「いま最も発行部数が多い女性誌は?」と尋ねられたら、みなさんは何と答えますか?
『LEE』『VERY』『SOTRY』をはじめ女性誌のカテゴリーには数多くの媒体がひしめいていますが、実はこれらから抜きん出てダントツで売れているのが、『ハルメク』という雑誌です。
『ハルメク』は、「50代以降の女性の心豊かな生き方・暮らし方を応援する」をコンセプトにした月刊誌です。特集、ファッション、健康、レシピ、手づくり、インタビューといった生活全体にかかるテーマを幅広く扱い、シニア女性の不安や不満、期待に応えるコンテンツにフォーカスしています。
2018年には20万部だった定期購読者数はその後も順調に成長を続け、2022年にはついに50万部を突破しました。
日本雑誌協会のデータによれば、女性向けヤングエイジの代表的なファッション誌『CanCam』の発行部数は約6.7万部、女性向けミドルエイジ誌で最も売れている部類の『婦人公論』で14.7万部、『クロワッサン』で12.4万部、その他の女性誌もだいたい3~10万部前後です。週刊誌でも『週刊文春』が47万部、『週刊ポスト』が30万部であることを踏まえると、『ハルメク』の発行部数がいかに多いかイメージできるでしょう。
この雑誌『ハルメク』を出版する株式会社ハルメクホールディングス(以下、ハルメク)が、2023年3月に上場しました。
出版不況と言われて久しいなか、なぜこれほどの成長を実現できているのか、同社のビジネスモデルにはどんな秘密があるのか。今回はハルメクについて会計とファイナンスの視点から考察していくことにしましょう。
儲けの肝は雑誌ではない
まずはハルメクの売上と利益構成から見ていきましょう(図表2)。
(出所)ハルメク「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」より筆者作成。
売上収益は前年比12.5%増と堅調に伸び、利益もしっかりと確保できています。本連載ではこれまで、広告宣伝費等をガンガン使って売上を伸ばす一方で利益は赤字、という成長著しいスタートアップの事例をいくつも見てきましたが(一例としてSlackやfreeeをご参照ください)、ハルメクはそういったタイプとは一線を画し、利益を出しつつしっかりと成長している印象を受けます。
財務状況のアウトラインを確認したところで、ハルメクの事業内容を詳しく見ていきましょう。
先述のとおり、雑誌『ハルメク』の読者ターゲットは50代の女性です。ターゲットは明確ですが、それにしてもなぜこれほど売上が伸びているのでしょうか?
実はハルメクは、雑誌だけでなくWebメディア、物販、コミュニティを上手に掛け合わせることで事業を伸ばしています。
定期購読50万部を誇る女性誌『ハルメク』を軸に、月間600万PVを超える「ハルメクWeb」、シニア女性の声を反映させたオリジナル商品を展開するD2Cモデルでの物販、さらには、シニア女性に「つながりの場」を提供するオフラインとオンラインのイベント・講座・旅行までを手がけています。
(出所)ハルメク「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」p.12より。
そう聞いて、この連載を以前からお読みくださっている読者の方の中には、「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコムを思い出した方がいるかもしれません。
ターゲットは違っても、たしかにハルメクとクラシコムには共通点があります。クラシコムはWebメディアを中核に据えてD2Cのビジネスモデルで成長してきました。一方のハルメクは、雑誌とWebメディアを中核にして50代シニア女性向けにD2Cで物販を伸ばしています。
また、同じく本連載で過去に取り上げたスノーピークとも、ハルメクは重なる部分があります。熱狂的なファンが多いスノーピークは、オフラインでのイベントを通じてユーザーとつながり、そのコミュニティを大切に育てています。ハルメクも同様に、オンラインとオフラインの両方を通じて、会員のコミュニティを大切にしています。
ハルメクのビジネスモデルの全体像を捉えたものが図表4です。
(出所)ハルメク「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」p.13より。
図表4にあるとおり、主に雑誌『ハルメク』が起点となり、通販や旅行・イベントに送客をしているのです。このように、ハルメクは50代女性にとって、知りたい情報に触れ、買い物をし、旅行やイベント等に参加するためのプラットフォームになっています。しかも、「雑誌とWeb」「通販と店舗」というように、オフラインとオンラインを上手に組み合わせながら展開しているのも興味深い点です。
