衆・参あわせて5つの補欠選挙は自民党が4勝した。
Business Insider Japan
統一地方選の後半戦と併せて、衆・参あわせて5つの補欠選挙が4月23日に投開票されました。このうち自民党が4勝し、衆院で3議席、参院で1議席の積み増しに成功。日本維新の会も衆院で1議席を獲得しました。一方、野党第1党の立憲民主党は公認した候補がいずれも落選しました。
補欠選挙で当選した5人はいずれも新人で、最年少は31歳、最高齢は56歳。当選者5人のうち3人が女性候補でした。
岸田文雄首相は勝敗ラインについて、3月17日の会見で「自民党の議席をしっかり守り抜き、更に拡大していくべく全力を尽くしていきたい」と発言。補選5議席のうち「3勝」が勝利の最低ラインになると示唆していましたが、結果は勝敗ラインを上回る「4勝」となりました。
自民党の茂木敏充幹事長は24日未明に報道陣に対し、「岸田政権の中間評価で言えば、前向きな評価をいただいた。5つの選挙区の中で4つ取ることができたのは大きい」と補選の所感を語ったと、読売新聞などが伝えています。
NHKによると、一時は33%に落ち込んでいた岸田内閣の支持率は4月10日時点で42%にまで回復。補選の結果次第では、岸田首相が衆院の早期解散に打って出る可能性があると見られ、趨(すう)勢が注目されました。
ただ、和歌山1区では大阪以外でも勢力を伸ばす維新の勢いを止めることができずに敗北。残る4つの補選は勝利しましたが、死去した安倍元首相の後継候補が勝利した山口4区以外では、すぐに「当確」が報じられず、接戦となりました。
以下、今回の補選の結果を振り返ります。
衆院・千葉5区▶自民・英利アルフィヤ氏(34)が勝利
政治資金規正法違反の罪で略式起訴された自民党の前職・薗浦健太郎氏が議員辞職したことに伴う選挙でした。自民の新人・英利アルフィヤ氏(34)が元職と新人による計7人の激戦を制しました。
英利氏は、福岡県北九州市生まれの34歳。両親は中国・新疆ウイグル自治区の出身。1999年に日本国籍を取得。ジョージタウン大学、同外交政策大学院の修士課程を修了し、日本銀行や国連事務局に勤務。2022年の参院選では自民から比例代表として立候補したが落選しています。
今回の選挙戦では「優しい社会」を目指すとして、物価高騰への対策や多様な生き方に寄り添う政策、外交・安全保障政策などを訴えました。自民も重点区の一つと位置づけ、選挙戦最終日には岸田首相も応援に入りました。
衆院・和歌山1区▶維新・林佑美氏(41)が勝利
国民民主党の前職・岸本周平氏が和歌山県知事選に立候補したことに伴う選挙で元職と新人3人が争い、維新の新人・林佑美氏(41)が自民の元職らに競り勝りました。
林氏は京都府出身。立命館大の大学院を修了。2021年8月、和歌山市議の補欠選に出馬し、初当選しています。
今回の選挙戦ではクリーンな政治、家庭の教育費負担の最小化など子育て支援、物価高騰に対応するため時限的に消費税率を5%に減税することなどを訴えました。
今回の統一地方選で、維新は大阪以外でも首長ポストや国政での議席を獲得。勢力を伸ばしました。統一地方選の前半戦では、大阪府知事選・大阪市長選で勝利。奈良県知事選も制し、大阪以外で初めて維新が公認した首長が誕生しています。
朝日新聞によると、維新は統一地方選の目標として掲げた「地方議員600人以上」を達成する見通しとなりました。これは選挙前の約1.5倍にのぼります。
和歌山1区の選挙をめぐっては、4月15日に岸田首相が自民候補の応援のため雑賀崎漁港を訪れた際、演説会場で爆発物が投げられる事件が起こりました。
衆院・山口2区▶自民・岸信千世氏(31)が勝利
自民の岸信夫・前防衛相が議員辞職したことに伴う選挙で、自民・新人で信夫氏の長男・信千世氏(31)が民主党政権で法相などを務めた平岡秀夫氏との一騎打ちを制しました。
岸氏は東京・港区出身。慶應義塾大の商学部を卒業後にフジテレビ記者を経て、信夫氏の秘書に就きました。
選挙戦では憲法改正や安全保障体制の充実、製造業の再生やカーボンニュートラル・デジタル化など経済再生・強化などを訴えました。
