就活における身だしなみマナーに潜む性差別を撤廃するよう、かねてより活動を続けてきた団体が、文部科学省に署名を提出した。団体の趣旨に賛同した人は3万2000人を超える。
ジェンダーレスな制服や水着の活用が進む一方で、なぜ就活は古い価値観のままなのか? 日本のジェンダーにまつわる多様性が「子どもの福祉」に矮小化されているという指摘もなされた。
「女らしさ」「男らしさ」の就活マナー撤廃を
文科省で行われた会見にて。署名発起人の水野優望さん(左)と、マナー講師の篠原匡朱子さん(右)。
撮影:竹下郁子
団体は4月25日に文部科学省の担当者に署名3万2968筆を手渡し、記者会見を開いた。
団体が文科省に求めたのは、就活の解禁時期などのルールを経団連と共に協議する大学などの関係者団体「就職問題懇談会」が大学や企業らに対して出している「申合せ」に、以下の内容を盛り込むことだ。
〈全国の高等教育機関向け〉・学生一人ひとりのジェンダー・アイデンティティを尊重すること
・特定のジェンダーに紐づけた性差別的・抑圧的な服装やマナーの押し付けをしないこと
・教育機関でのキャリア教育に外部講師を招く場合、性差別をしない講師を選出すること
〈採用側事業者向け〉・採用選考において、学生が自らのジェンダー・アイデンティティに合った服装や、性差別的・抑圧的な服装やマナーに従わない服装で参加していることを理由に減点をしないこと
これまでの申合せには就活中のハラスメントの禁止や、学生が持つ多様性を尊重するよう促す文言はあるが、より具体的な記述に落とし込んで欲しいという。
大学がブラックボックスになっている
女子学生にはメイクやヒールパンプス、くびれを強調したリクルートスーツで美しさを求める一方、男子学生には短髪・髭剃り、強さや出世を意識したような指導がなされる……団体らはこれまでスーツメーカーや就活大手、出版社などに、こうした男女二元論に支配された性差別的な就活ルールである「就活セクシズム」の押し付けをやめるよう、抗議を続けてきた。
署名発起人の水野優望(ゆみ)さんは記者会見で、
「大学のキャリアセンターや生協にはこうした性差別的な大手スーツ販売店のパンフレットや就活指南本が置かれていたり、大学や大学が招いたマナー講師による画一的な指導がなされていますが、学生以外からは見えずブラックボックスになっています」
と指摘。文科省が行動することの重要性を強調した。
子どもの多様性認めるが、就活生はそうならない矛盾
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国際基督教大学(ICU) の前学生部長である加藤恵津子教授は会見に寄せたコメントで、文科省が2010年代からトランスジェンダーの児童へのきめ細やかな対応を全国の学校に要請してきたこと、また24色のランドセルやジェンダーレスな制服、そして最近大きな話題になったジェンダーレスのセパレーツ水着の販売と導入など企業や学校の取り組みを例にあげ、「就活生たちに同様の姿勢を見せないのは、二重規範であり、矛盾」だと批判した。
「就活生のための24色のオールジェンダー・デザインのスーツや靴が売り出されないのはなぜでしょうか。
私には、性の多様性が、日本では『子供の福祉』の問題に矮小化されているからだと思われます。つまり社会の主流を占める異性愛男性にとって、相手が自分の保護下にある子供のうちは多様性も認めるが、自分と対等な成人になったら、男女二元論と『らしさ』に当てはまらない存在は、危険で面倒な対象に変わるのでしょう。
それゆえ女子学生は、タイトなボディ・ラインのスーツやメイクで、性的な存在であることを証明するよう、また LGBTQ+の学生は『男女どちら』なのかを完璧に示すよう、一方的に要求されます。
グローバルな流れに逆行して、就活生を相手に異常なまでに横行するセクシズムを、日本政府にはぜひ禁じていただきたいと思います」(加藤教授)