Boris Eldagsen with DALL-E 2. Courtesy Photo Edition Berlin
- ボリス・エルダグセンの作品「The Electrician」が、ソニーワールドフォトグラフィーアワードのある部門で1位になった。
- しかし、この作品は「DALL-E(ダリ)2」を使って生成されたものだとエルダグセンは明かした。
- 彼は賞を辞退すると述べ、主催者はウェブサイトから彼の作品を削除した。
写真コンテストで1位を獲得した画像は、実はAIによって生成されたものだった。
ドイツの写真家ボリス・エルダグセン(Boris Eldagsen)は、自分の作品「The Electrician」が本物の写真ではないため、賞を受け取るつもりはないと述べた。この作品は、世界写真機構(World Photography Organisation)が主催する「ソニーワールドフォトグラフィーアワード(Sony World Photography Awards)2023」のオープンコンペティションでクリエイティブ部門のトップに輝いたものだった。
写真家として約30年のキャリアを持つエルダグセンは、自身のウェブサイトに「AIは写真ではない」と記している。
「だから私はこの賞を受け取らない」
ボリス・エルダグセンは、この画像について「AIの欠点がすべて表れている」と述べた。
Boris Eldagsen with DALL-E 2. Courtesy Photo Edition Berlin
1940年代風のモノクロ画像には、ある女性の背後に立つもう1人の女性が、前の女性の肩に手を置く様子が描かれている。彼女は手前の女性のドレスを調節しているように見える。二人の視線はそれぞれ別方向に向いている。
写真のように見えるが、指の位置や爪の形、瞳孔の形などにAIで作成された痕跡がある。また、ドレスは腕に溶け込んでいるように見える。
エルダグセンは「AIの欠点がすべて表れており、見破られる可能性があったはずなのに見破られなかった」とInsiderに語り、この作品が受賞したことに驚いていると付け加えた。3月上旬に受賞の知らせを受けると、彼はすぐにそれがAIで生成されたものであることをコンテストの主催者に伝えたという。
「DALL-E(ダリ)」「Midjourney(ミッドジャーニー)」「Stable Diffusion(ステーブル・ディフュージョン)」といったAI画像生成サイトが、ここ数カ月で人気を博している。ユーザーは特定のアーティストのスタイルでアートを作成したり、実際には起きていない出来事の画像を作成したりすることができる。例えば、ドナルド・トランプ(Donald Trump)前米大統領が逮捕されたというディープフェイク画像は大きな話題になった。また、既存の画像を編集することもできる。
エルダグセンは、9月にDALL-E 2で「プロンプトグラフィ」というプロセスによって画像を生成したという。
「私にとって画像生成AIとの作業は、私が監督となって行う共同創造のようなものだ」と、彼は自身のウェブサイトで述べている。
「ボタンを押すだけで完成するようなものではない。洗練されたテキストプロンプトを作ることに始まり、複雑なワークフローを開発し、さまざまなプラットフォームやテクニックをミックスしていくという、プロセスの複雑さを探求することなのだ」
エルダグセンは、AIと写真の関係をめぐる議論を始めたかったのだという。コンテストの主催者はリアルさを増しているAIが生成したアートのために、別のカテゴリーを作るべきだと彼は主張する。
ボリス・エルダグセンが「The Electrician」の制作過程で、「ダリ2」を用いて生成したイメージの一部。
Boris Eldagsen with DALL-E 2. Courtesy Photo Edition Berlin
「Midjourney 5(が生成した画像)は本当に写真のようだ」と彼は言う。
「The Electrician」はその後、ソニーワールドフォトグラフィーアワード2023から削除され、世界写真機構のウェブサイトやロンドンで開催される展示会でも取り上げられなくなった。
コンテストを運営するCREOの広報担当者がInsiderに語ったところによると、「The Electrician」が受賞した部門は「さまざまな実験的アプローチを歓迎する」という。
「ボリスとのやり取りや彼には正当な理由があることをふまえ、彼の作品はこの部門の基準を満たしているとみなし、彼の参加を支持した」と広報担当者は述べた。だがエルダグセンが受賞を辞退したことから作品を削除したという。
エルダグセンはラテン語で「偽の記憶」を意味する「pseudomnesia」と名付けたシリーズの作品を制作しており、「The Electrician」もそのひとつだ。これらの作品は「存在することなく、誰も撮影していなかった過去の偽の記憶」であり、画像生成AIに20回から40回通すことで作成されると彼は自身のウェブサイトで述べている。
ボリス・エルダグセンの「pseudomnesia」シリーズからの作品。
Boris Eldagsen with DALL-E 2. Courtesy Photo Edition Berlin
「言語としての写真は、今や素材から切り離された」とエルダグセンはInsiderに語っている。
「それは自由に浮いている。それ自体が実体であり、写真の素材として画像生成の知識とクオリティを備えている。しかし、それは写真なのだろうか。それこそが私が始めたかった議論だ。私には簡単に答えられない」