音楽系スタートアップ、Aimiの創業者でCEOのエドワード・バラサニアン。
Joshua Atkins
人工知能を搭載した新しいツールが、音楽業界を変え始めている。
あるツールは音楽制作のプロセスを簡素化し、ビートの生成やトラックのマスタリングをサポートする。また、ファンのエンゲージメントを評価し、音楽の発見を促進し、作詞家と自分たちの好みの音楽を探している業界幹部とのマッチングを行うツールもある。
このようなAIツールの多くは、音楽系スタートアップが中心となって作っている。Insiderは最近、読者や業界の専門家からの推薦と取材に基づき、AIを使い業界を変革させている13の音楽スタートアップを紹介した。スタートアップ企業らは、アーティストのビジュアル作成からDJセットの生成まで、いくつかのサービスに取り組んでいる。
一方、新しいイノベーションについて、音楽に携わる人々からは不安の声が上がっている。ドレイク(Drake)やザ・ウィークエンド(The Weekend)といったアーティストのボーカルや歌詞を模倣した楽曲がインターネット上に出回り、アーティストからの反発があったり、それがなりすましの一種だとの議論を呼んでいる。
また、レコード会社などの権利者の中には、著作権法や知的財産を無視して自分たちの曲がAIアルゴリズムのトレーニングに使われ、音楽が作られてしまうことに懸念を示す人もいる。
しかし、AIを搭載した音楽ツールを開発しているスタートアップ創業者の中には、自社のプロダクトは従来の音楽業界と連携するように作られていると主張する人もいる。コンピューターで自動生成した音楽をクリエイターがカスタマイズしてストリーミングできるプラットフォーム、エイミ(Aimi)の創業者兼CEOのエドワード・バラサニアン(Edward Balassanian)は、レコード会社、出版社、アーティストと協力して、プラットフォーム用の音楽を録音・制作していると語る。
「この領域にいるすべてのプレーヤーに呼びかける必要がある」とバラサニアンは話す。
本稿では、音楽業界を変革しつつある4通りのAI活用例を紹介する。
コンテンツクリエーターの動画用音楽へのアクセスを支援
コンテンツクリエイターは、動画の中でロイヤリティフリーの音楽に頼ることが多い。AIを活用すれば、著作権侵害を恐れずに音楽を探すことがさらに容易になる。例えば、サウンドフル(Soundful)は、AIが生成したロイヤリティフリーの音楽をクリエイターに提供している。また、スタートアップのインフィニット・アルバム(Infinite Album)は、ゲームストリーマーがライブストリームを行う際に週あたり30~60時間もの音楽を必要とすることがあるため、AIを使って著作権に配慮したプレイリストを作成している。
あらゆるミュージシャンの制作を支援する
楽器の演奏方法を学ぶためのプラットフォームであるモイセス(Moises)や、音楽のマスタリングを自動化するマスターチャンネル(Masterchannel)など、スタートアップ企業はAIを使って音楽制作のあらゆる場面でイノベーションを起こしている。マスターチャンネルの共同創業者であるサイモン・へスターマン(Simon Hestermann)はInsiderに対し、同社はアーティストのマスターの使い方を変えられると語った。
「最初のレコーディングの後に簡単なデモが必要な場合や、自分のマネジメント会社に送る必要がある場合、あるいは完成前にラジオのピッチに送る必要がある場合、マスタリングの過程でマスターチャンネルを使えばいいのです」
独立系アーティストにプラットフォームを提供する
AIは、小規模なアーティストの躍進を後押しすることもできる。AIを使ってアーティストや音楽を音楽、広告、テレビ、映画業界のエグゼクティブたちとマッチングさせるマイパート(MyPart)は、独立系アーティストが自分の音楽をアップロードしてビジネスチャンスを探るサービスを提供している。
「このサービスで特にワクワクするのは、A&R( 編注:アーティスト・アンド・レパートリーの略。レコード会社や音楽出版社において、音楽アーティストや作詞家などの才能を発掘し、彼らの芸術的発展を統括する担当者 )に使われることです」
こう語るのは、マイパートの共同創業者のマタン・コルネシェ(Matan Kollnescher)だ。彼は「自分の作った歌が、自分がそれを歌ってほしいと願っているアーティストに届くこと」で、作詞家もこのAIの恩恵を受けることができると言う。
アーティストにクリエイティブな音楽の提案をする AIは、アーティストが得意とする創作活動も支援可能だ。アーティストは、音楽スタートアップのスプライス(Splice)が提供するCoSoというツールを使い、同社のサウンドライブラリーから生成される「スタック」(ギターやボーカルなどの音楽要素の組み合わせ)を通じてサンプル音を探すことができる。カイバー(Kaiber)のような企業もAIを使い、歌詞やミュージックビデオを作っている。