エブ・カーボン(Ebb Carbon)共同創業者の4人。左からトッド・ペルマン、デイブ・ヘイグマン、マシュー・アイザマン、ベン・ターベル。
Ebb Carbon
電気自動車大手テスラ(Tesla)、同社傘下の太陽光発電企業ソーラーシティ(SolarCity)、アルファベット傘下の破壊的イノベーション研究機関グーグルX(Google X)という注目テック企業のアルムナイ(元従業員)が集結して設立したスタートアップが、シリーズAラウンドで2000万ドルの資金調達に成功した。
2021年創業、米カリフォルニア州に本拠を置くエブ・カーボン(Ebb Carbon)は、海洋の酸性化を抑制することで、二酸化炭素(CO2)の吸収・貯蔵能力を向上させる新たな「炭素除去」技術の開発に取り組んでいる。
海洋は人間の活動により排出されたCO2の約30%を吸収している。
海洋中に溶けたCO2は炭酸(H2CO3)になり、その際に水素イオン(H+)を放出して海水のpH(水素イオン指数)を低下させるため、CO2を吸収する量が増えるほど酸性化が進むことになる。
国連教育科学文化機関(UNESCO)によれば、産業革命(1750年頃)以降、海洋の酸性度は26%上昇しており、そうした変化がサンゴ類や植物プランクトンの生育を阻害するなど、生物多様性に影響を及ぼす可能性が指摘されている。
そのように海洋酸性化への懸念が高まる中、エブ・カーボンは酸性化を抑制(酸を除去)することで、海水のCO2吸収・貯蔵能力を向上させる電気化学的手法を開発した。
共同創業者兼最高経営責任者(CEO)のベン・ターベル氏は、Insiderの取材に対し、同社の開発した手法は「自然のプロセスを模倣したもの」ながら、自然で起きる作用より「はるかに速いペースで」進行させる仕組みだと説明した。
自然のプロセスでは、雨で生物の遺骸などが海に流れ込んだり、海岸の岩が波に洗われて浸食されたり、それらに含まれる炭酸カルシウム(CaCO3)が海洋に溶け込むことでアルカリ度が上昇し、大気からのCO2吸収(海水への溶解)が促進される。
吸収されたCO2はその後、炭酸イオン(CO3 2-)や重炭酸イオン(HCO3-)の形で海洋中に貯蔵される。
「私たちが開発した手法は、まさにそうした自然の仕組みそのものなのです」(ターベル氏)
ソーラーシティやグーグルで経営幹部を歴任したターベル氏は、圧倒的な実績と能力を持つ3人の仲間とともにエブ・カーボンを立ち上げた。
グーグルのムーンショットラボ「X(エックス)」およびニューヨーク州立大学ストーニーブルック校で10年にわたって続けてきた研究を事業へと発展させた、最高技術責任者(CTO)のマシュー・アイザマン博士。
テスラで車載電池の開発に10年近く携わったエンジニアリング担当バイスプレジデントのデイブ・ヘイグマン氏。
エンジニアリング会社マニュファクトリー(Manufactory)の元CEOでチーフエンジニアのトッド・ペルマン氏。
以上の3人が共同創業者に名を連ねる。
エブ・カーボンは、長さ20フィートの輸送用コンテナ2個に格納された電気化学システムを海水淡水化プラント、製塩工場、養殖施設などに設置。それらの工程から出る排水(濃縮塩水)をシステムに引き込み、酸の除去処理を経て弱アルカリ化して海に戻す。
弱アルカリ化した水を外洋に放出して酸性化を抑制することで、海水はCO2をより吸収しやすくなる。吸収されたCO2は海水中で反応して重炭酸イオンとなり、長期的に貯蔵される。
エブ・カーボンの電気化学システムの仕組み。
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輸送用コンテナはそもそも一種のモジュールだが、それに格納するエブ・カーボンのシステムもモジュール化されている。繰り返し使用できる設計で、適用する工場や施設のサイズに応じた柔軟なスケールアップが可能。
ソーラーシティの製品担当バイスプレジデントを務めるなど太陽光発電分野でキャリアを積んできたターベルによれば、太陽光の場合、コスト低減を図りつつ発電電力量アップを実現するにはモジュール化と大量導入(もしくは大量生産)が不可欠という。
そしてそれは、彼がいまエブ・カーボンを通じて取り組んでいる炭素除去の分野にも同じように通ずる。
また、ターベルによれば、エブ・カーボンの電気化学的手法を使うと、既存の炭素回収・貯蔵ソリューションに比べてエネルギー消費量が少なくて済む。
一般的な二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)の場合、CO2を排気ガスなど他の気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧縮するため、それら一連の処理にエネルギー消費を伴う。
ところが、エブ・カーボンの手法では、CO2回収には(自然に存在する)海面を利用し、アルカリ性の排水を混ぜ、重炭酸イオンの形で(やはり自然に存在する)海水中にCO2を貯蔵するため、エネルギー消費が抑えられる。
同社は、オンライン決済・決済代行プラットフォーム大手ストライプ(Stripe)と、炭素排出権(カーボンクレジット)の事前購入契約を締結している。
エブ・カーボンは同社の電気化学的手法を用いて除去された二酸化炭素の1トン当たり価格を明らかにしていないが、今後5年間で100ドルを「はるかに下回る」水準になると予測する。
カーボンクレジットについては、大手認証機関によって認められたクレジットが温室効果ガスの削減につながっておらず無価値との調査報道が出るなど、最近はその「品質」が問題視されているが、エブ・カーボンの手法を使えば1万年の海洋貯蔵が可能になるとターベルは主張する。
なお、冒頭で触れた同社のシリーズA資金調達ラウンドは、プレリュード・ベンチャーズ(Prelude Ventures)とイヴォーク・ベンチャーズ(Evok Ventures)がリードインベスターを務め、非営利環境団体のグランサム・ファウンデーション(Grantham Foundation)ら複数の投資主体が参加した。調達総額は2300万ドル。
同社はこの資金を活用し、年間100トンのCO2を除去できるシステムを2023年後半に展開する予定。年間1000トン規模のシステム展開も続いて展開していく計画だ。
以下に13枚のスライドから成る投資家向けプレゼン資料を掲載する。
何より「気候変動の潮流を変える」を謳(うた)うのは、同社ウェブサイトと同様。
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国連「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、世界の平均気温上昇を1.5℃に抑えるには、10ギガトンのCO2除去が必要とする。
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現在世界で稼働中の直接空気回収(DAC)プラントで回収できるのは、たったの「0.00001ギガトン」と。
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エブ・カーボンは大気中のCO2除去に「海洋の力」を活用する。
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競争力のあるコストでギガトン規模のCO2を永久除去。海洋を再生させつつ「高品質な」炭素除去を実現。
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数百万年続いてきた自然のプロセスを「電気化学的」手法で高速再現する。
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「塩水を」「電気化学的プロセスでアルカリと酸に分離し」「アルカリ水を海洋表層に戻し」「CO2吸収を促し、海洋中に貯蔵する』流れ。
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既存の多様な産業やインフラと協力して炭素除去を実現。
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エブ・カーボンのシステムイメージ図。本文を参照。
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5年以内に1トン当たり100ドルを切る価格や1万年超にわたる貯蔵期間など、エブ・カーボンの優位性。
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モジュラー化された高効率のシステム。
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