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アマゾン(Amazon)は4月上旬から始まった従業員の年次報酬見直しで、株式の「長期的」価値と仕事の「オーナーシップ」を強調するよう管理職に求めている。管理職はこの見直しの際、個人の業績評価や他者の給与を従業員に開示してはならないことになっている。
こうした内容はアマゾンのガイドラインに書かれており、そこには管理職が部下と個人面談を実施するにあたり確認できる想定問答も載っている。Insiderがコピーを入手した想定問答には、インフレから給与の公平性まで、さまざまなトピックが取り上げられている。
例えばその一つに、「当社にはオーナーシップの原則がある。リーダーはオーナーであり、リーダーは長期的に物事を考え、短期的結果のために長期的価値を犠牲にしてはならない」とある。
従業員の間に広がる不安
アマゾンは年次報酬見直しを実施するにあたり、従業員が面談で聞いてきそうなトピックについてあらかじめ管理職に準備をさせている。インフレ、成長の鈍化、アマゾンも2万5000人の人員削減を決めたように激変する雇用市場など、アマゾンの従業員の間には不安が広がっている。また、アマゾンの株価は過去1年間で30%以上下落していることから、報酬の少なくない割合を株式で受け取っている多くの従業員たちはピリピリしている。
こうした想定問答はこれまでも管理職に共有されてきたが、匿名を条件にInsiderの取材に応じた関係者によると、今年は特に、社内で統一したメッセージを確実に伝えるため報酬に関する社内限定のウェブサイト上で目につくようになっているという。
アマゾンの基本給は一部の同業他社と比べると見劣りするため、年1回の報酬見直しは重要な場だ。アマゾンでは基本給が比較的低い分、譲渡制限付株式ユニット(RSU)を用いている。株価が大きく値上がりするかもしれないという見込みが、人材を引き寄せ留まらせてきたのだ。
この戦略は、アマゾンの株価が急上昇していた2009年から2021年ごろまではうまく機能していたが、2022年になると株価が急落し、従業員を引き留めるツールとして機能しにくくなった。
Insiderがアマゾンの広報担当者に問い合わせたところメールで回答があり、同社の報酬モデルは常に長期的実績に結びついているとしたうえで、次のように記していた。
「株価は変動する可能性があるため、このモデルには年ごとにアップサイドとリスクが伴います。しかしアマゾンではこれまで、長期的視点を持った従業員には非常にうまく機能してきました」
RSUの価値は約30%減少
Insiderが確認した内部文書によると、アマゾンの従業員は今年4月5日に年次給与の更新を受け始めた。管理職は4月30日までに「個人報酬明細書(PCS:Performance Compensation Statement)」を各従業員に開示する必要がある。
アマゾンの従業員の多くは、総報酬の減額を予想している。ある内部文書によると、今年権利確定を開始したアマゾンのRSUは2022年時点で1株3011.51ドル(約40万6500円、1ドル=135円換算)、分割調整ベースでは150.57ドル(約2万300円)だった。4月17日時点でアマゾンの株価は約102ドル(約1万3800円)なので、昨年の付与額から32%下落している。つまり、従業員が昨年付与された株式を4月17日の株価で売却した場合、最終的には32%少ない金額になるということだ。従業員は権利確定済みの株式を売却せず、長期間保有することもできる。
損失を被ったのはアンディ・ジャシーCEOも同じだ。同社が先日提出した書類によると、ジャシーの未確定RSUの総額は過去1年間で1億3950万ドル(約188億円)下落し、2022年の「実現報酬」は、アマゾンの「株価が年間を通じて下落」したため25%目減りしたという。
Insiderが今回入手したガイドラインによると、アマゾンの給与体系は「実績と成功を長期的に見て、オーナーシップ維持の重要性を反映している」と管理職は伝えるとされている。
また、株価変動に関する想定質問に対しては、アマゾンでは毎年2回実施される計画の見直しがこれに対処するのに役立つ、と伝えるよう管理職は指導されている。「今回は2024年と2025年の見直しを行った。2024年第1四半期には、2025年と2026年の見直しを行う。このようにして株式変動に対する計画を立てている」とガイドラインには記されている。
Insiderが入手した別の内部文書によると、2023年に新しく付与されたRSUについては、アマゾンは30日間の平均株価に基づき1株97.81ドル(約1万3200円)の権利確定額を用いた。アマゾンは今後の各報酬を計画する際に、株価がさらに15%上昇すると想定している。
ガイドラインには、「今後もRSUを付与することで、従業員は当社の理念に沿って長期的に物事を考えるようになる」と記されている。
アマゾンの広報担当者によれば、今年の昇進者や成績優秀者の中には、昨年より多くの収入を得た者もいるという(変化の程度は報酬に占めるRSUの割合によっても異なる)。
「生活費」ではなく「労務費」
毎年の報酬更改はアマゾンの分かりにくい業績評価の鍵を握るため、従業員の多くは不安がいや増すことになりかねない。アマゾンでは管理職は個々の部下の実績等級を開示してはならないことになっている。等級は大きく5つに分かれており、従業員はたいていPCSに書かれた昇給の程度に基づいて自分の立ち位置を推測する。
ガイドラインには次のように書かれている。
「特定の評価を開示しないこと。その代わり、実績概要(「高い基準を上回っている」「高い基準に達している」「改善が必要」)に注目し、従業員がアマゾンの基準に照らして自己のポジションを把握し、実施中のキャリア開発の面談を支持するようにする」
従業員が自分の評価に不満を持った場合、管理職は評価が「複数の要因」に基づいていることを伝え、「継続的な進捗」に向けて個人面談を提案しなければならない。
近年不満が集まっているのが、昇給ペースがインフレ率に追いついていない点だ。これに関する質問については、昇給は「生活費」ではなく「労務費」に基づいていると伝えるよう、アマゾンは管理職に促している。
ガイドラインによると、労務費とは特定市場における同業他社の給与を指し、「給与に影響を与えうるインフレを考慮したもの」だという。提示した給与に従業員が納得しない場合、管理職は「オープンに議論」し、調整が必要かどうかを判断する。
また、自分の報酬が他の従業員と比較して「良い」かどうかを尋ねられたら、その従業員個人の具体的な成長計画へと話を誘導するよう管理職に指示している。
「『良い』は相対的な用語であり、同僚との比較に会話が向かう可能性がある。個々の従業員とその個々の報酬にフォーカスすること。同僚の報酬と比較したり、他の従業員の報酬について話したりしないこと」(ガイドラインより)
従業員の中には、なぜ部下のほうが自分より稼いでいるのかと尋ねてくる者もいるだろう。管理職はこの場合、在職期間や役職における実績など、給与決定にはさまざまな要因が絡んでいることを説明するよう指示されている。
加えて、アマゾンでは同僚との給与の公平性をどう担保しているのかと尋ねられたら、市場データと給与パッケージごとに考慮すべき要素が異なることを強調するよう勧めている。
「人事リーダーとして、直属の部下の報酬履歴と将来を見据えた予測を確認し、チームにとって最高の従業員体験をサポートすることが重要である。
当社では、市場データを用い、また業績や本人のキャリア成長なども柔軟に考慮しつつ、業務上の役割とレベルに関して公平性を保てる範囲を設定している」(ガイドラインより)