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今回は、こちらの応募フォームからお寄せいただいた読者の方からのご相談にお答えします。
育児休業の取得を予定している男性が、その後の転職活動について悩んでいらっしゃいます。
Aさん
育児休業後の男性の転職活動が、不利に働くかどうかを知りたいです。
私は現在の職場で、キャリアアップの機会が十分に与えられていないと感じています。そのため、転職を考えたほうがいいのかなと思うようになりました。
しかし、そんな矢先、妻から初めての妊娠の知らせがあり、できるだけ育休をとってほしいと言われました。私は、育児休業は人生における貴重な経験であると考えているので、取得したいと考えています。ただ、育休はとりたいのですが妻は仕事にプライオリティをおくタイプではないので、私自身が収入をあげる努力をする必要があると思っています。
質問ですが、育児休業を取得した後、すぐに転職活動を開始した場合、企業は私を避ける傾向にあるのでしょうか?(そもそも子どもが小さくて転職活動どころではないかもしれませんが)
(Aさん/30代前半/男性/経理)
※お便りの内容を一部要約させていただきました。
奥さまのご懐妊、おめでとうございます! 無事に安定期に入ることをお祈りしています。
妊娠の喜びと同時に抱くキャリアへの不安については、もう何十年も「女性から」お悩み相談を受けてきましたが、今は男性からこのようなお悩みが……新しい時代が来たのだな、と感じます。
さて、いただいたご質問につきまして。
「育児休業を取得した後、すぐに転職活動を開始した場合、企業は私を避ける傾向にあるのでしょうか?」
こちらについては「あなたのキャリア(市場価値)による」というお答えになります。
Aさんの所属企業や経理職としてのご経験内容が分からないため、あいまいな回答しかできず申し訳ないのですが、一般的に企業がどのように捉えるのかをお話ししましょう。
まず、企業側が「ぜひ入社してほしい人材」と判断すれば、育休取得に関係なく歓迎されるはずです。
「育休取得直後に転職活動」という行動に対してどのような印象を抱くかは、採用担当者の考え方や価値観によるでしょう。もしかすると「モラルに反する」と感じる人もいるかもしれません。
しかしながら「育休取得を機に今後のライフプラン、キャリアプランをじっくり考えた結果、転職を決意した」ということであれば、納得を得られるのではないでしょうか。
経理職はニーズが高く、転職を成功させやすい環境
では、Aさんの専門領域である「経理」の場合、どのような経験・スキルがあれば市場価値が高く、転職で有利となるのでしょうか。現在の転職市場の傾向についてお伝えします。
現在、経理職はニーズが高い状況です。
スタートアップであれば管理部門の組織・仕組みの整備、ある程度軌道に乗ったベンチャーであればIPOに向けた準備……といった背景から、経理人材の採用を行っています。
中堅クラスの企業では、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に伴い、会計の仕組みを変えたり新たなツールを導入したりと、変革を機に新たな人材を募集するケースが見られます。
上場企業では、管理会計がシビアになってきており、体制強化のための人材ニーズがあります。
Aさんは30代前半とのこと。一般的には、転職市場でニーズが高い年代です。
経理職として相応の実務経験を積んでいらっしゃると思いますので、転職はしやすい環境といえるでしょう。
どの程度の規模・成長フェーズの企業に勤務されているか分からないのですが、もし次のような経験をお持ちであれば、転職市場で高く評価されます。
- 経理のみでなく、財務、管理会計なども含めた網羅的な経験
- IPOに向けた準備経験(開示資料作成など)
- マネジメント経験
- 業務改善やシステム導入の経験
ただし、Aさんが大手企業の細分化された組織で、一部の業務しか経験していない場合は転職活動で苦戦する可能性があります。しかも「育休取得直後」という事情がマイナスに作用するかもしれません。
まずは「自分の市場価値を知る」ことから
経理の転職の大まかな傾向をお伝えしましたが、転職の成否は、さまざまな要素の掛け合わせによって左右されます。
「企業規模」×「企業ステージ」×「経験した業務範囲」×「何らかのプロジェクト経験」×「リーダー・マネジメント経験」×「他部署との連携・調整力」×「経営陣との距離」×「人柄」×「仕事に向き合うマインド」×「希望する諸条件」など。
まずは、ご自身の経験内容や強みを要素分解し、それらを掛け合わせ、現在のご自身の「市場価値」を知りましょう。
手始めに、転職サイトの「スカウトサービス」に登録してみる手もあります。企業から、あるいは転職エージェントからスカウトの声がかかりますので、ご自身の市場価値の大まかな相場がつかめるでしょう。
また、転職エージェントに相談するのもお勧めです。
管理部門人材を専門に手がける転職エージェントであれば、経理としての現在の市場価値を診断してもらうことができ、どのような求人の選択肢があるかも分かります。
逆に、「経理のキャリアを歩んでいくなら、今の自分に何が足りないか」「これからどんな経験を積めば市場価値が上がるか」についてアドバイスを受けることもできます。
なお、「経理スペシャリスト以外のキャリアも模索したい」ということであれば、大手総合エージェントも併用するといいでしょう。
経理の経験・知識を活かせるキャリアチェンジの選択肢が見つかるかもしれません。
こうして得た情報を踏まえ、この先何をやりたいか、どのようなキャリアを築いていきたいのか、中長期視点でイメージを描いてみてください。
方向性が決まれば、今の企業にしばらくとどまって経験を積むか、今すぐ転職に踏み切るか、転職エージェントと相談しながら判断しましょう。
また、将来につなげる方法として、何らかの専門知識・スキルを書籍やセミナーなどで学習したり、資格取得を目指したり、コミュニティに参加して人脈を作ったりと、新たなアクションを起こしてはいかがでしょうか。
お子さんが生まれると、時間的にも精神的にもお子さんにかけるウエイトが大きくなります。まだ時間を自由に使いやすい今のうちに、できることをしておくといいでしょう。
とはいえ、奥さまはこれからしばらく体調が安定しないかと思います。どうかいたわってあげてくださいね。
無事のご出産を心からお祈りしています。
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森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。