消費者2020人を対象に行った調査結果に基づいている。また、ゲームやオンラインコミュニティといったトピックも取り上げている。
解約の理由にかかわらず、ミレニアル世代は5つの世代の中で最も解約率が高く、62%が過去6カ月間に少なくとも1つの有料サービスを解約したと回答した。Z世代は同期間中に57%の解約率で2番目となっている。
またこの調査からは、シニア世代の視聴者はストリーミング配信サービスを利用する人の中で最も継続率の高い層であることが分かった。X世代の解約率は43%、ブーマー世代+シニア世代の解約率は24%だった。
ウェストコットは、若い視聴者が年上の世代よりも解約しやすい傾向にある理由として、テクノロジーに精通していること、可処分所得が限られていることを挙げている。
ストリーミング配信サービスの料金やコンテンツに対する不満は、全体的に高まっている。2022年のJDパワー(J.D. Power)の調査によれば、消費者は特に請求書が増えることを嫌がっている(ストリーミング視聴世帯の60%が少なくとも4つのサブスクを契約していると回答)。
また、データ分析会社ディーゼル・ラボ(Diesel Labs)が2023年4月にInsiderの依頼で行った分析では、若い視聴者が契約中のサブスクをさらに減らそうと考えていることが裏付けられている。
ディーゼル・ラボがTwitter上の投稿を分析した結果、ストリーミングサービスの解約または解約意向に関する言及が、2021年第1四半期と2022年第1四半期とでは11%増加していたのに対し、2022年第1四半期と2023年第1四半期とでは17%増加していたことを突き止めた。解約に言及していた人の3分の1近く(30%)がZ世代ユーザーだった。
話題の番組を見終えたら解約
デロイトの調査によると、過去6カ月以内にサブスクを解約し、その後再契約した視聴者は全体の4分の1弱だった。
コロラド州に住むプロカメラマンのケリー・シュール(33)と夫のアレックス(34)は今年に入って、Paramount+、Hulu、Audible、Apple TV+など複数のサブスクを解約し、月約50ドル(約6750円)を切り詰めることにした。
解約したことに後悔はない、と2人は語る。浮いたお金は、2匹の飼い犬のドッグフードの値上がり分(大袋が1つ20ドル〔約2700円〕ほど値上がりした)に充てている、とシュールは言う。
「ここ何カ月かであらゆるものの値段が上がって、目が覚めました」(シュール)
もしかしたら、エミー賞と全米脚本家組合賞の2冠に輝いたドラマ『セヴェランス(Severance)』のシーズン2が始まったらシュール夫婦はApple TV+を再契約するかもしれない。だがそれを見終えたら、おそらくまた解約するだろう。
「多分、シーズンを一気見すると思います。でも見終わったらサブスクを解約するでしょうね」