自力で億万長者になった31歳のベンチャーキャピタリスト、「限りある時間」自覚した1枚のスプレッドシート

ティングス・キャピタル(Tings Capital)

ティングス・キャピタルの創業者、モーリス・ン氏(右から2番目)とその家族。2021年撮影。

Maurice Ng

モーリス・ン(Maurice Ng)氏が29歳の時に会社を辞めてベンチャーキャピタリストになるきっかけとなったのは、シンプルな一枚のスプレッドシートだった。

2020年初頭、ン氏はシリコンバレーのソフトウェア会社で6桁の給料をもらうという、夢のような仕事を手に入れた。しかし、世界的なパンデミックによって彼の人生設計は台無しになってしまう。サンフランシスコの新しいアパートで暮らすどころか、脱出したはずの場所であるニューヨークの実家に戻り、眠れぬ夜を過ごすことになった。新型コロナウイルス感染症が引き起こした緊急事態が、彼のゴールデンステート(編注:かつてゴールドラッシュに沸いたカリフォルニア州の愛称)での計画を狂わせてしまった。

「人生が一時停止したように感じました」とン氏は当時を振り返る。

「サンフランシスコのテック企業で働き、新たな生活がスタートしたと思ったら、振り出しに戻ってしまったのです。再び両親と暮らすようになり、ストレスを感じていました」

ある夜、午前2時を過ぎた頃、ン氏は「時間」について考え始めた。我々が使える時間がいかに少ないか、自分に与えられたわずかな時間でどれだけのことを成し遂げられるのか。普通の人からすれば、朝には忘れてしまうような、まどろみの中での思索に過ぎなかったもしれない。しかし、銀行員やプライベート・エクイティ投資家としての経験を持つ彼は、この難題について徹底的に考え抜こうと数字に注目した。

彼はノートパソコンでExcelを開き、「ライフカリキュレーターV.1.xlsx」というタイトルのスプレッドシートを作成した。あらゆる問題に立ち向かうために彼が磨き上げてきた方法、つまり財務モデルを作成することでこの問題に立ち向かうことにしたのだ。

2020年3月、世界が動きを止めたとき、多くの人が自分の人生や仕事について再考を迫られた。ン氏はまだ若かったが、自分に残された時間は有限であることを悟った。このことが、人生の目的、そして生きている時間をどう過ごしたいのかという思いに影響を与えた。

起業家を支援するために新たに1億ドルのファンドを立ち上げることを計画しているン氏は、ベンチャーキャピタルの歴史上最も不安定な時期に、この業界に足を踏み入れようとしていた。バリュエーションが下がって、ディールの件数が減り、金融危機もまだくすぶっている。しかし彼は不確実な事態には慣れていた。

自分に与えられた時間を計算

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