撮影:西田宗千佳
ゲーム会社大手カプコンと、ポケモンGOで知られるNiantic(ナイアンティック)が新しい位置情報ゲーム「Monster Hunter Now」(以下、モンハンNow)が9月から全世界でスタートする。4月18日、ナイアンティックが会見した。
かつて、ナイアンティックCEOのジョン・ハンケ氏は、世界的ヒットの「位置ゲー」を作り続ける背景を「息子のゲーム中毒を治すためにつくった」「人と人が顔を合わせる、昔ながらのコミュニケーションの再構築(をするゲーム)」だと語っている。
(※編注:公式サイトには、ソーシャルインパクト・社会的影響のページも設けている)
Sensor Towerの推計によると、ポケモンGOの累計売上高は60億ドル(約8000億円)を超えるという。
世界を代表する「位置ゲー」企業と、日本のゲーム会社がタッグを組む大手コラボは、再びポケモンGOのような「人を家の外に連れ出す」ヒット作になるのか? 両社の狙いを探る。
ベースは「ポケモンGO」、遊んだ印象は「モンハン」
カプコンの「モンスターハンター」シリーズは、シリーズ累計9000万本(2022年12月31日時点)を売り上げた大ヒットシリーズ。2024年にはシリーズ開始20周年を迎える。
モンハンNowは、このモンハンの世界観を使った、スマホのGPSを活用した位置情報ゲームだ。「ポケモンGO」と同じ、ナイアンティックのクラウドインフラを使って開発されており、地図上にある「ウェイスポット」と呼ばれる場所を活用することも似ている。
街中は森や砂漠など、モンハンに登場する「エリア」に分けられており、エリアの種類によって、出てくるモンスターや産物は異なる。街中を歩いていると画面の地図上にモンスターが出てくるので、それを討伐してアイテムを入手する。
左のマップ上には現在位置に合わせ、産物やモンスターが配置されている。
© 2023 Niantic. Characters / Artwork/ Music © CAPCOM CO., LTD.
モンスターに触れると、モンスター退治(討伐)が始まる。
© 2023 Niantic. Characters / Artwork/ Music © CAPCOM CO., LTD.
見た目はポケモンGOっぽさがあるものの、プレイした手触りはモンスターの「討伐」を強調した「モンハン」っぽさがある。 4人までのマルチプレイで「討伐」もできる。
もちろん、スマホの位置情報ゲームとして仕上げるために、ポケモンGOなどとは異なる、相当な工夫もなされている。
操作は画面のタップやフリックで行い、ゲーム機版の「モンハン」のようにコントローラーは使わない。
タイミングはそれなりにシビアだが、操作自体はシンプルだ。モンスターとの戦いは最長75秒に制限されていて、倒しきれないとモンスターに逃げられる。その結果、長くその場にとどまる必要がない。
新しい「現実の世界に出てプレイするゲーム」
中央左がナイアンティックCEOのジョン・ハンケ氏。中央右がカプコン取締役 専務執行役員の辻本良三氏。
撮影:西田宗千佳
モンハンNowは、ナイアンティックからカプコンに提案する形で開発されたゲームだ。
開発と運用の主体はナイアンティック。カプコンはゲームIP(Intellectual Property、知的財産)を提供する立場だ。
ただし、「モンハン」という人気IPの世界観を位置ゲーとして再現するため、ナイアンティックとともに「モンハンらしさ」の追求で伴走してきた。
カプコンでモンスターハンター・シリーズプロデューサーを務める、辻本良三氏(カプコン取締役 専務執行役員)は、開発の経緯を次のように語る。
「最初にお話をいただいたのは、2019年のことです。ナイアンティックからご提案をいただいて、ものの5分もしないうちに決まりました」(辻本氏)
モンハンの位置情報ゲームを、という希望は、カプコンにも多数寄せられていたという。
2018年〜2019年にかけては、国内でも位置情報ゲームがいくつも登場した時期だ。
辻本氏も「モンハンの位置ゲーを作りたい」とは考えたという。しかし一方で、「自分たちにはノウハウが不足している」とも認識していた。さらに、次のような課題もあったという。
「モンハンにはすでに、世界各地にファンがいます。グローバルに勝負したいと考えると、パートナーとしてはナイアンティックがいい……という考えがありました。なので、彼らからご提案をいただいた段階でちょっとラッキーに感じたほどです」(辻本氏)
ナイアンティックとしても、外に出て体験を広げる「位置情報ゲーム」の世界を広げるには、多様なゲームを必要としていた。ナイアンティックのジョン・ハンケCEOは、その点をこう語る。
「現実の世界に出てプレイするゲームは、新しい体験です。だから、人々がそれを理解し、慣れるまでには時間がかかります。
ですが、新しい体験を、すでに慣れ親しんでいるものと組み合わせるとしたら? 素早く新しい体験を理解できます。
複数のゲームを作る理由は、位置情報ゲームが新しいジャンルであり、人によって好みも分かれるからです」(ハンケCEO)
ハンケCEOは、「『アウトドアで遊ぶ』という点では共通していますし、一緒に遊んだり世界を探検したりすることを推奨している」とも言う。
人と人が顔を合わせるコミュニケーションを位置ゲーによって再構築する、という考え方はモンハンNowにも生きている。
難航した開発「何度も作り直した」
撮影:西田宗千佳
一方で、ゲームの開発は難航した。
2019年に提案されたものの、ようやく2023年のスタートへと漕ぎ着けている。ハンケCEOも、モンハンNowが難産だったことを認める。
「モンスターハンターのコンソールでの体験をモバイルで翻訳するのは、非常に難しいチャレンジでした。ゲームの制作に4年を要し、チームでは、何度も何度も作り直しをしています。
しかし、カプコンと緊密に連携し、カプコンから多くのアドバイスや意見をもらいながら、本当にうまくいく方式を見つけることができました」(ハンケCEO)
開発を担当したのはナイアンティック・東京スタジオ。「ピクミン ブルーム」に続く、2本目のタイトルとなる。
カプコン側は何度もビジョンを確認しながら、作り直していく間を「辛抱強く待った」(辻本氏)と笑う。
「以前から、ナイアンティック・東京スタジオの野村達雄さん(本作のエクゼクティブ・ディレクターで、ポケモンGOのプロダクトマネージャーも務めた)のインタビューや、ポケモンGOの開発記事などを読んでいました。
開発についても事情は存じ上げていたので、どういう考え方で、どういう風にゲームを作るかを、大体わかっていた部分があります」
「変な話なんですが、ゲーム開発って相性がある。相性が悪いとゲームは完成してこない。どんなにいいアイデアが出てきても、ぶつかり合って終わるだけでゲームができないことがある」(辻本氏)
それでも今回は「相性はいいだろう」という感覚はあった、と辻本氏は言う。
4年という時間は、その試行錯誤に必要だった時間だということなのだろう。