ベッド・バス&ビヨンドの経営破綻に伴い、同社の「ミーム株」に賭けた投資家の明暗も大きく分かれた。
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- ベッド・バス&ビヨンドは4月23日に連邦破産法第11条の適用を申請した。その後には勝者と敗者が残された。
- ライアン・コーエンとジェイク・フリーマンはこの「ミーム株」で大儲けし、映画『マネー・ショート 』のモデルとなったマイケル・バーリも持ち株の暴落を免れた。
- 一方では大打撃を受けた個人投資家もおり、同社の従業員、仕入先、債権者は苦境に立たされることになった。
2023年4月23日、ベッド・バス&ビヨンド(BBBY、Bed Bath & Beyond)は日本の民事再生法にあたる連邦破産法第11条の適用をアメリカの裁判所に申請した。「ミーム(はやり)株」の劇的な乱高下は突然幕を閉じることになった。
寝具やバス用品といった家庭用品のチェーンを展開する同社の株価は、2020年4月時点で4ドル以下だったが、2021年1月には50ドル以上に急騰、その後99%以上暴落し、5月1日時点では10セント前後で取引されている。
その結果、BBBYの時価総額は2021年初頭には40億ドル(約5340億円)以上だったが、5月1日時点では5000万ドル(約65億円)以下にまで急落している。その原因として考えられるのは、ミーム株としての興奮が冷めたこと、政策金利がほぼゼロから5%程度に急上昇したこと、パンデミック時には景気刺激策として政府が給付金をばらまいていたが、現在は不況に備えて身構えるフェーズに入り市場センチメントが変化したことなどだ。
BBBY株の劇的な高騰を利用した投資家もいれば、その痛烈な下落に巻き込まれた投資家、経営破綻によって苦しむことになった者もいる。このミーム株を巡る主な勝者と敗者を紹介する。
勝者
1. 売り抜けた投資家
Chewyの共同創業者でゲームストップ(GameStop)の会長でもあるライアン・コーエン(Ryan Cohen)は、BBBYの株を2022年の第1四半期に13ドルから17ドルの価格で購入した。同年8月に同社の株価が30ドルまで高騰すると、彼は持ち株とコールオプション(買う権利)を約1億8900万ドル(約250億円)で売却し、8カ月弱で推定6800万ドル(約90億円)の利益を手にした。
Freeman Capital Managementを運営する大学生のジェイク・フリーマン(Jake Freeman)は、BBBYの株を約2500万ドル(約33億円)で購入したことを7月下旬に明らかにした。それから1カ月も経たないうちに持ち株全てを1億3000万ドル(約174億円)以上で売却し、約1億1000万ドル(約147億円)の利益を得た。
映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転(原題:The Big Short)』のモデルとなった投資家マイケル・バーリ(Michael Burry)は、購入のタイミングからすると株価が暴落する前に売り抜け、BBBY株で確実なリターンを得たと見られている。バーリが運営するヘッジファンド、Scion Asset Managementは、2019年第3四半期末と2020年第2四半期にBBBY株を購入した。この株に個人投資家の買いが殺到する2021年1月よりも前のことだった。
2. 空売りをした投資家
BBBY株に賭けた投資家たちは、2021年1月に株価がピークに達して以来、13億ドル(約1730億円)を手にしたと、ブルームバーグがS3 Partnersのデータを引用して4月25日に報じた。
空売りをした投資家は過去12カ月間で時価評価額1億4200万ドル(約190億円)の利益を積み上げたという。
3. 顧客(短期的に見た場合)
BBBYは、債権者への返済に向けて資産の整理しながら、同社が展開する家庭用品店の360店舗とベビー用品店(buybuyBaby)120店舗の営業を続けるとしている。多くの商品が大幅に値下げされると思われ、顧客は掘り出し物を手に入れることができるだろう。
敗者
1. 個人投資家
2021年1月以降、株価が99%以上暴落していることから、BBBY株をまだ保有している投資家は、巨額の損失を抱えている可能性が高い。
Vanda Researchのデータをブルームバーグが分析したところ、過去2年間で7億3000万ドル(約970億円)以上の資金をBBBY株に投入した個人投資家たちは、今年、約1億4000万ドル(約186億円)の損失を被った。
BBBY株が大方の予想通り上場廃止になると、株主が保有株に見合う価値を取り戻すことはまずない。企業が倒産すると、債権者や社債権者が先に救済され、その後に株主が救済されることが多いからだ。
2. 従業員、仕入先、債権者
BBBYは、従業員や仕入先への支払いを継続し、運営費を賄うために2億4000万ドルの信用枠を利用できるように破産裁判所の承認を求めている。
だがそれが承認されたとしても、同社の従業員、仕入先、債権者は、破産手続きによって彼らが被る影響について不安を感じるはずだ。
BBBY、あるいは同社を買収する者がいるとすれば、彼らは事業の見直しや再生を図るために、従業員数を減らし、取引先との契約を解除し、債務免除を目指すかもしれない。
3. 顧客(長期的に見た場合)
BBBYのファンは、お気に入りの商品をお得に購入できるかもしれないが、長い目で見れば損をする可能性がある。同社は今後、店舗数の削減、商品提供の合理化、店舗スタッフの削減を図るか、あるいは完全に閉店するかもしれない。
経営破綻によりBBBYが今後どうなるのか、判断するのは時期尚早だが、すぐに健全な状態に戻るとは考えにくい。