図表5は、ハルメクの売上構成を示したものです。
(注)会計処理の一部についてはIFRSとは異なる処理がなされているため、売上の合計額は図表2の値とは一致しない。また「先行投資」とは、店舗、靴、新聞単品外販、ハルメクWEB/365、終活、株式会社ハルメク・エイジマーケティングおよびハルメク・ベンチャーズ株式会社事業に関するもの。
(出所)ハルメク「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」より筆者作成。
いかがでしょうか。ハルメクの売上収益約250億円のうち、51%を物販が、26%を全国通販事業が占めています。つまり、ハルメクは物販で収益全体の78%を稼ぎ出しているということです。
なお全国通販事業とは、新聞広告などで集客した顧客へ通販カタログ『ことせ』を送付し、通販で商品等を提案・販売する事業のことです。『ことせ』もハルメクにおけるD2Cや店舗での物販事業と同じくシニア女性をターゲットとしていますが、扱う商品の価格帯が低いことから、ハルメク事業の顧客属性とは棲み分けができています。
このようにハルメクの事業としてのすごさは、「女性誌の中で発行部数No.1」もさることながら、物販で大きく売上を上げている点にあります。
このことは簡単なシミュレーションをしてみると分かります。
雑誌『ハルメク』の年間定期購読料は6960円(1冊あたり580円)です。直近の購読者数は50万人ですが、2022年3月期における12カ月の平均はだいたい40万部だと仮定しましょう。
これを単純計算して、1人あたり年間購読料が7000円、年間で40万部売れたとすると、雑誌による売上は年間28億円です(実際、図表5で「情報コンテンツ」の売上は28億円ほどです)。
つまり、「女性誌の中で発行部数No.1」とは言うものの、売上収益250億円超に占める情報コンテンツ(雑誌販売を含む)の割合は、全体のわずか10%強しかないのです。
このことから、ハルメクは女性誌を発売している従来型の出版社とはビジネスモデルが根本的に違うことが分かります。要するにハルメクは、実質的には出版社というより、クラシコムのような物販事業で儲けている会社だということですね。
実はブルーオーシャンだった50代女性
では、ハルメクはなぜ50代の女性をターゲットにしているのでしょうか。
高齢化が進む日本では、これまでも多くの企業がシニア市場に目をつけてきました。しかし、その多くがターゲットにしていたのは「介護」「葬式」「お墓」といった、終活とも関連するようなケアシニア市場でした。
しかしハルメクは、それとは違うマーケットが存在することに気づきました。
図表6は、ハルメクが上場申請のために提出した有価証券報告書からの抜粋です。横軸に年齢、縦軸に健康状態をとった場合、ハルメクがターゲットとしているのは50代以上の、健康で自立している「プレシニア市場」。このセグメントは競合が少ない“ブルーオーシャン”だと、ハルメクは見抜いたのです。
(出所)ハルメク「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」p.18より。
50代未満女性と50代以上女性の割合は、2020年を境に逆転しています(図表7)。つまり、50歳以上の健康で自立している層はブルーオーシャンであるうえに、今後さらなる市場の拡大が見込めるということです。
(出所)ハルメク「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」p.17より。
ただし、このブルーオーシャンを開拓するには従来のシニアの概念を捉え直す必要があります。
従来、シニア女性に対しては次のような「思い込み」が存在してきた、とハルメクは考えています(※1)。
- 時間やゆとりがある
- おしゃれや美容への関心が薄い
- 和食が好き
- 恋愛しない
- 割引やお得になびきやすい
- 孫が大好き
これをご覧になって、皆さんもなんとなく共感できるのではないでしょうか。ハルメクも過去には実際にこうした認識を前提にしてコンテンツづくりをしていた時代があったといいます。しかし発行部数はまったく伸びませんでした。
これではプレシニア層である50代女性のインサイトを掴めていないと痛感したハルメクは、「わかった気にならない」というポリシーのもと、以下のような施策を通じて顧客の声を収集することにしたそうです(※2)。
