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- 給与明細を見ると、「課税支給合計」と「差引支給額」に開きがあることに気づく。この差額をネガティブに捉える人や、そもそも気づかない人も多い。
- こうした控除には、生活を裏で支える大切な役割以外に、現役世代にもしっかり役立つ「隠されたメリット」が存在している。
- 万が一のための補償や将来に向けたサポートなど、差し引かれている分、しっかり役立てたいその内容をご紹介する。
「この分も入金されたら、もっと楽になるのに……」
給与明細を見て、そんなふうにため息をつく新社会人は多いだろう。「課税支給合計」と「差引支給額」に開きがあるからだ。しかも、この差は年を経て、昇給するごとに広がっていく。
「課税支給合計」は、基本給に各種手当を足して、会社から給与として渡される総額。対して「差額支給額」は、課税支給合計から「社会保険料」と「税金」を控除(差し引き)して、実際に給与口座へ振り込まれる額だ。
確かに、社会保険と税金がなければ手取りが増えてもっと生活が楽になるに違いない——。
だが、こうした控除にはあなたの生活を裏で支える、大切な役割がある。しかも認知度は低いものの、これらには現役世代にも十分に役立つメリットが存在しているのだ。
本記事では、そうした控除に隠された「7つのメリット」を紹介していこう。
「健康保険」に隠された3つのメリット
健康保険は、会社員になると強制加入となる公的な医療保険制度である。入社すると、保険証が交付される、医療費が3割負担で済むので、比較的加入している実感の沸きやすい社会保険制度だろう。
だが、筆者がFPとしていろんな人から相談に乗っていると、医療費が3割負担で済む以外にもメリットがあることを知らず、無駄な医療保険に加入してしまう人が意外と多い。同じ轍を踏まないよう概要をぜひ知っておこう。
メリット1:高額療養費制度
ひと月に支払った自己負担額が高額になった場合、後ほど一定額が払い戻される「高額療養費制度」も存在する。大きな病気や怪我をしたとしても意外と医療費負担が少額で済むことが多いのはこの制度があるためだ。
メリット2:傷病手当金
さらに、病気や怪我で長期間会社休んだ際には「傷病手当金」として、おおよそ給与の67%が1年半にわたって保障される。
加えて、出産費用や出産に伴う休業補償もある。出産費用に関しては近年増加傾向にあることを踏まえ、出産育児一時金については2023年4月からルールが変更になり、42万円から50万円になった。さらに岸田内閣では子育て世帯向けの保障を拡充させる動きがあるため、今後のさらなる改正を気にしておいた方がよいだろう。
ちなみに健康保険料は、給与に応じた標準報酬月額で決定される。標準報酬月額とは、社会保険料の計算をしやすくするため、従業員が得た給与などの1月分の報酬を、一定の範囲ごとに区分したものだ(例えば、月21万円が総支給額であれば、20万円)。
また、各都道府県によって保険料は異なり、毎年保険料の算定基準は見直される(東京都であれば、令和5年度は10.00%[40歳未満の場合])。なお、保険料は労使折半、つまり従業員の負担は半分となる。
「雇用保険」に隠された2つのメリット
雇用保険は、労働者が失業した場合や雇用の継続が困難になったときに、生活や雇用の安定を図るために必要な給付を行うことを目的とした、公的な社会保険である。失業の際にお世話になるイメージがあるかもしれないが、失業時以外にもメリットがある。
メリット4:育児休業一時金
そのひとつは、育児休業を取得した際の休業保障「育児休業一時金」だ。最近は男性を中心に育休制度の拡充の動きもあるので、こちらも制度改正により拡充されないか情報収集しておきたい。
メリット5:教育訓練給付
さらに、資格取得をする場合、その教育訓練にかかった費用を一部がキャッシュバックされる「教育訓練給付」を受けることも可能だ。雇用保険の加入期間の関係上、実際の利用は入社2年目の春以降になるが、今から対象資格をチェックしておくとよいだろう。
ちなみに、資格検索できるページもあるので利用してみるとよい。教育訓練給付金は、一度使った後も3年以上雇用保険料を納めたら再度使える。著者も会社員時代に理解が不足しており、もっと活用しておけばよかったと後悔している制度の1つだ。
雇用保険は、給与総額(基本給、残業代、通勤手当等も含む)に対して1.55%かかる。ただし、従業員はそのうち0.6%を負担し、残りは会社負担となる。
「厚生年金」に隠された2つのメリット
厚生年金は、正社員の会社員が主に加入する公的年金で、毎月の給料から保険料が徴収される。年金のメリットは老後の年金給付で、一見すると現役時代にはメリットはないようだ。しかし、それは誤解である。
実は公的年金への加入は、公的な死亡保険や医療保険に加入していることも意味する。この理解がないがために、健康保険への理解が不十分な場合と同様に、無駄な民間業者の保険に加入してしまう人が多い。ここもぜひ確認しておきたい。
メリット6:遺族年金
被保険者が死亡した際には、被扶養者に「遺族年金」が支給される。今誰も扶養していなくても、今後結婚などで扶養することもあり得るので、今から仕組みの概要だけでも把握しておきたい。
メリット7:障害年金
自身が病気やケガで障害を負ってしまった際には、「障害年金」が支給される。健康保険の傷病手当金は1年半で支給がストップするが、障害年金は終身年金である。
厚生年金保険料は、健康保険料と同様に標準報酬月額から計算される。保険料は18.3%だが労使折半なので、実際に従業員が負担するのはその半分の9.15%である。
実は「所得税・住民税」にも節税チャンスが
所得税は国に対して、住民税は地方公共団体に収める税金である。いずれも、毎年1月1日から12月31日までの年間所得から所得控除を差し引いた金額に、一定の税率を適用し算出される。
会社員の場合は源泉徴収、つまり、事業者が従業員の毎月の給料から、あらかじめ所得税を天引きして納付する。その後、12月に年末調整で細かなズレを調整して、還付を受けたり反対に追徴を受けたりする。
社会保険と違って、支払うメリットは感じにくい(厳密には行政サービスで恩恵は受けている)が、場合によっては、あえて確定申告をした方が節税になることがある。いろんなケースがあるが、今回は代表的なのものを2つ紹介する。
主な節税チャンス1:医療費控除・セルフメディケーション税制
医療費が年間10万円を超えた場合、医療費控除を利用することで節税する余地がある。10万円を超えなくても、対象となる市販薬を家族の購入分を含めて年間1万2000円を超えて購入した場合、定期健康診断を受けていることなどを条件に、セルフメディケーション税制を利用し、節税できる場合がある。
主な節税チャンス2:損益通算
投資で損をした場合、例えば、購入した金融商品を売却して損したときは、確定申告することにより、最長3年間損失を繰り越すことができる。繰り越すことで翌年以降の利益と相殺して来年以降の節税につながる可能性があるのだ。またこのときに配当金をもらっている場合、確定申告することで源泉徴収された配当金が後から戻ってくる。
まとめ
会社は、収入と支出の内訳と金額を管理し、業務の運営をしている。そのような会社に入社して仕事をするなら、自分自身のお金についても同様に管理できるようになっておきたい。
給与における収入(課税支給合計)と支出(各種控除)の内訳は、明細の数字ですぐに分かる。加えて、控除として差し引かれる、それぞれの社会保障の概要を理解することで、そのメリットを最大限享受できるのだ。さらに、税金の概要を理解すれば状況に応じて節税も可能になるのだ。