イラスト:iziz
シマオ:皆さん、こんにちは! 「佐藤優のお悩み哲学相談」のお時間がやってまいりました。読者の方にこちらの応募フォームからお寄せいただいたお悩みについて、佐藤優さんに答えていただきます。さっそくお便りを読んでいきましょう。
私は現在38歳の会社員で、4月から小学4年生になった子どもを育てる母親です。最近、子どもにいつスマートフォンを持たせるべきか、もし持たせるにしても、どうルールを設けるかについて悩んでいます。
というのも、子どもが所属するサッカークラブや最近通い始めた塾では、すでにスマホを持っている子どもが大半だと言うのです。
ただ、私としてはスマートフォンの長時間利用や、SNSの利用が子どもの脳や心身に与える悪影響について懸念しています(『スマホ脳』も発売された時期に読みました)。
佐藤さんさんのご意見やアドバイスをいただけると助かります。どうぞよろしくお願いいたします。
(ナナ、30代後半、会社員、女性)
中学受験をするならスマホはまだ早い!?
シマオ:2021年の東京都の調べによると、小学校高学年でスマホを持っているのは全体の約3割、中学生になると約8割だそうです。
佐藤さん:東北大学の川島隆太先生が数年前にスマホを頻繁に使っている子どもの脳が、著しく成長を阻害されていると発表して話題になりました。ナナさんが慎重になるのも頷けます。
シマオ:ナナさんのお子さんは小学校4年生とのことですから心配ですよね。
佐藤さん:ですが、私は判断のポイントは別にあると思います。それはナナさんのお子さんが中学受験をするのか、しないのかということです。それによってかなり違いがあると思います。
シマオ:中学受験ってだいたい4年生から入塾するって聞いたことがあります。
佐藤さん:そうですね。塾用語で「新4年生」と言いますが、3年生の2月に入塾する人が多いです。だいたい、小学校4年生なら平日で1日3時間の勉強が必要で、6年生になると1日5時間、休日は12時間の勉強が必要になると思います。
シマオ:はぁ……。なんだかため息が出ますね……。
佐藤さん: 1日は24時間しかありません。中学受験となると、学校に行く時間、塾に行く時間、自分で勉強する時間と必要な時間が増えていきます。スマホでYouTubeやTikTokを見たり、LINEをやったりしていたら、とても受験どころじゃなくなりますよ。
シマオ:サッカークラブも入っているということですから、なおさらでしょうね。まず時間という点でスマホは難しいということですね。
「小学生の三種の神器」
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佐藤さん:結論としては、中学受験をするならスマホではなくてキッズ携帯が一番いいと思います。それもスマホじゃなくてガラケーです。
シマオ:ガラケーですか!
佐藤さん:そうです。ガラケーのキッズ携帯だと、登録しているところにしか電話ができません。あとはGPS機能や防犯ブザーがついている。子どものリスク管理という点でもガラケーは最適なんです。本体が3000円から4000円くらいからで、月500円とか600円と通信料も格安です。
シマオ:LINEとかTikTokはできないんですか?
佐藤さん:ガラケーなので一切できません。だからいいんです。今の子どもは勉強中もゲーム中もLINEで通話をつなげたままやるようですが、とても集中できないでしょう。
シマオ:小学生ならなおさらでしょうね。でも、中学生になってもガラケーのまま……ってことでしょうか?
佐藤さん:いえ、中学生になったらさすがにガラケーでは可哀想です。もう周りもほぼスマホを持っていますから、話についていけなくなる。友達関係を維持する上でも必須になります。ただ、小学生ならキッズ携帯と、その他2つのデジタルデバイスを貸してあげるのがいいでしょう。
シマオ:他2つ……何でしょう?
佐藤さん:中古の安いPCかタブレット、そしてゲームをする子ならNintendo Switchです。
シマオ:えぇ!? どういうことでしょう?
佐藤さん:スマホだと自分で持ち歩くので、親の目が届かなくなります。その代わりに、まず中古の安いPCやタブレットを居間に置き、子どもが使う時は必ず親の目が届くところで使わせるようにするのです。その上で、1日1時間半とか2時間とか使用時間のルールを設けることが大事です。
シマオ:しっかり時間を管理するという意識を子どもの頃から身につけさせるということですね。でも、なかなか子どもにとって時間を守るのは難しくないですか? 特にゲームなど始めるとのめり込んでしまうと思いますが……。禁止にする家庭もありますよね?