- お客様からのはがき(雑誌によるもの:月平均約3000枚、商品によるもの:月平均約1000枚)
- お客様センターへ寄せられる声(月平均約2万件)
- アンケート調査(紙面調査16回、インターネット調査90回)
- 座談会(48回)
- モニターによる試作品の使用
- 顧客宅の訪問調査
- グループ社員によるイベントへの参加
こうした施策を通じて顧客をより深く理解したハルメクは、ターゲット読者が本当に求めるコンテンツを雑誌、Web、通販、コミュニティを通じて提供するようになりました。こうした深い顧客理解があるからこそ、ハルメクは強みである物販で大きく収益を稼ぐことができているのです。
なお、雑誌『ハルメク』は書店販売はしておらず、自宅へ配送される定期購読のみです。こうすることで、サブスクリプションを通じて安定的にキャッシュが入ってくるうえ、顧客属性をとることができます。特にハルメクはマルチメディア戦略をとっていますから、定期購読のみに絞ることで顧客属性を取得できる点はメリットが大きいと言えるでしょう。
顧客獲得チャネルはあえて「新聞」中心
一方で、いくらブルーオーシャンとはいえ、顧客を獲得するには相応の広告やマーケティング戦略が必要になります。ハルメクはどのように顧客を獲得しているのでしょうか。
以下は、ハルメクの新規顧客獲得チャネルの内訳です。直近の2022年3月期では折り込みチラシ、Web、テレビといったチャネルの割合も増えてきているとはいえ、やはり一番目につくのは「新聞」です。
この連載で過去に取り上げたメルカリ、Slack、freee、BASEなども売上の多くを広告宣伝費に注ぎ込んでいましたが、IT企業なだけに広告の出稿先もWebが中心でした。一方ハルメクの場合は、ターゲットとしている顧客へのリーチのしやすさを考えていまだに新聞が重要な役割を果たしている点は興味深いです。
(出所)ハルメク「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」p.19より。
なお、ハルメクの売上に占める広告宣伝費の割合は上昇しているものの、それでも10%台に収まっている。
(出所)ハルメク「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」をもとに筆者作成。
ファンコミュニティを基盤に据えてビジネスを展開しているスノーピーク、クラシコム、ワークマンなどの場合は、売上に占める広告宣伝費の割合は1ケタ台でした。一方、成長著しいメガベンチャーなどは売上の30〜50%を広告宣伝費に注ぎ込むこともめずらしくありません。ハルメクはちょうどその中間、つまり適切に利益が出る範囲で広告宣伝費を使いながら成長するという、絶妙なバランス感覚を保っています。
いやむしろ、先述したように売上収益の70%以上を物販で得ていることを考慮すれば、売上に占める広告費の割合は少ないほうかもしれません。というのも、ECでは店舗を持たない分、認知を高めるために売上の20%以上を広告宣伝費にかけることもめずらしくないからです。
財務CFのキャッシュアウトが多いのはなぜ?
次に、ハルメクのキャッシュフローについて確認してみましょう。直近の決算である2022年3月期のキャッシュフロー計算書は次のようになっています。
(出所)ハルメク「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」をもとに筆者作成。
期初は18.5億円のキャッシュを持ち、営業キャッシュフロー(CF)は8.8億円と本業からしっかりとキャッシュを生んでいます。そしてシステム投資やオフィス増床に伴う投資を行うことで、投資CFは7.7億円のマイナスとなっています。
営業CFと投資CFを合計したフリーキャッシュフローは1.1億円であることから、事業活動を通じて問題なくキャッシュを生めています。一方で、財務CFのマイナス9.9億円が大きく響き、結果として期末のキャッシュ残高は9.7億円と、期初の半分ほどになっています。
ハルメクの売上高は前述のとおり年間250億円超であり、1カ月に直すと20億円ほどです。一方、販売費及び一般管理費(販管費)は年間108億円ですから、1カ月当たりに直すと9億円になる計算です。
ということは、ハルメクは2022年3月末時点で、1カ月分の販管費相当のキャッシュしか持っていないことになります。これは資金繰りとしては決して余裕がある状況とは言えません。
なぜハルメクは、キャッシュが十分とは言えない状況のなか財務CFで9.9億円もキャッシュアウトしているのでしょうか?
