グーグルが「日本のゲーム業界から学んだ」世界戦略…なぜ日本はゲームDXの先進国なのか

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任天堂のイベントブース(2017年撮影)。

Christian Petersen/Getty Images

あらゆる業種で、デジタル技術による業務最適化が求められている。いわゆる「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」だが、この言葉はたいていの場合、「日本は遅れている」という話とセットで語られている。

そんな中、グーグルが「日本から学んでグローバル戦略を構築した」とまで語る、例外的な産業があることをご存知だろうか。

それが、日本のゲーム産業だ。

日本のゲーム市場規模は約2兆円。全世界だと約21兆8900億円なので、2000年代と比べると比率は低くなっている。(出典:ファミ通ゲーム白書2022 角川アスキー総合研究所刊)

グーグルのジャック・ビューザー氏は、同社のゲームメーカー向けクラウドサービス「Google Cloud for Games」の戦略立案をする、ゲームインダストリー・ソリューションディレクターを務める人物だ。

ゲームとクラウドの間に何が起きているのか。そして、なぜ日本は「ゲームのDX」では先に進めているのかを聞いた。

任天堂もグーグルを採用、Switch向けゲームを「ライブ化」

グーグルのジャック・ビューザー氏。

グーグルのジャック・ビューザー氏。ゲームインダストリーソリューションディレクターを務めている。ビューザー氏は日本企業の事例から学び、「グローバル戦略として採用することにした」という。

撮影:西田宗千佳

グーグルのゲームインフラ事業の中でも、国内最大の成功例として知られるのは任天堂の事例だろう。この2月、グーグルはGoogle Cloudの導入顧客実例として、任天堂との事例をウェブで公開した。

任天堂での導入事例は2023年2月に公開。サービス導入は2021年だったと語る。

出典:グーグル

任天堂の主軸はもちろん家庭用ゲーム。今なら、「Nintendo Switch」とそのソフトになる。

いま、Switch用ソフトもネットワーク対応のものが増えている。魅力ある遊び場を提供し続けるためには、ゲームは「発売して、アップデートして完成度を高める」だけではなく、ソーシャルゲームのように運用していく「ライブ化」(後述)が必須だ。

そのため任天堂は、2021年にGoogle Cloudを採用。すでに複数のタイトルで利用しているという。

Nintendo Switchが発売されたのは2017年のこと。Google Cloudの採用は、発売後ということになる。ネットワーク部分はハードの発売後にも進化し続け、その一翼をグーグルが担っていたことになる。こうした「常に変化し続けるインフラ」を持っていることは、まさに「ライブゲーム化」そのものだ。

あらゆるゲームが「ライブ化」する、ゲームでもDXが必須に

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One Piece Odyssey

ゲームが「ライブ化」しているというのは、どういう変化なのか。

それを知るには、まず今のゲームがどうなっているかを理解する必要がある。

「ライブゲーム」とは、ざっくりと言えばいわゆるオンラインゲームのこと、と捉えていい。ただし、市場規模やゲームとしての幅は、過去に比べ変化が著しい。日本でも、2012年に5000億円ほどだったオンラインゲームの市場規模は、2022年には1.6兆円ほどまで拡大している。(出典:ファミ通ゲーム白書2022)

「我々は、2024年までに全世界で36億人がゲームをプレイし、2027年までにさらに4億人増える、と予測している」(ビューザー氏)

スマホを起点にゲームのプレイヤー数は増え続けているが、PCや家庭用ゲームもまきこみ、ゲームの「ライブ化」が進んでいる。

出典:グーグル

「ライブゲームが2027年までに40億人」という規模は、スマホ向けのゲームが多いからでもあるが、それだけではない。

現在は、スマホとPC、家庭用ゲーム機で同時にマルチプラットフォーム展開されるゲームが増えている。しかもほとんどが、いわゆるネットゲームだ(注:ネット対戦や協力ができるゲーム)。なぜなら、ネットゲームは「参加する人が多い」ほどいいので、プラットフォームに依存しない方が収益を上げられる可能性が高いからだ。

ゲーム業界において、「大ヒットした」とされるゲームの典型的パターンは、この10年で見ても大きく様変わりした。

「数カ月パッケージを売ってビジネスをするのではなく、何年もゲームを楽しみ続けてもらうモデルに変化している」(ビューザー氏)

ビジネスモデルが変化した背景には、ゲーム開発費の大規模化がある。長期間の運営によって回収を目指す「ネットゲーム的要素」のあるビジネスモデルの方が、有利なのだ。

一方で、ネットワークゲームのように、プレイヤーが常に来訪する状態を作るには、プレイヤーにとって常に魅力的である環境が必要になる。

そのためには、プレイヤーがゲーム内でどう行動しているかを解析し、そこから変更すべき点を見つけ、素早く改修する必要がある。

ゲームを「ライブ化」し、プレイヤーの行動を分析するにはモダンなクラウド技術の活用が必要。

出典:グーグル

つまり、「生きているサービスの状況を把握」しつつ、データ解析をした上で「サービスが生きたまますぐに改修できる」環境にニーズがある。

そうしたやり方で成功したゲームの1つが世界的なヒット作「フォートナイト」だ。

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フォートナイトは人気ゲームという枠を越えて、アーティストからエンタメ作品まで幅広いコラボを展開する「プラットフォーム」としても機能するまでになった(2021年撮影)。

kuremo / Shutterstock

スマホからPCまで多彩なプラットフォームで動作し、プレイヤーの挙動を解析しつつ、巨大なゲームを常に改善し続けている。

フォートナイトはアマゾンのAWSで動作しており、グーグルの顧客ではない。が、同業界にこうした成功事例があるからこそ、各社はクラウドを活用した「モダンなライブゲーム」開発にしのぎを削っている。

「日本に学んだ」グーグルのゲーム向けクラウド事業

この分野では「日本はトップクラスに進んでいる」とビューザー氏は言う。

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2022年の東京ゲームショウより。

Dasian / Shutterstock

顧客やビジネスの動向をリアルタイムに把握し、素早くビジネス展開に反映することや、その基盤となるデジタル技術を導入することは、世間一般では「DX」と呼ばれている。

ゲームというとデジタルの最前線に見えるが、産業の歴史はすでに50年近い。ネットワークゲームも、登場から実に20年以上が経過している。

その中で、過去のやり方にとらわれるのではなく、最新の技術を生かした形へと「DX」していくことは、ゲーム産業であっても必須かつ喫緊の課題となっているわけだ。

ビューザー氏はゲーム業界で25年間働いてきた。グーグルに入社したのは2年前。その前まではソニーでPlayStation事業に携わっていた。

「実は2年前、グーグルのゲーム向けインフラ事業には、確たるグローバル戦略がなかった」とビューザー氏は明かす。

そこで戦略立案のため、最初の1年は、世界中のゲームメーカーとグーグルがどのような関係を築いているかを徹底して分析したという。その結果得られたのが、「日本のゲームメーカーは、恐ろしく進んだ形でクラウドインフラを活用している」という分析だった。

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