Yコンビネーターの話題のAIスタートアップたちに、投資家らが殺到している。
Courtesy of OpenAI
シリコンバレーで最も有名なインキュベーター、Yコンビネーター(Y Combinator:YC)のデモデイ(起業家たちが研修の最後に投資家たちの前でプレゼンするイベント)が行われてからまだ日が浅いが、すでに投資家たちはこれらのスタートアップに投資しようと奔走している。
YCの直近のコホートである2023年冬期の参加企業の中では、すでに多くのスタートアップが名だたるVCからの投資を獲得していることが、Insiderの取材で明らかになった。
AIの中でも特に今回大幅に増えているのはジェネレーティブAIに特化したスタートアップで、これらの企業は投資家から最も高い関心を集めている。
VCらは、この分野が過剰な注目を浴びていることによる影響が多いのではないかという。
エマージェンス・キャピタル(Emergence Capital)のゼネラル・パートナーであるジェイク・セイパー(Jake Saper)は、「ジェネレーティブAIという魔法の粉(pixie dust)をピッチに散りばめた企業は、他社より話題性があるようです」と述べ、YCのスタートアップの多くが、当初考えていたフォーカスからジェネレーティブAIにシフトしたという。
AIに懐疑的な人々でさえ、この熱狂は、実際の使用例や技術的な進歩に下支えされていると考えている。
「この技術を使って難題を解決する企業が将来重要な企業になるわけですから、この分野に熱狂的になるのも頷けます」(セイパー)
ジェネレーティブAI熱
VCが共通して話題にしているのは、アプリケーションとインフラの両方の領域のジェネレーティブAIのスタートアップだ。
アプリケーションの側では、カスタマーサポート向けのChatGPTを手がけるユマ(Yuma)がグラディエント・ベンチャーズ(Gradient Ventures)とファースト(Frst)から資金を獲得したと、この件について直接知る人物が明かす。
ラッソAI(Lasso AI)は、ChatGPTとコンピュータービジョンを使いGoogle Chrome上のタスクを自動化するサービスを提供する企業だが、イニシャライズド・キャピタル(Initialized Capital)からすでに資金を獲得したという。また、医療系AIスタートアップのレイテント(Latent)がゼネラル・カタリスト(General Catalyst)から資金調達したように、生成AIの業界特化型の実例も続々と出てきているという。
ジェネレーティブAI技術を活用したデータ管理や分析は、ターンテーブル(Turntable)やアウターベース(Outerbase)といったYC支援のスタートアップがフォーカスしている分野だ。アーリーステージ投資家でギットハブ(GitHub)の元CEOであるナット・フリードマン(Nat Friedman)は、この分野に賭けてターンテーブルに投資したと、ディールに詳しい3人の人物は言う。ターンテーブルの資金調達後の評価額は2200万ドル(約29億円、1ドル=134円換算)だったという。
エンジニアがAIモデルをより効率的にトレーニングし、最適化し、実装し、AIモデル上に構築することを目指すインフラ系スタートアップや、開発者向けツールを手がけるスタートアップもまた、VCの間で人気だ。
3人の情報筋によると、顧客のリアルタイムデータを使いジェネレーティブAIモデルをカスタマイズするスタートアップであるチマ(Chima)をめぐっては、激しい競争の末、最終的に投資家のイラッド・ギル(Elad Gil)が主導することになったという。
また、4人の関係者によると、企業のAIによるレコメンドシステムの改善を支援するラバー・ダッキー・ラボ(Rubber Ducky Labs)は、ベイン・キャピタル・ベンチャーズ(Bain Capital Ventures)から投資を受け、資金調達後の評価額は1500万ドル(約20億円)になったという。
評価免責
VCによると、AIは以前の最高値から評価額が下落しなかった分野の1つであるという。
ラックス・キャピタル(Lux Capital)のグレイス・イスフォード(Grace Isford)はInsiderの取材に対し、今回のスタートアップ企業の多くは、2022年の標準的な評価額から「若干圧縮した」評価額で投資家にアピールしていると語った。
これらのスタートアップは一般的に、2000万ドル(約27億円)の評価額で200万ドル(約2億7000万円)のシードラウンドというスイートスポットに位置しているとイスフォードは言う。ただ例年であれば、同じ企業が3000万ドル(約40億円)の評価額で300万ドル(約4億円)近くを調達していただろうとも語る。
とはいえ、AIは投資価格がそれほど低下していない分野の一つだという。
また、現在のダウンマーケットにおいて、今回のYCのスタートアップ企業のバリュエーションは高すぎると懸念する投資家もいたが、特に話題性のある企業が高いのは許容範囲とする投資家もいる。
「これまでも、YCのスタートアップ企業には常に他とは異なる価格設定がされてきました」と、デモデイに参加した別のシード投資家はInsiderに語る。彼らは「自分たちが求める希薄化(編注:増資などによって1株あたりの価値が低下すること)に見合う価値がある」と自信を持っているのだという。