ASUSは、日本で2023年春夏向け製品として31製品74モデルを発表した。
撮影:小林優多郎
4月9日、調査会社IDCの発表した2023年第1四半期のPCの市場シェアに関する推計が、PC業界に大きな反響を起こした。
調査結果によると、2023年第1四半期の世界全体のPC出荷台数は約5690万台で、前年同期比で29%の縮小。縮小幅が大きい順で、シェア4位のアップルが40.4%減、3位のデルが31%減。ASUSとLenovoも30.3%減と、大幅な出荷減が各社を直撃している。
IDCはこのような在庫過多と販売不調は「潜在的に第3四半期まで続く」としており、次の「回復」の波は「企業によるWindows 11への移行」のタイミングとしている。
「価格競争を避ける」方針に舵を切りたいASUS
ASUSは世界5位のPCメーカーだ。
撮影:小林優多郎
そんな厳しい環境の中、台湾のPCメーカーで、世界シェア5位のASUS(エイスース)は強気の姿勢を示している。
前述のIDCの調査によると、ASUSも2023年第1四半期の世界全体のPC出荷台数は前年同期比で30.3%のマイナス。
ASUS自身も、2022年度通期決算の中で2023年第1四半期の見通しでPCセグメントは、15〜20%のマイナス成長を見込んでいる。
ASUSは2022年Q4決算の中で、2022年のPC事業(PCパーツ、IoTセグメントなどは除く)は厳しい環境下でも健闘した旨をまとめている。
出典:ASUS
世界的なPCの需要低下について、ASUSのシステムビジネスグループ アジア太平洋地域ジェネラルマネージャーのピーター・チャン(Peter Chang)氏は2022年通期を振り返り、市場全体のPCの出荷台数が-17%だったのに対し、ASUSは-6%に留まったと述べ「市場が萎縮している中で持続的な成長を目指す」とした。
チャン氏は市場のニーズとして「コストパフォーマンス(性能と価格のバランス)の優れた製品」が求められていることを認識しつつ、「新しい市場を見つけ出して、価格競争を避けて投入することが戦略」だと話した。
チャン氏は、ASUSとして今後成長を見込んでいるのは「4つの分野」と説明した。
- ゲーム用ノートPC(とその周辺機器)
- コンシューマー向けのChromebook
- 有機EL搭載ノートPC
- クリエイター向けPC(とその周辺機器)
日本では5月12日に発売予定の「ProArt Studiobook 16 OLED H7604JI」(直販価格:49万9800円税込)。
撮影:小林優多郎
実際、新製品には「Zenbook S 13 OLED」などの有機ELを搭載したモデルや、クリエイター向けの「ProArt Studiobook」シリーズの新製品、コスパを考えた「Vivobook」シリーズの新型が含まれている。
ゲーミングPCについて新製品はなかったが、「ROG」ブランドの展開が好調で、ROGブランドのPCの2022年の出荷台数は前年比で8%増となっている。
Chromebookを除く3分野はそれぞれ、ハイミドル〜プレミアム価格帯のモデルとなるため、チェン氏が説明したように「価格競争を避ける」という意図とマッチする。
ASUSの世界戦略で興味深いのは2023年の注力市場として、日本・韓国のほかに、成長著しいインド市場を挙げていることだ。実はいま、ASUSはインド市場で大きく成長している。
急成長見込むインド市場、日本では新たにCTO販売も予定
自身もインドで5年間働いていたことがあるというピーター・チャン(Peter Chang)氏。
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ASUSにおけるインド市場は、2022年第3四半期限定にはなるが、コンシューマー向けノートPC領域でHPに次ぐシェア2位を獲得し、大きくシェアを伸ばしたことがIDCの調査(2022年11月17日発表)で明らかになっている。
インド市場についてピーター氏は、為替の急激な変動や不安定な政治情勢がありつつも「持続的に投資をしている」とした。
製品自体のレパートリーの拡充もその戦略の1つだ。ただ、オンラインとオフラインの商習慣の違いと(各セグメントへの投資の)バランスが重要だと、ピーター氏は話す。また、傾向は違えど戦略の視点としては「日本も同じ」(ピーター氏)だと言う。
2022年の日本市場では、有機EL搭載ノートPC、クリエイター向けPCで存在感を示せたとするデイビッド・チュー(David Chu)氏。
撮影:小林優多郎
ASUS JAPANでシステムビジネスグループ コンシューマービジネス事業部 統括部長を務めるデイビッド・チュー(David Chu)氏は、「日本市場はかなり成熟している」と、成長性については厳しい見方を示している。
ただし、アニメや漫画、ゲーム、ドラマ制作などの領域で「強いエコシステムがある」とし、その業界にいる人に刺さるような製品(ゲーミングやクリエイター向けPC)を積極的に展開していく方針を説明した。
ゲーミングブランドである「ROG」は、APAC、北米、西ヨーロッパでシェアを広げている。
撮影:小林優多郎
ASUSはプレミアムモデルの「Zenbook」以外にも、コスパのいい「Vivobook」シリーズなどでも有機ELの採用を進めている。
撮影:小林優多郎
また、一般消費者についても、プレミアムモデルではない価格帯のPCにも、色域が比較的広く、発色の良い有機ELディスプレイ搭載機を投入して、「有機EL採用ノートPC」=「ASUS」のブランドイメージを固める方針。
さらにより細かなニーズに応えるため、ASUSはすでに台湾で展開しているが、日本では行っていないCTO(Configure to Order)販売を、「日本でも展開予定」(チュー氏)だと回答している。
具体的なスケジュールや対象製品は現時点では明らかになっていないが、「よりメインストリームな製品から優先的に検討していく」(チュー氏)方針だ。
取材協力:ASUS JAPAN