その疑問の答えを探るために、今度はハルメクの貸借対照表(B/S)を見てみましょう(図表11)。
(出所)ハルメク「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」をもとに筆者作成。
2022年3月期のハルメクの総資産は183億円です。その中でキャッシュが占める割合はわずか5%ほど(10億円弱)にすぎません。
代わりに何が大きな割合を占めているかと言えば、「のれん(45億円)」と「無形資産(63億円)」です。この2つだけで合計108億円もあります。また、負債の部で割合が大きいのは「借入金(56億円)」となっています。
この、のれんと無形資産の正体とはいったい何なのでしょうか?
実はここにこそ、今回上場したハルメクの歴史と、財務CFが大きくなっている要因が隠されているのです。
民事再生からの復活
その謎解きにあたり、ハルメクの成り立ちを振り返っておくことにしましょう。
ハルメクの前身は、1989年に設立されたユーリーグ株式会社です。このころすでに、50代以上の女性が「いきいきと生きること」を支援するというコンセプトのシニア女性向け定期購読誌『いきいき』を発行し、通販事業も手がけていました。
しかし同社は、不動産等への過大投資により事業が立ち行かなくなり、2009年に民事再生法の適用を申請します。この際、プライベートエクイティファンドのJ-STARがいきいき株式会社(以下、旧いきいき)を設立し、ユーリーグから旧いきいきへ事業譲渡が行われました。
その後の事業再生は順調に進み、ノーリツ鋼機の子会社であるNKリレーションズが2012年に旧いきいきの株式を取得、吸収合併したことで、新たにいきいき株式会社が誕生します。2016年には商号を株式会社ハルメクに変更しました。
さらに、ガバナンス強化を目的に持株会社化に踏み切り、株式会社ハルメクホールディングス(以下、旧ハルメクホールディングス)が新設されました。
2020年7月には、現ハルメクの宮澤孝夫社長が旧ハルメクホールディングスをマネジメント・バイアウト(MBO)する目的で株式会社HLMK2を設立、2020年8月に旧ハルメクホールディングスを買収しました。このHLMK2が商号変更したのが、現在のハルメクです。
(出所)ハルメク「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」p.1より。
ここでMBOとは、経営陣が会社の株式を取得することを言います。MBOの有名な事例としては、出版社の幻冬舎やCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)などが挙げられます。
ハルメクのケースで言えば、MBO以前はNKリレーションズが主要株主でしたが、MBOを経て現在は宮澤社長ら経営陣が主要株主となっています。
このMBOによる事業譲渡価格は、報道によれば105億円(※3)。この金額の大部分こそが、現在のハルメクのB/Sに計上されているのれんと無形資産の主な正体というわけです。
さて、いまサラッと「譲渡価格が105億円」と書きましたが、経営陣がお金を持ち寄ったとしても105億円をかき集めるのは極めて困難です。
そのため、このMBOではレバレッジバイアウト(LBO)という金融手法も使われています。LBOとは、企業を買収する際に、買収先の企業が生み出すキャッシュフローを原資に借入を行うものです。今回のケースで言うと、MBOに際して、旧ハルメクホールディングスが生み出すキャッシュフローを担保にして、みずほ銀行が融資を実行しました。
LBOの詳細は不明ですが、ハルメクの「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」によれば、2022年3月にみずほ銀行を中心として融資が締結されています(図表13)。MBO兼LBOが行われたのは2020年8月であることから、今回の上場を見据えておそらく2022年8月に融資契約が再度締結された可能性が高そうです。
(出所)ハルメク「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」p.41より。
図表13にあるように、タームローンはAからCまで3本あります。このうち、タームローンAとタームローンCの合計額は約28億円、返済期限は2026年7月で分割弁済となっています。
借入をしたのは2022年3月ですから、返済期限は約4年。ということは、28億円÷4年で毎年7億円の弁済が発生する計算です。