佐藤さん:実はそれも微妙なんですよ。今の小学生は『マインクラフト』や『スプラトゥーン』といったゲーム上で、互いにコミュニケーションを取っていますから。完全に禁止にするとストレスになってかえってよくない。これも親が目の届くところでやらせて、時間管理の意識を持たせるということだと思います。
シマオ:勉強もしなきゃいけないし、友達付き合いやいろんな誘惑も多い。今の子どもは大変ですね……。
佐藤さん:ゲームでもう一つ怖いのは、ガチャがある課金制のスマートフォンゲーム、いわゆる「ソシャゲ」にハマって、とんでもない請求を突き付けられることです。その点、Nintendo Switchならゲーム内課金はほぼありません。そういう意味で、キッズ携帯とPC、Switchは「小学生の三種の神器」と考えていいと思います。
シマオ:小学生の三種の神器! なるほどなぁ。通信やゲームを完全に禁止するのではなく、いまの子どもたちの環境に合わせたルールを決めて、その範囲で許すということですね。
あくまで親のモノを子どもに貸す形に
佐藤さん:時間管理を身につけさせる上で、有効な方法も提案しておきましょう。携帯もPCも、あくまで親のものを子どもに貸しているという形にするのです。
シマオ:買い与える訳ではなく?
佐藤さん:そうです。携帯だってPCだって親がお金を出して買っていることは確かですから、親のものでしょう。親の所有しているものを、例えば12時から20時までの時間だけ子どもに貸している、という形にするのです。
シマオ:なるほど、子どものものとして最初に与えると、「なんで自分のモノなのに自分で好きにできないの?」という気持ちになりますもんね!
佐藤さん:そうです。それで子どもがルールを破ったらしばらく取り上げるとか、そういうペナルティを最初に設定しておく。感情的に怒ってはいけません。そして、前提として親自身も約束を守ることが大事。まだ子どもに貸している時間なのに早めに取り上げたりしない。お互いがルールを守るということが大事だと思います。
シマオ:子どもも親もルールを決めて生活する。それ自体が教育になる訳ですね!
アップロードの危険性を子どもにしっかりと伝える
佐藤さん:スマホについては、SNSなどがどんな影響を及ぼすか、親自身が知っておく必要があります。その上で、子どもにも通信ツールの危険性を伝えることです。
シマオ:SNSを通じておかしな人と出会ったり、事件に巻き込まれたりする場合もありますね。
佐藤さん:とくに自分の情報をアップロードする危険性を教えないといけません。うかつに自撮りの動画をTikTokにアップして、部屋や家の周りが映り込んでいたりすると、そういうものを頼りにして住所が特定されてしまう危険性があります。
シマオ:うわぁー……そう考えると怖い世の中ですね。
佐藤さん:世の中には小学生など子どもを狙う小児性愛者のような人物がいますから。彼らのような危険人物が、鵜の目鷹の目でTikTokやYouTubeに目を光らせていることを認識すべきです。あとは、自分が危険な目に遭うだけではありません。アップロードした情報が、思いがけず他人を傷つけたり、悲しませたりすることだってある。
シマオ:誹謗中傷なんかはまさにそうですよね……。その結果、命を絶ってしまう人もいます。
佐藤さん:その通りです。親は情報の怖さ、危険性というものを子どもにもちゃんと伝えないといけません。少なくとも画像や動画などをアップロードするのは中学生になってからでしょう。
シマオ:SNSで情報が溢れている時代だからこそ、気をつけなきゃいけないことがたくさんあるということですね。ナナさん、ぜひ参考にしていただき、お子さんと一緒にルールをしっかりと決めてみてください。
「佐藤優のお悩み哲学相談」、そろそろお別れのお時間です。引き続き読者の皆さんからのお悩みを募集していますので、こちらのページからどしどしお寄せください! 私生活のお悩み、仕事のお悩み、何でも構いません。それではまた!