選挙前にはホームページに曽祖父の岸信介元首相、曽祖叔父・佐藤栄作元首相、父・信夫氏、伯父の安倍元首相ら名を記した家系図を掲載しましたが、「政治家一家」の世襲アピールとして批判を受けました。さらに、家系図には掲載された人々の妻・母は掲載されておらず、これも男尊女卑的なものだとして批判があがりました。
衆院・山口4区▶自民・吉田真次氏(38)が勝利
2022年7月に安倍晋三元首相が銃撃事件で死去したことに伴う選挙で、新人5人が争いました。旧統一教会問題を追及する立憲の前職・有田芳生氏らを退けて、自民の新人・吉田真次氏(38)が初当選しました。
吉田氏は山口県下関市出身。関西大の法学部を卒業後、大阪府議会議員の秘書や下関市議会議員を務めました。
選挙戦では安倍元首相の「遺志の継承」を打ち出し、憲法改正、伝統と文化を尊重する教育の推進、保育士の処遇改善など子育て支援などを訴えました。
ただ、吉田氏は当選しても次の選挙で大きな困難にぶつかることが想定されます。公職選挙法の改正に伴う小選挙区の区割り改定の影響で、次の選挙から山口県内の衆院小選挙区が現状の「4」から「3」に削減されるからです。
しかも公認争いの相手は、前回の衆院選で参院から衆院に鞍替えした林芳正外相(山口3区)になるとみられています。吉田氏が残りの任期でどんな成果を残すのかと併せて、次回の総選挙をめぐる対応も注目されそうです。
参院・大分選挙区▶自民・白坂亜紀氏(56)が勝利
野党統一候補だった前職の安達澄氏が大分県知事選への立候補したことに伴う選挙で、野党は事実上の「野党共闘」候補として立憲前職で社民党党首などを歴任した吉田忠智氏を支援。与野党一騎打ちとなりましたが、自民の新人・白坂亜紀氏(56)が、大分に強い地盤を持つ吉田氏を破りました。
白坂氏は大分県竹田市出身。早稲田大学を卒業。東京・銀座のクラブ「稲葉」など飲食店などを経営。ビルの屋上でミツバチを育てる「銀座ミツバチプロジェクト」にも取り組んでいます。今回は党大分県連の公募に応募し、党公認候補に選ばれました。
選挙戦では出産・子育ての負担軽減、女性活躍支援、大分の観光振興などを訴えました。
今後の主な政治日程は?
首相官邸で外国メディアとの懇談会に出席する岸田文雄首相(4月20日)
REUTERS/Issei Kato
今回の5つの補選の結果は、今後の国政を占うものだと受け止められています。岸田首相の政権運営や衆院解散をめぐる戦略を左右するからです。
日本国憲法7条では「衆院の解散」について、「内閣の助言と承認」による天皇の「国事行為」と定められています。
ただ、衆院をいつ解散するかを決める「解散権」は、しばしば「首相の専権事項」だと言われます。衆院の解散は「伝家の宝刀」とも呼ばれ、歴代の首相は、なるべく自らの政権にとって都合の良い時期で解散のタイミングを計ってきました。
好機を計れば多数の議席を獲得し政策の実行力となる反面、タイミングを誤れば政権へのダメージは必至。首相に求心力がない場合も解散を強行できず、政権の座を追われることもありました。
戦後の日本国憲法の下では、任期満了による総選挙はたった一度だけ。そして、この時は自民党が結党以来初めて過半数を割り込む惨敗を喫しています。
2023年は5月にG7広島サミット、6月には通常国会の会期末など重要な政治日程が控えています。衆院の任期は10月に折り返し(残り2年)となりますが、過去には衆院の残り任期が2年以上残る中でも解散されたことはあります。
永田町では「サミット後であれば、いつ衆院が解散されてもおかしくはない」という声も出ていますが、まずは6月の通常国会の会期末が解散のタイミングになるかどうか、焦点になりそうです。
ただ、今回の5つの補選で自民は「4勝」しましたが、安倍元首相の後継候補が勝った山口4区以外では厳しい接戦でした。
選挙では「勝った」という事実がもちろん重要ですが、「どのように勝ったか」にも気を配る必要があります。今回の補欠選挙を踏まえて、岸田首相が早期に「伝家の宝刀」を抜く意思があるのか。各党は首相の思惑をにらみつつ、改めて選挙戦略を練ることになるでしょう。
<2022年>
- 5月 G7広島サミット
- 6月 通常国会の会期末
- 10月 衆院任期の折返し点(残り2年)
<2023年>
- 1月 通常国会
- 秋頃 自民党総裁選