実はこの毎年7億円の弁済が、先ほど見てきた財務CFのキャッシュアウト9億円の大部分を構成しているのです。
「せっかくMBOを通じて経営陣が株式と経営権を取得できたのだから、LBOを通じてキャッシュの多くを銀行に持っていかれるのは割に合わないのでは?」
ファイナンスに詳しい読者の方なら、そんな疑問を持つるかもしれません。ですが、このLBOがあったおかげでMBOを実現することができたとも言えます。
また、ハルメクは今年3月に上場し、時価総額の初値は202億円となりました。2020年のMBO時の事業譲渡価格は105億円ですから、時価総額はわずか3年で2倍近くに増えたことになります。そしてこれらの利益の多くは、ハルメクの株主である経営陣や従業員の手に渡るわけですから、的を射た意思決定だったと言えるのではないでしょうか。
あらゆる財務戦略を駆使してきたハルメク
今回は、女性誌で発行部数No.1の雑誌『ハルメク』を出版し、今年3月に上場を果たしたハルメクを取り上げました。出版不況をものともせずに発行部数を伸ばしていることは驚きですが、意外にも収益の基盤は出版ではなく、物販であることが分かりました。
50代以上の女性をターゲットにするというブルーオーシャンを開拓してきた同社ですが、ここまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。
ハルメクの前身であり、1989年に設立されたユーリーグは、民事再生を経てプライベートエクイティファンドに買収されました。その後、音響機器の開発・販売等を手がけるノーリツ鋼機の子会社に買収。最終的には、経営陣によるMBOとLBOを活用して、経営陣および従業員が株主となって独立するとともに上場、という道のりをたどっています。
この連載で過去に扱ってきた新期上場企業といえば、クラシコムとベースフードが挙げられます。前者は、上場前の株主はわずか4人で親族が中心であり、上場まで16年かかっています。ベースフードはベンチャーキャピタルから多くの資金を調達して、5年という短期間で上場を果たしました。
今回のハルメクは、これら2社とは異なり、民事再生やMBOを経ての上場です。MBOからの上場はわずか3年ですが、もともと事業を行っていたユーリーグまでさかのぼれば今回の上場まで34年かかっている計算になります。
企業を分析する際には、事業戦略に注意が向きがちですが、事業戦略と同じくらい重要なのが、実は財務戦略です。今回取り上げたハルメクは、過去の民事再生、プライベートエクイティファンドによる買収、事業会社による買収、そしてMBOとLBO、さらには上場と、まさに財務戦略における重要なことをすべて経験してきています。この経験は間違いなく、今後の同社の成長の糧になるはずです。
「50代以上の女性」というブルーオーシャンを開拓し、成長を続けるハルメクが今後どのような財務戦略を繰り出してくるのか、ひきつづき注目していきましょう。
※1 ハルメク「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」p.21を参照。
※2 ハルメク「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」p.21を参照。
※3 石居岳「シニア通販の雄『ハルメク』がMBO、ノーリツ鋼機から独立へ」インプレス、2020年8月5日。
村上 茂久:株式会社ファインディールズ代表取締役、GOB Incubation Partners株式会社フェロー。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。跡見学園女子大学兼任講師。経済学研究科の大学院(修士課程)を修了後、金融機関でストラクチャードファイナンス業務を中心に、証券化、不動産投資、不良債権投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資業務等に従事する。2018年9月よりGOB Incubation Partners株式会社のCFOとして新規事業の開発及び起業の支援等を実施。加えて、複数のスタートアップ企業等の財務や法務等の支援も手掛ける。2021年1月に財務コンサルティング等を行う株式会社ファインディールズを創業。著書に『決算書ナゾトキトレーニング』『一歩先の企業・株価分析ができる マンガでわかる 決算書ナゾトキトレーニング』(ともにPHP研究所)がある。